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 貴人街の高級宿や領主、家臣の邸宅で働いているのは、東の戦争で破れた小さな王国にいた執事や侍従、侍女、騎士たちだ。

 彼らは戦争で奴隷となり、偶然アーロンに買われた。

 今はアーロンによって奴隷から解放され、アーロンに忠誠を誓っている。

 元々いた奴隷たちも奴隷から解放されており、彼らもずっとアーロンに付き従うつもりだった。

 因みに、奴隷紋をアーロンがどうやって消したかといえば、石の王で作れる解呪石という石で消した。

 奴隷から解放されて貴人街でいきいき働いている彼らは高級宿に泊まりにやってくる貴族たちの間で評判が良い。

 貴人街の高級宿にやってくる貴族たちは何を目的にやってくるかといえば、ヴァルトの美味しい食事が主な目的の貴族もいれば、精霊の森が目的の貴族もいる、そして、ヴァルトダンジョン一階層の青の洞窟を目的とする貴族もいた。

 本日初めてヴァルトに観光に来た貴族もいる。

 王都に比較的近い土地を持つルラック伯爵家がそうだ。

 ルラック伯爵当主と夫人は仕事が終わらず、次期当主の長男コンラッド・フォン・ウォード24歳と三男コリン15歳、次女オリビア12歳の三人で観光に来ていた。勿論、侍従、侍女、護衛つきだが。


「うわあ、凄い人……それに、道が広いわ」


 天真爛漫なオリビアが馬車の窓から外を見て歓声をあげる。

 コンラッドもコリンもアルディージャの盛況ぶりには驚きを隠せなかった。


「私たちの領都よりも広いように見えるし、石畳に歪みがないからか馬車が揺れない。この都市に入ってから寒くもない。この領地には優れた技術を持った者達がいるんだろうな」


 コンラッドは感心した様子だ。


「温度が一定に保たれる魔導具があるのかも……気になる」


 コリンは魔法がとても好きで、魔導具にも造詣が深い。

 興味津々だ。

 わくわくしている3人を乗せた馬車は中央通りを進んで商人街を通りすぎ、更に城壁に囲まれた貴人街に入った。

 限られた人々しか入れない貴人街だが、馬車が多く行き交っている。それだけ、観光に来る貴族が多いということだ。

 3人を乗せた馬車は高級宿【赤薔薇亭】の前に停まった。

 貴人街には赤・白・青と色に分かれて薔薇と百合の名を冠する高級宿が6つある。

 赤は一番お安く、白が中間、青がお高い宿になっている。

 ルラック伯爵家は旅行する余裕はあるが、無駄金は使わない主義なのだ。

 馬車からコンラッド、コリンが降りて、オリビアをエスコートする。

 3人は仲良く談笑しつつ、侍従と侍女、護衛を連れて宿に入った。

 4階まである赤薔薇亭は外観も豪華だが、内装も素晴らしく、調度品も高級なものと一目で分かる程であった。

 働いている人々も洗練されている。

 一人の宿のスタッフらしき男が、宿に入ってきたルラック伯爵家の侍従に声を掛けた。

 侍従からルラック伯爵家の名を聞いたスタッフは、腕輪に手を当て、ホログラムウインドウを侍従に見せると、チェックインの手続きの為に、サインを求めた。

 侍従が戸惑いつつもサインを終えると、スタッフは侍従に宿泊部屋へ案内しても構わないか聞いて欲しいとお願いした。

 ただの宿の従業員が貴族に直接聞くことはマナー違反になるからだ。

 侍従から話を聞いたコンラッドは「では、案内して貰おう」と言うと、スタッフは一行を案内し、エントランスの中央にあるクリスタルのような宝石でできた円形の台座に案内した。

 台座の側面には「4」という数字が模様のように刻まれている。


「こちらの台座は4階へ直通する台座です。台座に乗りますと、自動的に4階に移動します」


 コンラッドは興味津々で先頭切って台座に乗ったので、護衛の一人が慌てて後を追う。

 2人はすぐに光に呑まれて消えた。

 そして、すぐに光と共に現れた。


「これは素晴らしい!」


 カッと目を開いてコンラッドは大きな声を発した。従者たちは内心、「キャラが変わっている」と思いつつ、台座に興味を示した。

 コリンとオリビアは最初から興味津々だ。


「コリン、オリビア、行こう!」

「はい!兄上」

「勿論ですわ、お兄様」


 3人は一緒に台座に乗って4階に向かった。

 従者たちは慌てて後に続き、最後に誰も残っていないのを確認したスタッフが乗った。

 スタッフはまず、ルラック伯爵家の3人用の部屋へ一行を案内した。


「うわ、凄い豪華……」


 コリンは部屋の広さと豪華さに驚き、感嘆した。

 スタッフが3人に鍵として渡したものは銀色の腕輪だった。


「この腕輪を扉に翳しますと解錠されます。それ以外は自動的に施錠されます」

「すごい……これを作った人に会いたい。君、製作者を知っているかい?」


 コリンはスタッフへ迫った。


「製作者は領主様のご嫡男です。会談は予約制となっておりまして、1年先まで埋まっております」

「1年以降は?」

「ご嫡男が10歳となり王都の学園へ入学することとなっておりますので……在学中に取れる予約も埋まっております」

「10歳……今は9歳?いや、天才なのだろう……しかし、学園か。私は学園に在学しているから、会うこともできるだろう。予約は大丈夫だ。ありがとう」

「では、私は従者の皆様をご案内致します」


 侍従と侍女、護衛を一人ずつ残して、それ以外の従者をスタッフが部屋へと案内した。

 従者たちの部屋は2階に用意されている。トイレ・シャワーつきの男女別の6人部屋が16部屋用意されている。

 因みに4階の貴族専用のVIPルームには、侍従や侍女、護衛が待機できる部屋もある。

 従者たちが戻って来る前に用を足したくなったオリビアは、トイレに驚くこととなる。

 トイレは大人用と子供用があった。

 オリビアは大人用のトイレに座った。

 トイレに座るとオリビアの前にホログラムウインドウが現れ、音楽を選択できるようになっていた。

 自然音が何種類か、そして何曲かのオーケストラの音楽。

 オリビアは恐る恐る、鳥と風という自然音を選んだ。

 すると、どこからともなく鳥と風の音が流れて来る。

 そして、ホログラムウインドウに『トイレは完全防音魔法が付与されています。音楽をお楽しみください』と表示された。

 オリビアは驚きながらも、最高にリラックスして用を足すことができた。

 ホログラムウインドウから紙のような白い何かが出てくる。

 『トイレ用の紙です。ご利用ください』と表示された。オリビアが触れたその紙は驚くほど柔らかく、しっとりとしており、滑らかだった。

 恐る恐るオリビアが取り出そうとすると、紙がどんどん出てきた。

 『必要な分を切ってください』。とホログラムウインドウの指示が出たので、オリビアは切った。

 オリビアは余りにも素晴らしい紙に恐れ戦きつつも、下部を綺麗にして、紙をトイレに捨てた。

 ホログラムウインドウに二つのマークが並んだ。

 マークを注視すると説明が出る。

 水のマークは広い範囲の洗浄。おしりのマークはお尻の洗浄を指している。

 オリビアは水のマークをタッチした。


「!?」


 オリビアは優しく暖かい水流に瞠目する。

 因みにこの水、浄化の作用がある。


「素晴らしいですわあああ」


 暫くして慣れたオリビアはほわんとした表情で思いの丈を叫びつつ、水流を止めた。


「危ないところでしたわ……」


 オリビアは紙で下部を拭いてトイレに捨てる。

 立ち上がって改めてトイレを見ると、何もなかった。

 トイレには不要物を分解して魔力にする効果がある為だ。

 オリビアは感心しつつ、トイレから出た。





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