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 早いもので、アーロンは9歳となり、夏らしくないヴァルト領の夏を迎えた。

 最近、アーロンは5歳になった弟のルーカスと一緒にブランコをするのがブームになっている。


 それはさておき、ヴァルト男爵領が栄え始めた頃を振り返って今のヴァルト領を見ると、当時のヴァルト領を知る者であれば「ここは何処だ」と言うくらい変わった。

 道は土の道であったのが、舗装されて石畳になっている。

 アーロンが石の王で作成した石畳なので、普通の石畳よりも均等で滑らかで平らだ。しかも、魔石が混じった斑岩はんがんを使っていて、破壊不可と清潔と滑り止めと温度調節の魔法陣が刻まれている。

 斑岩は、硬く、吸水率が低く、摩耗に強い。産出量が多いエレツ王国では『永遠の岩』と呼ばれている。他の国でも似たような呼び名がある。

 そんな斑岩をふんだんに使った道が街中に張り巡らされ、温室と旧領主館と新領主館、迎賓館を中心として、円形に家々が広がっている。今や、街と言っても過言ではない。堂々と領都アルディージャと呼べるだろう。

 領都アルディージャの北西は冒険者街、北東は旅人街、南西は領民街、南東は職人街、中央外側は豪商の家や貴族向けの店が並ぶ商人街、中央の領主居住区を中心として広がるのは、貴族が滞在する宿や重臣たちの住まいが並ぶ貴人街がある。

 この街を作ることになった当初、アーロンの力を隠しきるのは難しいと感じたロベルトとソフィアは逆に誇示して畏怖させようという方向でアーロンを守ることにした。

 まず、アーロンが魔物を簡単に倒すことができる魔法使いだということ、剣聖すら倒す剣術の使い手(魔法の補助が必要だが)だということを村人に商人へ噂として広めてほしいと伝えた。

 村人はこの村を発展させてくれているアーロンへの恩返しになるならと、熱心に商人に噂を広めた。

 商人たちは行く先々で噂を広めた。

 ソフィアとロベルトは昔の学友など使える伝手を全て使って噂を広める手伝いをした。

 噂は噂を呼び、今や極北には、神に祝福された化け物のように強いヴァルト男爵令息がいると、王都でまことしやかに噂されている。

 アーロンが聞いたら、「勘弁してよ」と苦笑するだろう。

 そんなこんなで、アーロンの力を誇示するようになったロベルトとソフィアは、ヴァルト森の手前にある精霊の森も、ヴァルト山脈のダンジョンも国に報告した。

 精霊の森は取り上げられはしないが、国の重要な宝ということで国宝として登録された。

 ダンジョンも国にあるダンジョンの一つとして記録が残されることとなった。

 ダンジョンを公開することになったことで、冒険者ギルドと商人ギルドの誘致がスムーズに進み、ありとあらゆる店舗が建つこととなった。

 建築費用はヴァルト男爵(アーロンが立替)が持ち、多くの大工職人か建築クランがヴァルト男爵領に集い、2年で街が出来上がった。

 建材をアーロンが石の王で作ったことで建築費用は大幅に削減できた。

 そして、現在、ヴァルト男爵領には多くの冒険者、旅人、職人、商人、聖職者、貴族が集い、大繁盛していた。太陽の沈まないヴァルト男爵領と最近は呼ばれている。

 極北なので、寒さが厳しいかといえば、街中はそうでもない。

 街の外周にある城壁には様々な魔法陣が刻まれており、その中に温度調節の魔法陣もあるので、街中は温かい。

 果樹園は温室、野菜畑と小麦畑にはオリハルコンの杭が埋め込まれ、そこも温かい。

 逆に、それ以外の場所は寒いので、外套が必要になってくる。

 精霊樹や精霊石の影響で寒さは以前よりも良くなってはいるが。

 ヴァルト男爵領に様々な人々が集まるのには、様々な理由がある。

 主だった理由としては、精霊の森とヴァルトダンジョン、美味しいご飯などだ。

 最も大きな理由としては、税金が少ないことだろう。

 古くから地代しか取っていなかったヴァルト男爵領では、街が発展してきてから領地運営の為に慌てて納付金と市場税と営業税を取り入れた。

 納付税は日本的に言えば住民税。

 市場税は定期市に参加する時に支払う税だ。

 営業税は営業による収益に課される税。

 楽市楽座のように市場税はない方が発展するかもしれないが、市場税がないと、色々な行商人が集まり過ぎて、クレームの元になってしまい、治安的には良くない状況だったので、ヴァルト領では市場税を取り入れた。

 ヴァルト領にある税は地代と納付税、市場税、営業税のみということになる。

 これは、他の地域と比べると余りにも少ない。

 普通の領地ならば、人頭税・地代・保有地移転税・賦役・死亡税・相続税・施設利用税・納付税・通行税・市場税・間接税・入市税などをかけるのが一般的だ。

 それを鑑みれば、エレツ王国で最も税の少ない領とも言えるだろう。

 その噂を聞いた他の領地の領民がざわついたのは言うまでもない。

 が、無断で領民が領地を出て、他領に移住という行為は犯罪行為であり、それを実行した者には死刑が課される。

 ヴァルト領に亡命したとして、普通に生活できる伝手もない彼らにとっては、夢のまた夢の話だったので、他領の領民が押し寄せることは起こらなかった。

 もし、他領に移住という行為が犯罪でなかった場合、大変なことになっていただろう。

 アーロンは教養の勉強でその事を知ったとき、この慣習を最初に作った旧王国のベンジャミン・フォン・ヒューズさんに不謹慎かもしれないが感謝したそうな。





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