俺はショーン・ウォード。
ヴァルト男爵領のアルディージャ村で細々と農家をしている地味なおっさんだった。
細々と農作業をしていたある日、領主館の前に温室というものができていた。
ちょっとしてから領主館の後ろに新しい立派な領主館ができた。
なんでも男爵様のご嫡男のアーロン様が作ったらしい。
あれ、アーロン様って3歳だったような……どうやって作るんだ?
それから、凄い数の奴隷がやってきた。なんでもアーロン様がお金を稼いで買ったらしい。
え、アーロン様って、本当に3歳なのか?
という俺の疑問は、奴隷達が農作業を手伝ってくれて作業が楽になったことで吹っ飛んだ。
楽になれば何でも良いと、俺は思う。
それから、作物が急に元気になった。
アーロン様が精霊様の石を作ってどうにかしたらしいとか可笑しな噂が流れたけども、とにかく作物が元気なら、それで十分だった。
この頃くらいにアーロン様は『どじょうかいりょう』という魔法を使って、土を弄り始めた。
俺も皆もただ子供が遊んでいるのかな、と思っていた。
そんな遊びが始まった頃に俺たちは『ヴァルトバングル』を与えられた。
このヴァルトバングルもアーロン様が作ったらしいが、性能がとても良い。
荷物はいっぱい入れられるし、緊急時には館前に転移できるらしい。
ビデオ通話という、遠くにいる相手と話もできるし、遠くにいる相手とチャットという機能で文章でやりとりもできる。
この頃にはアーロン様はすげえ神童じゃないかって皆よく話すようになっていた。
ヴァルト森に凄いでっかい剣が突き刺さり始めた頃には作物は凄い早く収穫できるようになった。
アーロン様って本当に何者なんだろうと、少し畏れはしたが、作物の圧倒的な美味しさを前に吹き飛んだ。
けど、この頃から俺たちは暇になってきた。
俺は最初、他の男衆と木工品を作っていた。
けれど、妻が羊毛フェルトを作っていたとき、ビビッと来た。
これ、ボールみたいにして人形つくったら、どうなる?って。
それで、俺は羊毛フェルトボールを作って、人形っぽいのを作った。
可愛くて和む人形だ。
偶々そばを通ったアーロン様が、俺の作った人形を見て、『ゆるきゃら』と呟いていたので、この人形の商品名はゆるきゃらにした。
凄いぴったりな名前だと俺は思う。
アーロン様の命名が良かったのか、ゆるきゃらは行商人が高く買い取ってくれた。
そのお金で俺はヴァルト領産の高めのエールを買った。
今日は男衆の飲み会の日で、俺がお酒を担当するからだ。
こうして充実した生活を送れるのは、アーロン様のお陰と言っても過言じゃないと思う。
俺も皆もアーロン様のことを『奇跡の神童様』って呼んでる。本人は否定しそうだから、本人の前では言わないけど。
そんなことを思いつつ、俺は男衆の宴会場で乾杯の音頭を取る。
「奇跡の神童様に、」
「「かんぱーーい!」」
俺たちは笑顔でエールの入ったコップを掲げた。