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 リートが思いついたのは、ヴァルトバングルの収納機能にドワーフの炉を入れることだった。

 長老イアンは悩んだが、それ以外に手はないと判断し、リートに託すと決めた。

 そして、リートはドワーフの炉を全てを収納し、ドワーフの里にいる全てのドワーフと共にヴァルトへ転移した。

 旧領主館前にある帰還ポイント周辺にドワーフたちが現れて、近くにいた大工職人は驚いた。

 リートはアーロンとロベルトとソフィアにドワーフを連れてきた旨のチャットを入れた。

 一番最初にやってきたのはロベルトとソフィアだった。


「リート殿、この方々がドワーフの皆さんですか」

「はい、そうです、ロベルト殿。彼らにも事情があり、ドワーフの里の全員に来て貰いました」


 アーロンの父であるロベルトに対して、リートは敬うが、傅きはしない。アーロン個人に忠義を誓っているからだ。


「全員……それでこんなに」


 ロベルトはドワーフが百人以上いることに納得した。


「リート殿、ドワーフの皆さんには職人街に住んで貰うこととします」

「はい、ただ……」


 リートはドワーフの炉についてロベルトに話した。


「ふむ、それは大工の方々に改修していただく必要がありますね」

「はい」

「では、私は大工の皆さんに話を通しておきますわ」


 ソフィアはそう言って大工たちのいる場所に向かった。

 リートはアーロンの元に知らせに行き、ロベルトは、ドワーフたちにヴァルト領についての話をして、アーロンを待った。


「父上、お待たせしました」

「すまないね、アーロン。ヴァルトバングルをドワーフの皆さんに渡して欲しいんだ」

「了解。……皆さーん。今から配るものがあるので並んでくださーい」


 言葉はヴァルトバングルの翻訳機能で通じるようになっている。

 椅子に乗ってふよふよ浮遊しているアーロンを興味深く見つつ、ドワーフたちは並んだ。

 一人ずつ、加工しないようにと念押ししてアーロンはヴァルトバングルを渡す。

 とはいえ、加工しようとしても破壊不可の付与がされているので無理だろう。

 ヴァルトバングルを受け取った一人目のドワーフがオリハルコンでできていることを見抜くとドワーフたちはどよめいた。

 オリハルコンという素材は滅多に出ないレア中のレアなので、ドワーフの羨望の的なのだ。

 アーロンがヴァルト山脈からオリハルコンが出ることをドワーフたちに伝えると、ドワーフたちは歓声をあげた。

 彼らは素直にヴァルトバングルを嵌めて、その機能に驚き、また喜んでいた。

 だが、若いドワーフがあることを思い出した。


「そういえば、ここにはお酒はあるのでしょうか?」


 酒。ドワーフにとっては水に等しい必需品。ドワーフの生命の源と言っても過言ではない。

 大事なお酒だ。

 アーロンはにこっと笑顔を浮かべた。


「勿論、お酒は色々ありますよ。最近お酒の開発にのめり込んでいる者達がいて、葡萄酒・エールは勿論、ビール・清酒・ウイスキー・ブランデー……他にも開発してるらしいです」


 お酒が飲めるということで酒樽は大工たちが張り切って造り、酒は農夫たちが先陣を切って造っており、今も種類が増えているようだ。

 因みに、お酒に必要な米と大麦は豆畑と小麦畑の隣に場所を作って、育てている。

 とりあえず、ドワーフたちはお酒が飲めるという事実に喜び、雄叫びをあげた。

 ドワーフたちを職人街に案内し終えると、リートはアーロンに一言断って、ハーフリングの里に転移した。

 アーロンはまたすぐにリートがハーフリングたちも連れてきそうな予感を感じた為、大工たちを手伝いつつ待つことにした。

 リートは1時間後にハーフリング132名を連れて戻ってきた。

 そして、ハーフリングたちをアーロンに任せると、今度は「とあるエルフの里に行ってきます」と言って、転移した。

 そして、アーロンたちがハーフリングを捌ききったあとに、エルフ128名を連れてきた。

 リートが連れてきたハーフリングもエルフも里が戦争に巻き込まれそうな位置にあった為、スムーズに話が通ったようだ。

 ハーフリングは職人街の一角に住まうこととなった。

 エルフたちは彼らのたっての願いで精霊の森の近くに村を作ることとなった。

 村ができるまでは領民街の一角に住み、村ができたら移動することとなった。

 エルフとハーフリングとドワーフたちの食糧はヴォルペ村の周辺にあるアーロンが所有する畑から刈り取り、それぞれのお宅の代表者のヴァルトバングルに分配された。

 これはヴァルトバングルの解放された新しい機能で送付機能という。送りたい相手に物品を送る機能で、転移機能を応用したものだ。

 勿論、危険物は送れない仕様になっている。

 因みに、村人とアーロンの畑の違いは何かといえば、村人の畑は、領主から村人に貸し与えられているもので、地代として毎年、収穫物の一部を物納して貰っている。貸与しているものだが、一応は村人の土地なので、勝手に収穫物を取り上げる訳にもいかない。

 アーロンの畑というのは、魔の森を開拓してアーロンが作った畑だ。

 土地は開拓者であるアーロンのものとしてロベルトが既に届け出ており、名実ともにアーロンのものだ。

 ヴァルト男爵位を継げば、アーロンはヴァルトの土地の領主になるので届け出は不要じゃないか、とアーロンは言ったが、そこはきっちりしておくのが大事だとロベルトに諭された。

 この畑などはアーロンのゴーレムたちと奴隷たちによって管理されている。

 アーロンが自由に使える土地だから、収穫物もアーロンの勝手でエルフやハーフリング、ドワーフに分け与えられる。

 そして、広大な土地に作った畑に育った作物だからこそ、分け与えることができる。

 やってきたばかりのエルフやハーフリング、ドワーフに対する税について、ロベルトとソフィアとアーロンはよくよく話し合い、1年間免除ということになった。

 1年あれば、落ち着いて暮らせるだろうという希望的観測からだ。

 それに、ロベルトもソフィアもアーロンも彼らを全力でサポートするつもりだからだろう。

 1年後には、アルディージャ街も完成する。

 アーロンは未来が楽しみで仕方なかった。




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