建設途中のアルディージャ街をアーロンは真っ先にできた時計台の屋上から眺めていた。
アルディージャ街の南半分、領民街と職人街はほぼ完成している。
「ねえ、リート」
「なんでしょう、アーロン様」
「ドワーフの知り合いとか、職人の知り合いとかいる?」
「ふむ、千年前と場所が変わっていなければ、知っておりますよ」
「ここに住んでもらうのは難しいかな?」
「……ヴァルトにはアダマンタイトの出るダンジョンがあり、最近、山脈からオリハルコンも採掘できるようになりましたよね?」
「うん」
「ドワーフは伝説の鉱石に興味が湧くでしょう。……あとは酒があれば」
「お酒はなんとかできると思う」
「ならば、大丈夫だと思います。他の職人ですが、手先の器用なハーフリングがいいと思います」
「ハーフリング?」
「ええ、小さい見た目の種族で、服飾・建築・木工・彫刻・彫金、そして魔導具も造る種族です。ヴァルトには最高品質の羊毛がありますし、アルディージャ森とヴァルト森の木々は丈夫なのに加工し易い、精霊樹まである。興味を持つ者は多いでしょう」
「ほう」
「ご命令あらば、連れて来ましょう」
「……うーんと、連れて来るというか、自発的に付いて来てくれる人だけ連れて来て欲しいな」
「分かりました」
「あ、ちょっと待って」
アーロンは自身のヴァルトバングルを操作した。
「今、リートのヴァルトバングルの機能を拡張して、エリア転移もできるようにしたから、連れて来るなら転移でね」
「かしこまりました。アーロン様、行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
リートはヴァルトバングルによって転移した。
アーロンはリートを見送ってから思った。
(行き先くらい聞いておけば良かったかも)
ま、いっか。と言ってアーロンは青空を見上げた。
リートは大陸の東にあるスルス帝国と周辺国の境にあるリーメス山脈にあるドワーフの里の入口にやってきた。
門番はリートに槍を向けて警戒する。
「何者だ!」
リートは微笑む。
「私はリート・アールヴ。エルフの尊き血を引く者」
門番たちは驚きつつも槍を下げなかった。
「エルフの尊き血を引くお方であろうと、今、通すことはまかりなりません」
「お帰り下さい」
一歩も引かない門番に、リートは溜息を吐いた。
「仕方ありませんね」
一旦出直すか、とリートが踵を返したとき、背後から
「お待ちくだされ」
「「長老!?」」
杖をついた白い髭の老いたドワーフが現れると、門番たちは跪いた。
「お久しゅうございます、リート様」
「む?……お前、イアン坊か!」
リートと長老は既知の仲だった。
「老骨を坊と呼ぶのはお止め下され」
「すまない、懐かしくてな」
長老イアンに招かれてリートはドワーフの里に入った。
リートは周囲を観察しつつ、長老についていった。
(多くの大人が警戒しているな、何かあったのだろう)
そう思いつつ、リートは長老の家に招かれた。
ソファーに座ったリートの前に茶色っぽいお茶が置かれた。
「龍茶か」
龍茶はこの世界では、特別な茶葉の新芽からのみ作られる貴重なお茶だ。
「ええ、特別なお客様には出しております」
「それは光栄だ」
爽やかな香りと味の中にコクを感じつつ、リートは龍茶を飲んだ。
「で、ドワーフの里に危機が迫っているようだが」
「帝国がそろそろ攻めて来そうなのです」
「……このまま手をこまねいていれば、この里は蹂躙されるぞ」
「しかし、我らはこの里を捨てる訳にはいかないのです」
長老は視線を外に向けた。
外には巨大な炉がある。
「ドワーフの炉だな」
「ええ、我らにとっては命と同じものです」
これは困ったな、とリートは腕を組み、ヴァルトバングルに目がいった。
(これだ)
リートはにやり、と笑った。
「イアン坊、その問題、解決できるぞ」
「はい?」
長老イアンは首を傾げた。