戻ってきたアーロンを一番に迎えたのはリートだった。
不意に跪いたリートは、真剣な表情を浮かべ、アーロンに言った。
「アーロン様。……私はアーロン様にこの身と魂を捧げ、永遠に付き従うことを誓います。【魂の誓い】」
リートの身体が淡く輝き、リートからアーロンに向かって糸が伸び、繋がった。
「うん?これって、」
「ふむ、古い精霊術だな、魂の誓いなんぞ覚えているエルフがいたとはな。……ん?お前、成程な」
アルベロはリートを見て納得したように頷いた。
アーロンは気になったことをアルベロに問う。
「ねえ、アルベロ。その、魂の誓いって何?」
「死した魂は汚れを落とし、また、世界のどこかに産まれる。魂の誓いをした者は、誓いをした相手の魂に対して従属するようになる。つまりは、永遠に付き従うという誓いだな」
「ええ!?これって解く方法は?」
「相手が世界の理を逸脱する行為をした場合に限り、解けるようになっている」
「世界の理を逸脱?」
「例えば世界を滅ぼしかねない魔法を使うとかだな」
「え、悪いことはしたくないよ」
「では、諦めるんだな」
「……」
アーロンはアルベロに向けていた視線を外し、リートに目を向けた。リートは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「リート、君はどうしてぼくに従おうと思ったの?」
「最初は、私の命を助けてくれた貴方を尊敬していました。貴方に指導する任を賜り、私の指導を真摯に受ける姿、また、村人や奴隷に対し、分け隔てなく接し、様々なものを与える姿、そして、魔物に対して圧倒する力。果ては、精霊王様を召喚して従えてしまいました……この方に従いたいという思いが溢れ、このようなことをしてしまいました。私が目障りであれば、この命を絶つつもりです」
「絶たなくていいから!」
「では」
「……君の誓いを受け入れよう。でも、ぼくが間違っていると思ったら、注意してね」
「はい……!ありがとうございます!我が君!」
「うん、ぼくのことは普通に呼んでね」
「あ、すみません、アーロン様」
(三歳の幼児に対してへこへこするエルフの美男子の図、……シュールだな。ぼく、これでも、美男美女の間に産まれた美幼児なんだけど、エルフの美貌の前には霞んじゃうし、……婚活してるときにリートが傍にいたら、リートがモテてしまって、ぼくの婚期が遅れそうな気がする)
ロベルトは黒髪に灰色の目を持つ、鍛えられた肉体の美丈夫で、ソフィアは茶髪に鮮やかな青い瞳の美女だ。その間に産まれたアーロンは黒髪に鮮やかな青い瞳を持つ美幼児だ。
エルフの美貌には敵わないが、アーロンも中々の美男子になるだろう。
アーロンの危惧は当たるかもしれないし、当たらないかもしれない。
「……よし、今日も開拓がんばろう」
「微力ながらお役に立てるよう、頑張ります」
アルベロ、行こう。とアーロンが声を掛けると、アルベロは察し、魔の森に向けて、その歩を進めた。