エラポス品評会のあと、暫くは商人たちがひっきりなしにやってきた。
アーロン(ガイド)のお眼鏡に叶った一部の商人はロベルトとソフィアとの商談のテーブルにつくことができた。
ジョージが選別してヴァルト領に送ってくれた商人たちも、アーロン(ガイド)の
最終的には野菜の取引を五つの商会、果物の取引を五つの商会が担当することとなった。野菜も果物も増設された温室により、季節に関係なく多種多様な種を育てることができるので、一つの商会だけでは扱いきれないということもある。
パン部門で最優秀を取ったパンの元となった小麦については、熾烈な争いの末、二つの商会が担当することになった。
ヴァルト領の栄える基盤ができ始めていた。
アーロンはリートの精霊術の授業を受けて、精霊術への造詣を深めていった。
精霊術はエルフしか使えないイメージだが、誰でも使える術だとリートは言う。
古代、全ての生き物は精霊を通して術を使っていた。
魔法は精霊術よりも後に作られたものだと。
今日は精霊との契約を結ぶ術を行う。
自分と相性の良い精霊を召喚するのだ。
子供たちが次々に契約していき、アーロンの順番がやってきた。
「我が声が届く者よ聞け、我が力を代償とし、我との絆を結ばんとする者、その姿を現せ。【精霊絆召喚】」
アーロンの前に小さな光が現れたと思うと、その光はどんどん大きくなり、やがて弾けた。
現れたのは、一体の真っ白な牡鹿だった。虹色に輝く立派な角と、緑の瞳が特徴的だ。
[その精霊は、木の精霊王です]
小さなホログラムウインドウが現れ、アーロンに解説した。ガイドだ。
「我が主は小さいな……その小さい身体から溢れんばかりの力は誠に素晴らしい。さあ、主よ、我に名を与えてくれ」
「えっと、うん、君の名前はアルベロだ」
「古代の言葉で『木』を意味する名か、気に入った」
アルベロから光の糸のようなものが出てアーロンと繋がった。アーロンは一瞬のことで気付かなかった。
「そう、良かった」
アーロンは微笑んだ。
「さて、主よ、この地で使われていない広い土地へ案内してくれないか?」
「いいよ。……リート、ぼくをアルベロの背に乗せて?」
アーロンは自分を抱えているリートを見上げた。
「はっ、はい」
やけにぼーっとしていたリートは正気に戻るとアーロンをアルベロの背に乗せた。
「ありがとう。アルベロ、こっち」
アーロンは腕輪から表示させたマップのある場所を指差した。
「ふむ、便利だな」
アーロンを乗せたアルベロは、マップのある場所に向かって、ゆっくりと歩き始めた。
村人や奴隷たちに話しかけられつつ、村の中を移動し、畑や牧草地を通り越すと、広大な平原が現れた。
ヴァルト森をアーロンが開拓して、広大な平原にしたのだ。
この平原、牧草地と同じように、四隅にオリハルコンの杭が埋め込まれており、結界が張られている。
元々ヴァルト森だったので、ヴァルト森の魔物を寄せ付けないためだ。
「アルベロ、ここだよ」
「おお、ここなら、良さそうだな」
アルベロは平原に足を踏み入れると、立ち止まる。
地面から光の粒が湧き出し、それが周辺へと広がった。
アルベロ自身も光を纏っている。
「来い」
アルベロの一言で、辺りが眩く光り輝き、真っ白な木々が現れた。
真っ白な木々は、淡い虹色の光を纏っている。
「これは?」
「精霊樹だ。この地には精霊石があるだろう、我がいるのに、精霊樹が無いなどと土の精霊王に知れれば、あやつに笑われてしまうからな」
「あー、うん」
「その精霊石はぼくのスキルで生み出したんだ」とアーロンは言えず、曖昧に笑った。
「他の精霊王たちにも来てもらうか?」
「えっと、良いの?」
「対価はいる」
「どんな?」
「主の霊力だな。案ずるな、大した量ではない」
「それならできるかな」
「では、伝えておこう。我らは気まぐれだから、いつやってくるかは分からない。気長に待っていてくれ」
「うん(ぼくが生きている間に来てくれるかな……)」
若干、不安を感じるアーロンを乗せたまま、アルベロは村へと戻っていった。