翌日、アーロンたちが泊まる宿には多くの商人が集まった。
宿の営業妨害になるので、商人たちにはヴァルト男爵領に来るか、もしくはハーフェン男爵を通してくれと伝えると、商人たちは納得したように帰っていった。
落ち着いた頃、アーロンは両親と共にエラポスの奴隷商、コックス奴隷商にやってきた。
人材発掘の為に。
優秀な人材は多ければ多い程良い。
だが、その優秀な人材が若い場合は、適切な指導が必要だ。
だからこそ、アーロンは指導者も探していた。
コックス奴隷商に入ったアーロンはガイドと相談しつつ、両親に担当者との取引を任せて次から次へと優秀な人材をキープしていった。
とある檻の前を通ったとき、アーロンに抱えられたスノウが鳴いた。
その鳴き声に反応して、アーロンは彼を視た。
「とまって」
アーロンの声に止まったロベルトとソフィアは檻の中を見た。
中には、みすぼらしい服を纏った腕と足の無い男がいた。
「彼を買います」
「アーロン」
「彼にしかできない仕事があるんだよ」
「……分かった」
アーロンが同情で買うつもりであれば諌めるつもりだったロベルトは、理由を聞いて、頷いた。
コックス奴隷商では、女好きの元Bランク冒険者とギャンブル好きの元凄腕暗殺者、アルコール依存症の元宮廷薬師、亡国の元騎士団長、四肢欠損した男、将来有望そうな潜在能力がある子供たち8人を購入した。
自作の鑑定眼鏡で彼らのステータスを眺めたアーロンは思う。
(まともそうなのが、元騎士団長と四肢欠損した彼と子供たちか……大丈夫かな?)
若干不安を抱きながらも、奴隷たちにヴァルトバングルの収納機能で空になった荷馬車へ乗ってもらい、自分たちも馬車に乗り込んだ一行は、ヴァルト領へと向かった。
途中の山で範囲転移機能(アーロンや家族、一部の村人のみ使用可)を使って、馬車と荷馬車ごとヴァルト領へ転移した。
転移した後、アーロンは四肢欠損した男の上に神慈石というサファイアのような青い石を乗せた。
アーロン自身が触れないようにハンカチを使って男の胸元に置かれたその石は眩い青の光を放つ。
すると、光の粒が集まって男の腕や足になった。
男にこびりついた汚れも取れて、真っ白な肌とプラチナブロンドが現れた。
男の目がゆっくりと開かれる。
美しいエメラルドのような瞳だ。
男はまるで物語に出てくる美男子のような美しさで、見惚れる者も多くいた。
男は上体を起こし、髪を耳に掛けた。
「あ、エルフだ」
奴隷の内、活発な子供がそう言った。
そう、男の耳は尖っていた。エルフの証拠だ。
エルフの男は活発な子供に微笑み、ゆっくりと、アーロンを見た。
三歳の幼子であるアーロンはたじろぐでもなく、驚くこともなく、エルフの男を見上げた。
「貴方が私を治してくれたのですね、ご主人様」
「……ご主人様は止めて。ぼくはアーロン、アーロンと呼んで」
「流石に敬称をなしにして呼ぶことはできかねますので、アーロン様とお呼びします」
「うん。ところで、君の名前は?」
「私はリート・アールヴと申します」
「そう、リートはエルフだから、精霊術が使えるんだよね?」
「はい」
「ぼくや、この地にいる子供たち、それに奴隷の子供たちに精霊術を教えてほしいんだ」
「かしこまりました。アーロン様」
「ありがとう」
アーロンは、リートが後に女児の心や一部の男児の心を鷲掴みにする初恋キラーになることを知る由もなかった。