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 1ヶ月後。

 乳牛は超絶美味しい乳を出し、肉牛は超絶美味しい牛肉になり、鶏は超絶美味しい卵を産み、羊は超絶高品質な羊毛を生えさせ、馬は逞しくも超絶速く、毛並みが超絶良くなった。

 餌の効果もあるだろうし、精霊石も影響している。

 野菜も超絶美味しいヴァルト領は、今や高品質を産む地とも呼べる。


 ソフィアはいち早く父であるジョージに手紙を書いた。

 ジョージはただならぬ雰囲気を手紙から感じ、いち早く商隊を組んで向かわせた。

 そして、ヴァルト領の牛乳と牛肉を取り扱う商会となった。

 他の生産物の契約を結ばなかったのは、何故か。

 独占するのは他の商会との争いを招くだろうと、止めたのだ。

 ジョージは、幾つかの信頼できる商会にヴァルト領の羊毛を紹介し、取り扱うよう勧めた。

 ヴァルト領の羊、不思議なことに毛刈りをした次の日には毛が生えているので、羊毛は特に多い。

 その幾つかの商会は、ゴーレムが羊毛から紡いだ糸の束に、適正価格よりも高い小銀貨1枚を出す契約をした。


 他の生産物や商品については、北部最大の品評会、エラポス品評会に出品してから売り出すことになった。勿論、現在取引中の生産物も出品する。

 北部の中心地であるノルド公爵領の領都エラポスで開催されるエラポス品評会。

 1年に1回行われる会だが、毎年日程が違う。季節ごとの野菜や果物も品評されるので、平等に品評できるよう、日程を変えている。

 今年は夏季開催で、三週間後に行われる。

 ヴァルトは夏季でも寒い気候なので、アーロンとしては夏という気分ではないが。

 そんなアーロンを引き連れた両親は、アーロンによって改造された馬車に乗って、品評会の開催されるエラポスに向かった。

 14日掛けての馬車旅だったが、サスペンションを付け加えたのと、羊毛のクッションを多めに敷いたことで、酷い馬車旅にはならなかった。

 現地でジョージと合流した一家は、品評会に出す品物が積まれている荷馬車ごとジョージに預けた。

 品評会の出品登録をジョージが代理で行ってくれるので、預ける必要があるのだ。

 アーロンが作った保存魔法陣が刻まれた魔石ガラスのケースを保管用の箱に使っているので、新鮮な状態だ。

 さして心配することなく、一家は宿を取って、観光しながら残りの5日間を過ごした。




「紳士淑女の皆様。お待たせしました。エラポス品評会を開催致します!」


 司会の進行によって部門ごとに品評が行われる。

 生産地と生産者の名および説明が司会の口から紡がれるが、生産者は舞台には出ず、客席で眺めるしかない。

 これは、過去に生産者が試食する審査員にアピールしまくったり、殴りかかったことがあるためだ。


「次の品に移ります。次はヴァルト男爵領ヴァルト村の畑で採れたトマトです。生産者はヴァルト男爵家ご嫡男、アーロン・フォン・シュタイン様です」


 野菜部門の代表としてアーロンがトマトを選んだのは、極寒の地であるヴァルト領で育った夏野菜を自慢したかったからだ。

 アーロンがトマト好きというのも理由の1つだろう。

 ヴァルト男爵領について知っている審査員は目を丸くしつつ、トマトが運ばれてくるのを待った。

 運ばれてきたトマトは瑞々しく新鮮な状態で、審査員たちは、まず見た目の評価で高い評価をつけた。

 一口食べると甘味と旨味がじゅわっと広がり、審査員の舌を楽しませた。

 今まで食べたどんなトマトよりも美味しいトマトだと審査員たちは感じた。

 史上最高点で野菜部門を制したのは、アーロンのトマトだった。


 他にも、アーロンが出品したものは、飲料部門・肉部門・お菓子部門・パン部門・布部門・飼料部門・卵部門で最優秀賞に輝いた。

 因みに、卵は生卵のまま各生産者が持ってきて現地で調理し、審査員の元に出すようになっている。

 アーロンの生卵は魔石ガラスのケースに入れれば浄化され、保存されるので、より安全で新鮮だ。

 肉は大体の生産者が干し肉を用意する。

 アーロンはロベルトに抱きかかえられて、最優秀賞の賞状とボレアース侯爵認定高品質マークの使用を認める許可証と、説明書を受け取った。

 賞金は後で纏めて貰えるようだ。

 会場は、幼児が生産者ということに、ざわついていた。

 帰りに賞金の金貨8枚を貰ったアーロンは、疲れたからか、宿に戻る前に眠りに就いてしまった。





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