アーロンはヴァルト森の魔物の討伐と並行して魔法のレッスンも受けている。
奴隷の中にいた魔法使いカルロ、クロス、キッドが教師だ。
村の子供たちの中で魔法の素養がある5名もアーロンと共に魔法のレッスンを受けていた。
魔力感知と魔力操作は普段からスキルで魔力を使っているアーロンが抜きん出ている。
魔法をいち早く使えるようになったのもアーロンだった。
教師たちが魔法の天才とアーロンを褒め称えるほど、アーロンは魔法のセンスがあった。
「アーロン様なら、賢者の称号も手に入れられるかもしれませんね」
カルロの言葉にアーロンは首を傾げた。
「賢者、ですか?」
「エレツ王国には七賢者と呼ばれる方々がいらっしゃいます。それぞれ、得意な魔法を極められて、その座に就いたそうですね。私からすると遠い存在ですが……」
「七賢者は何ができるの?」
「聞いた話ですが、戦争のときは、敵陣を大きな炎で焦土と化した賢者様もいらっしゃるそうですよ」
「すごいね」
「ええ、本当に」
カルロは微笑みを浮かべ、1冊の本を取り出した。
「ロベルト様が取り寄せてくださった本です。七賢者の第二位、雷鳴の称号を頂くトール様の過去の研究書を纏めた1冊です。読んでみますか?」
「読みます!」
アーロンは新しいおもちゃを見つけた子供のように、喜んだ。
トールの研究書は科学と魔法を掛け合わせたようなもので、日本人だった前世を持つアーロンとしては分かりやすい内容だった。
トールは転生者もしくは転移者だとアーロンは予測したが、真実は定かではない。
アーロンはトールに面会できるくらいの立場を得られるように魔法も極めようと決めつつ、カルロにトールの本『雷鳴トールの研究書合本』を渡した。
その際、アーロンはカルロにいくつかの質問を受けた。
カルロはアーロンの回答に何故か感激した様子で、一層教育熱心な教師になった。
アーロンが1日で『雷鳴トールの研究書合本』を理解したことに感動したのだろう。
カルロに刺激され、クロスとキッドも熱が入った。
子供たちは教師たちの熱量に少し圧倒されつつ、授業を受けたそうな。
優等生のアーロンには教えられることが無いので、ロベルトに優秀な魔法使いの教師を手配して欲しいと教師たちが直談判し、ロベルトがソフィアにお願いして、ジョージが探してくれることとなった。
魔物の討伐やヴァルト森の開拓に力を入れているアーロンがそれを知ったのは、新しい魔法の教師がやってくる当日のことだった。
「え、新しい魔法の先生?」
「そうだ、義父上が伝手を辿って良い先生を見付けてくれたんだよ」
「ええ、お父様ったら、あんなに良い御縁があるなんて一言も仰らないんだもの」
「へえ、どんな先生なの?」
「「見てのお楽しみ」」
「ええ〜」
アーロンが朝食を平らげ、リビングでゆったりマップ(ヴァルトバングルの新機能)を眺めて過ごしていたとき、ヴァルトバングル未所持の人物(黄色で表示される)が領主館の前にいるのが確認できた。
近くにロベルトとソフィアがいるのが確認できるので、この人物が新しい魔法の先生だとアーロンは分かった。
ソファーから降りて、リビングを出て、廊下を抜けると、エントランスホールだ。
エントランスホールの入口付近に、先生の姿が見えた。
ロベルトと同じくらいの背丈のローブを纏った長いお髭のお爺さんだ。
いかにも魔法使いっぽい。