エーベネ山脈の頂上にやってきたジョージと商隊は信じられない光景を目にする。
眼下に広がる森と村の向こうに広大な森と山脈が見えるのだが、所々に巨大な黒い剣が突き刺さっている。
ジョージは、この異常な光景に、娘と孫に危害がないか心配で商隊を急かした。
急いで山を超えてアルディージャ森を抜けて、まず見えるはずの領主館に向かおうとした。
「な、これは……!」
ジョージが思っていた領主館よりも新しく立派で美しい館が、ジョージの知っている領主館の裏にできていた。
新しい館からロベルトが出てくるのを見た、ジョージはすぐさま近づいて、ロベルトが反応する前にその肩を掴んだ。
「え、義父上?」
「詳しく説明して貰おうか、ロベルト殿」
温室と偽家宝の話しか手紙から情報を得ていなかったジョージにとっては寝耳に水といった具合なので、少々お怒り気味だ。
ロベルトから色々と聞き出したジョージは、ロベルトに「相手をしてやる」と言って、広場に連れ出し、試合を始めた。
ロベルトは剣の達人、ジョージは大剣の達人という固有スキルを持っているので、スキルの実力は互角だが、対人戦の経験が少ないロベルトの方が劣勢になっている。
最後はジョージがロベルトの剣を弾き飛ばして、首元に大剣を突き付け、試合は終了した。
「儂がここにいる間は稽古をつけてやろう、私兵団の訓練にも参加すること」
ジョージの商隊を護衛するために私兵もついてきているので、訓練に参加することは容易だ。過去にもロベルトは訓練に参加したことがある。そのときは、特別訓練で地獄を見たので、ロベルトは青褪めた。
だが、義父であるジョージに頭が上がらないロベルトは頷いた。
「はい……」
ロベルトは項垂れた。
夕食の時間になると、ソフィアや村の女衆が料理を持って広場にやってきた。
今日はジョージと私兵団、商隊の商人たちをおもてなしする為、夕食は豪勢だ。
村の男衆も女衆を手伝って配膳している。
お客様の配膳が終われば、自分たちの配膳をする。
ロベルトが全員に飲み物と食べ物が行き渡ったのを確認し、口を開いた。
「我らの出会いを祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
この乾杯の音頭はこの世界でよくあるものだ。新しい出会いも再会も全て奇跡のようなものだから、祝うのだ。
移動手段が少ないこの世界らしい音頭だ。
(魔導列車とか作りたいな……その為には後ろ盾がないとね、)
焚火を眺めながら、王族に偶々会って恩を売れたらなあ、とアーロンは思いつつ、ソフィアが細かく刻んでくれた野菜と肉をもぐもぐ食べる。
今はただ、人々の笑顔を眺めるだけで、満ち足りているアーロンは、微笑みを浮かべた。