ハーフェン男爵領はエレツ王国の少し北寄りの西端にある港町を中心とする領土で、漁業や他大陸との交易で栄えている。
ハーフェン男爵領の北側にはエーベネ子爵領がある。ヴァルト男爵領までは8日間ほどの距離だ。
船でヴァルト男爵領まで行くことができれば3日間程で到着できるだろう。
しかし、アルディージャ村は危険な魔物が生息するヴァルト森に近く、ヴァルトの海域には凶悪な魔物がいるので、海側から上陸することは現実的ではない。
「旦那様、ロベルト様から早馬で手紙が届きました」
新人商人の教育係とハーフェン男爵ジョージ・フォン・テイラーの補佐を務める執事長のポール・デラクールが手紙を持ってやってきた。
「ありがとう、ポール」
受け取ったジョージはすぐに手紙の内容を確認する。
「ふむ」
手紙を読んで考え込むジョージをポールは心配そうに見ていた。
「ヴァルト領で何かあったんでしょうか」
「いや、儂の孫が凄いことになってるらしい」
「はあ……?」
ポールが怪訝そうな表情を浮かべたのをジョージは横目で見つつ、ジョージは手紙を暖炉の火にくべた。
「まあ、他言無用でな。……ポール、確かハリーのところに、やんちゃな坊主がおったな」
ハリーというのは、ハーフェン男爵領私兵団団長のことだ。
「
「孫の護衛にしようと思ってな」
「はあ、……!?」
「まあ、ちょっと矯正してからじゃが」
ジョージはそう言って手紙の返事を書いて、ポールに持たせた。
ポールはやんちゃ坊主に僅かに同情しつつ、早馬に手紙を乗せるべく、急いだ。
7日で届いたジョージの手紙にロベルトとソフィアは目を通した。
「『20日後に要望の品を届ける』か、義父上らしいな」
「ええ、お父様らしいわ」
2人は笑い合い、手紙を仕舞った。
この一言しかない手紙を誰かに見られても問題ないからだ。
「でも、お父様の護衛だけじゃ、無理かもしれないわ……」
「ああ、そうだな……」
2人は新領主館の窓から見えるヴァルト森とヴァルト山脈に生えたアダマンタイトの巨大ないくつもの剣を見て、顔を曇らせた。
あの剣はアーロンが空中から魔物に向かって落とした巨剣で、消すことも可能らしいが、アーロンが今後も使うらしく、残している。
因みに、アーロンは現在、浮遊の魔法陣などが刻まれたアダマンタイトの椅子(クッション付き)に乗ってふよふよ浮かびながら村人の畑に鉱物由来の土壌改良剤を仕込んでいる。
心配するロベルトとソフィアの為に、アーロンは完全防御ができるネックレスを作って、装備している。勿論、ロベルトとソフィアも形状は違うが、同じようなネックレスを身に着けている。
「この景色を悪者に見られたら……」
「いや、逆に恐ろしいと思って逃げるってことも……」
「うちのアーロンを欲しくない
「あ、ああ、そうかもね」
ロベルトはアーロンの強さなら、攫われることもないのでは、と思いつつ、妻には逆らえなかった。