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 男爵領に帰還したアーロンがまず始めに行ったのは温室にクローバーを植えることだった。

 このクローバー、普通に売ってはいないが、極北以外の土地だと道端に自生している。


 アーロンはシュペルリングの冒険者に依頼して、クローバーを集められるだけ集めてもらって、温室を埋め尽くすくらいのクローバーを持って帰ってきた。

 クローバーを植えるのは村人だ。

 村人には報酬を提示してあるので、真っ当な労働だ。


 大工職人は空いている土地に新しい家を建て始めている。

 新しい家には元々いた村人が移動する予定で、村人たちの顔は明るい。

 元々の家は取り壊して新しい家を作る予定だ。その家を奴隷たちの住まいにする予定だが、それでは奴隷たちを一向に呼び寄せられなくなる。

 奴隷たちの住まいについてはアーロンに考えがあった。


 領主館の裏にある広めの土地にやってきたロベルトとアーロン。

 領主館の裏に何故この空間があるのかといえば、木こりが木を切って置いておくスペースが必要だったからだ。

 木こりには少し銀貨を握らせて新たにスペースを作って貰うことになっている。

 アーロンはこのスペースに新しい領主館を建てようとしている。

 ロベルトには許可を貰ってあるので、問題ない。


 アーロンはガイドに建てたい建物について大まかな構想を伝え、ガイドがそれをもとに設計図を作り、建物を生成するときもガイドが補助をすると申し出てきた。申し出ると言っても、ガイドがホログラムウインドウに文章を表示させるという方法なので、厳密には違うのかもしれない。


 というわけで、アーロンはガイドと相談を重ね、構想が決まったところでスキルの発動に繋がるキーワードを口にした。


「【複合石生成】」


 光と共にテンピエットやサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のようなルネサンス様式の白亜の屋敷が現れた。

 屋根だけは青い大理石が使われている。


 この建物、全て大理石でできているが、魔石が含まれている。魔大理石でできていると言った方が正確だろう。

 魔法陣が壁の内側に刻まれており、清潔・温度調節・破壊不可の魔法が常時発動されている。

 外装も美しいが、内装も美しい。家具も優美だが、家具が全て大理石でできているので、硬そうな感じだ。アーロンの固有スキル【石の王】としてはこれが限界だ。


 アーロンが欲しがってシュペルリングで購入したクッションやら、シュペルリングで購入した布と綿とアーロンが作ったコイルを合わせて家具職人に作ってもらったポケットコイルマットレスなどをセッティングすれば、座り心地や寝心地が良さそうな家具に早変わりした。


 そして、この屋敷には地下室があり、倉庫として使える。

 その更に地下には、巨大な精霊石が鎮座している。

 精霊石はその土地を豊かにし、魔物を寄せ付けない効果がある。

 三階くらいの高さと一軒家が入りそうな大きさの精霊石はそうそうないだろう。

 きっと、豊かな土地にしてくれると、アーロンは期待しつつ、放心しているロベルトと共に大工職人たちを監督しているソフィアの元に向かう。


 ソフィアに新しい領主館の話をしていると、大工たちが興味を持って話に参加してきた。

 当初はソフィアだけを案内する予定が、大工たちも案内することになった。

 他言無用と大工たちに釘を差し、ロベルトとアーロンが先導して、新しい領主館を案内していった。

 大工たちは開いた口が塞がらないくらいに驚いていたし、ソフィアも驚いていた。


「この建物をアーロンが魔法で作ったのね、」


 凄いわ、とソフィアは微笑み、アーロンの頭を撫でた。

 アーロンは微笑み、大人しく撫でられる。

 身体が幼子だからか、この両親に甘えることにアーロンは抵抗がなかった。


「この新しい領主館にぼくたちが移動して、古い領主館は一時的な奴隷の住まいにするつもりだよ」

「そうね、それがいいと思うわ。じゃあ、コーズ奴隷商に奴隷たちをヴァルトに連れてきてもらうように、お手紙を送りましょう」

「うん、母上」


 その後、村人たちに手伝ってもらって旧領主館から新領主館に荷物を移動させた一家は、新しいベッドでぐっすり熟睡したそうな。





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