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 ラパンを出て馬車に揺られること2日、アーロンは固有スキルの知識を整理し、今後やりたいことを考えていた。

 やりたいことはいくつもあるが、それをやっていいかは、両親に聞く必要がある。


「父上、母上」

「なんだ、アーロン」

「どうしたの、改まって」

「あのね」


 アーロンは滑舌に注意しつつ、なるべく分かりやすいように自分のスキルを説明し、今後やりたいことを伝える。

 中でも今すぐにやりたいことがあった。


「温室を作りたい」


 冷害に苦しむ領民の為に、アーロンは一刻も早く温室を作りたかった。

 父母はアーロンの話を半信半疑で聞いていたが、我が子が領民の為に何かをしようとしていることに感動して、涙を浮かべつつ、了承した。

 そして、アーロンはヴァルト領にある一応領都として国に登録されているアルディージャ村に着くと、領主館と呼ばれる古びた屋敷の前にある広場に温室を作った。


 温室はつなぎ目のないドーム型の魔石ガラスでできている。

 魔石ガラスというのは、アーロンの固有スキルで作ったもので、ガラスに魔石が混ざってできている。

 この魔石ガラスにはアーロンの固有スキルで加工が施されていて、天井には破壊不可と温度調整と状態異常回復の魔法陣が刻まれている。

 魔法陣についてはシークレットスキルのガイドがサポートして魔石ガラスに刻んだ。

 シークレットスキルのガイドはこの世界のありとあらゆる知識が詰め込まれたスキルなので、魔法陣を刻むことも朝飯前だ。

 普通のガラスでは魔法陣が正常に作動しないため、魔石ガラスで温室は作られた。

 ここで、アーロンの固有スキル、石の王について現時点で、できることを紹介しよう。




▽石の王

全ての石に関する知識を持つ。


石生成︰ありとあらゆる種類の石を生成できる。

混合石生成︰ありとあらゆる石を混ぜて生成できる。

石精製︰不純物を取り除いて純度を高くする。

石加工︰ありとあらゆる石を加工できる。形を変えたり、色々な加工ができる。

石操作︰ありとあらゆる石を操作できる。

石消去︰ありとあらゆる石を消すことができる。




 温室を作る際にアーロンは土壌も改良している。

 土の中に鉱物由来の土壌改良材ゼオライトと各ご家庭から出た草木灰などをふんだんに混ぜ込んだので、作物も育ちやすくなるだろう。

 まずはクローバーなど緑肥になる植物を植えてから、育てたい作物を植えていけば、領民の生活が楽になる。

 すぐに作物が収穫できないのが難点だが、アーロンには別の解決策があった。

 それは、


「アーロン、どうしたの?ダイアモンドじゃない」


 ソフィアは目を丸くして、大ぶりのダイアモンドに驚いていた。


「ぼくが作ったの」

「まさか、固有スキルで?」


 アーロンが頷くと、ソフィアはしゃがんで、アーロンの目線に合わせる。そして、真剣な表情で話した。


「アーロン、貴方は優しいわ。とても。領民の為に貴方のスキルを使うのは良いことよ。でも、悪い人に貴方のスキルを知られてしまったら、貴方は攫われてしまうわ。ロベルトも私もそれを恐れているの」


 アーロンは目を丸くした。

 その可能性は十分考えられる。

 打開策はないか、とアーロンは考えた。


「母上、ヴァルト男爵家には家宝とか、ないの?」

「え、ええ、あるわ」

「どこに?」

「ロベルトの執務室ね」

「行きたい!」

「ふふ、今まで機会が無かったものね、行きましょう」


 ソフィアに連れられ、古い我が家をとたとたと歩くアーロン。

 3歳なので、思うように動かないのは仕方がないが、アーロンは歯痒かったりする。


「ほら、ここよ」


 3階の奥の部屋の前でソフィアはノックした。


「どうぞ」

「失礼します」


 執務室で執務を行っているロベルトは、ソフィアの横にアーロンがいることに目を丸くした。


「珍しいな、アーロン。どうした、私と遊びたいか?」


 アーロンは日中、昼寝か本を読むか散歩をするか村の子供たちと遊ぶか母と話すか、というルーティンしかしていなかったアーロンの訪問はロベルトにとっては意外だったし喜ぶべきものだった。


「アーロンは家宝を見たいらしいの」


 ソフィアの一言でロベルトは撃沈した。

 家宝はロベルトの背後の壁に飾られていた。大剣だ。


「この剣が家宝よ。エルドの剣と呼ばれているわ。あとは」


 ソフィアは執務机の上に飾られている青白っぽい石で出来たピンポン玉サイズのドラゴンに手を向けた。


「ドラゴンの置物も家宝ね。ムーンストーンという石でできているの。ドラゴンに纏わる伝承もあってね」


 その昔、エルドがこの領地を与えられた頃、山でドラゴンに遭遇したそうな。

 ドラゴンはよく眠っており、起きる様子もなかった。

 寝込みを襲う卑怯な真似はできぬ、とエルドはドラゴンを襲うことなく、帰ったそうな。


「だから、この置物も眠っているドラゴンを模したものになっているの」

「へえー、作っても良い?」


 何を、と聞く間もなく、アーロンは空いているスペースに猫くらいのサイズのダイアモンドで出来たドラゴンの置物と、アダマンタイトで出来たエルドの剣に形が似た剣を作った。


「あ、アーロン……」

「ぼく、考えたんだ、家宝の1つだって言って売れば、疑われないんじゃないかってさ」

「そうだなあ」

「あなた!」

「いや、アーロンの言うことも一理ある」

「……そうね、」


 ソフィアはまだ納得していないようだったので、アーロンは言い募る。


「あのね、今作った家宝のダイアモンドとアダマンタイトは魔の森の奥の山脈から採られたものにすれば良いと思う。初代のエルド様が採ってきた原石を加工したものだって、だから、今後は開拓できない限り掘り出せないだろう、って」

「なるほど」

「その代わり、この家宝はできるだけ高く売ってね。二度と使えない手だし、売った資金を元に、家畜とか色々買うんだから」

「ああ、分かった」

「母上」

「ええ、大丈夫よ」


 ソフィアは苦笑しつつ、頷いた。




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