そして現在、俺達はロズの部屋の前まで来ていた。
扉の横に掛かっているネームプレートにだってそう書かれているのだ。だから間違いがないのだ。
チャイムを鳴らすと。中からはーいと声が聞こえた。
プシュッと音を立て、ドアが開いた。出てきたのはブラウンの髪をした、ザリカちゃんと同じくらいの身長の女の子だった。
「あれ、モナーガさんに、ザリカ? ……ああ、そういうことか。わかったよ、ちょうど暇してた所でね。ちょっと準備してくる」
俺達の組み合わせで、察してくれたらしい。中々気が回るな。
彼女はすぐに部屋へと戻り、数分後には準備を終えて戻ってきた。
「とはいえ、これが初の仕事だからね。アタシも張り切ってやらせてもらうよ」
「気合入ってんな。突然お仕掛けて来たのはこっちだぜ? 悪態ついたって文句はねえよ」
「いいんだよ。こういうのは気持ちの問題なんだ。期待に応えられるように全力でサポートさせてもらうよ。なあザリカ?」
「ああ、そうだな。だが私達の本分は戦う事ではない。気負い過ぎない事だな」
「お互い様だろ」
ザリカちゃんが気合いを入れてくれている。これは心強い。
なんていうか、充実感? 今までのむさ苦しい野郎共との組み合わせと比べて、今日は両手に花だ。まったく地獄から天国だぜ。
アルフェンにしろドランにしろ、俺の言う事なんて聞いてくれないしな。
この間なんて相当ひどい目にあったし。あのトラウマは消えそうにない。恰幅の良いおっさんに苦手意識が生まれてしまった。
いや、そんなことはもうどうでもいいんだ。
この充実感のまま、俺たちは早速出発することにした。しようとしていたんだ。
だがその時である。
「あら~モナーガ様? 女の子を二人も侍らせるなんて、随分とお盛んですのねぇ」
背筋のゾッとするような声が聞こえて、振り返ってみるとそこにいたのは、アクアマリンなポニーテールのクールビューティー。
そばにいる二人と、オリジナルが同じ世界の僧侶のクローンで、名前はライフィード。愛称はライ。
顔面に笑みを張り付かせながら、そんな言葉を吐いてきた。
正直この子苦手なのよ。言葉のナイフが鋭いんだ。
ロズが一歩前に出て、ライをたしなめるように言った。
「朝っぱらからつまらない嫌味はやめな、ライ」
「嫌味? はて、わたくしはそのような事をした覚えなどありせん。ただ、まかり間違って嫌味と受け取ってしまったのならば、それは謝りましょう。わたくしとしましては、コミュニケーションの一環としてからかってるつもりだったのですが」
悪びれもせずに、つらつらとそのように応えあげるライ。
「なら尚更タチが悪いじゃないか」
「そうですか~? わたくしの感覚では、冗談は通じる相手に対して行うものですが」
「アンタのは通じないんだよ!」
「失礼ですねぇ。こんなにも愛想良くしているというのに」
「どこがだ!?」
すっかりペースに乗せられてしまったロズを止めるべく、ザリカちゃんがその手を肩に置く。
「そのくらいにしておけ、ロズ。ライ、お前もいい加減にしろ。一体何の用だ?」
「まあ。わたくしとしたことが用件を伝えていませんでした。いえいえ、あんまりあなた達が仲睦まじくしていたものでつい。これからどこかに行かれるのかと聞こうと思いまして。ええ、他意などございません」
「そういうところがいちいち嫌味なんだよ。……俺達はこれからお仕事なのよ。ここまで言えばわかるでしょ? お前もリストの中に入っていたんだから」
「ああ、リスト。そう、そういえばそのような申し出を受けた記憶があります。であれば、丁度よろしい。――早速向かいましょうか」
「へ? うお!」
どういう理屈でか、いつの間にか俺の隣に移動していたライ。
呆れかえる他二人を余所に、その笑顔を崩さない。
こいつ、出待ちしていたな。
「わざわざ迎えに来てくれた事に感謝していますが、その時間を無駄にロスしてしまうわけには参りません。さあ、どうぞ」
(俺がいつ迎えに来たんだよ……)
俺の背中に手を当てるライに、冷えたものを感じたが、そこを掘り下げていってもいいことはないだろうし、俺はザリカちゃんとロズの肩に手を当てるとテレポートを開始した。