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第14話 連行されたらしい

 突如、ショッピングモールを襲ったテロリスト集団は、数時間とせずに鎮圧された。警察が駆けつけた際には、ロープで巻き上げられ、全員が気絶させられていた。


 訳の分からない事態に困惑する警官隊一同であったが、事件に巻き込まれた人々の証言によると、顔を隠した二人組がまたたく間に解決していったという。


 一体、どこの何者なのか?


 疑問を尽きないまま、警官隊は犯人グループの捕縛にかかったのである。



「ままぁ!」


 やっと再開した、母親に涙で抱きつく少女。

 優しく抱きかかえる母の目もまた、涙で赤く染まっていた。


 そんな、親子を遠くから見つめる二人の男達がいた。



「流石にもう付き合い切れん、いい加減に帰るぞ」


「へいへいわかってるよ。ま、仕事は出来なかったけど、良しとしようじゃないの」


 文句を言ってくるアルフェンを横目に、俺は懐からマキナの残骸が入った収納カプセルを親子に向かって掲げる。


「終わったぜお前の仕事。見ろよ嬉しそうな顔してるじゃないの」


 心底安心した女の子の顔を見てそうつぶやいた。こころなしか、カプセルも嬉しそうに見えるぜ。


「で、マキナをどうするんだ?」


「このままにしとく訳にはいかんでしょうよ。俺に一つ考えがある。ま、任せておきんしゃい」


 俺はアルフェンの肩に手を置くと、そのまま自分達の星へとテレポートした。


 ◇◇◇


「お兄ちゃーんッ!!!」


「グアぁッ!!」


 ワープを終えた直後、待ち構えていたように小柄な女の子、ユールーが自分の兄貴であるアルフェンに向かって突撃をかました。


 堪らず吹き飛び、抱きつかれたまま床に倒れるアルフェンはその勢いのまま後頭部をぶつけ、気絶していった。


「もうどこに行っていたの?! 一日ずーっと探していたんだからね!! ボクに黙って勝手に居なくならでよ、絶対のぜーったい!! 約束なんだからね!!!」


 しかし、困った事にユールーのヤツは兄が気絶した事にも気づかず、抱きついたまま言いたい放題だ。


「こりゃ、付き合い切れんね。退散」


 二本目のドリンクの瓶を取り出しながら、俺はそそくさとその場を離れた。





「って事で頼むぜ、タラちゃん。こいつを直してくれ」


「何が、って事なのかわかりませんけど、嫌です」


 タライヤの私室兼工房を訪れた俺はカプセルの中を机にぶち撒け、残骸を披露する。

 そうこれが俺の考えだ。


 俺にはマキナを直す事は出来ない以上、腕の良い技師に頼む必要がある。

 とはいえこいつもなかなかに生意気なもんだから、二つ返事で断って来やがった。


「そこを頼むって言っているんだ。分かるだろう俺の誠意が」


「残念ながら見えませんそんなもの。人に頼むのであれば頭ぐらい下げたらどうですか?」


「お前にはわからないのか? 今この瞬間も心の中の俺は土下座しているということに」


「物理を求めているんです」


「見える見えないの問題じゃないんだ。やって欲しいと頼んでいるんだ!」


「えー」


「えー、じゃないんだ。やって欲しいと頼んでいるんだ!」


「えー」


「えー、じゃないんだ。やって欲しいと頼んでいるんだ!」


「えー」


「えー、じゃないんだ。やって欲しいと……」




 そんなこんなで約束を取り付けた俺は、自室へと戻ってきた。


「お帰りなさい。モナーガさん、今日もお疲れ様です」


「ただいま。いや~スーラ君聞いてくれよ。今日さ……」


 疲れ切った心に、スーラ君の笑顔が暖かく染み渡る。ああ、癒されるわぁ……。

 俺の話を真剣に聞きながらも、時折相槌を打ってくれる。

 そして、話が一段落すると、お茶を入れてくれる。至れり尽くせりじゃねぇか。


 なんで女じゃないんだろうな、ほんと。

 いや、今の俺には贅沢だ。いいじゃないか、帰りを待ってくれる人間がいるってのはさ。


 そんな風に思いながら、今日も一日は終わって行くのであった。

 あれ? 結局何で、あいつと一緒にテレポート出来たんだ? ま、いっか!




 そして数日後の工房にて。




「どうだ、調子は?」


「うん、すっかり。二人ともありがとう!」


「主に私の功績ですけどね。この人は何もやっていませんよ本当に」


「何言ってるんだ! 今にも死にそうなロボットを窮地から救ってやったんじゃないか。分かるか? 俺がいなかったらここにはいなかったんだぜ!」


「それは一般的に厄介事を持ってきたというんです。ですのでその顔をやめて下さいムカつきますので」


「あ、喧嘩は駄目だよ」


 俺が満足気な顔を浮かべているのが心底気に入らない様子で、表情はそのまま不満を真正面からぶつけてくるタライヤ。


 それを止めてくれたのが、あの粉々になったマキナだ。

 すっかり復元され、元の猫ロボットに戻った。


 しかし、どうするかねこれから?


 緊急事態とはいえ、持って帰ってしまったわけで。

 いなくなってしまったロボットが新品同様で戻ってきたらさすがに不審に思うんじゃないか?


 大体、こっちの技術に触れてしまった以上、後から記憶回路を探られでもしたら大変なことになるかもしれない。

 とはいえなぁ。


 頭を抱えていると、マキナが不意に話しかけてきた。


「あの時の女の子は、無事にお母さんのところに帰れたんだよね?」


「ああ、それは確かだ。この目でバッチリと確かめたからな」


「そっか……。あのさ、モナーガ君。僕、ここにいていいかな?」


「ここにって、この工房か? 止めとけこんな汚いところ。こいつ碌に掃除なんかしないぞ」


「悪かったですね。そもそもそう言う意味で言ったんじゃないでしょう」


「えーっと、ここにって言うのはこの星にって意味なんだ。迷惑かな?」


「まさか。でも良いのか? 元の生活だってそう悪いもんじゃないだろう」


「うん。楽しいお仕事だったよ。でも僕、約束破っちゃったから、向いてなかったのかもしれない」


「え? 向いていないのであれば、そもそもナビゲーションロボットとして開発されていないのでは?」


 タライヤが疑問を口にするが、そんなもんは後回しだ。


「お前がそうしたいって言うなら、俺は歓迎するぜ。正直なところ、そのまま返すのもちょっと問題かなって思っててさ」


「ありがとう。モナーガ君は優しいね」


「だろ」


「では、まず私の助手として任命致します。手始めにこの部屋の掃除を……」


「何どさくさに紛れて言ってんだ! マキナをこんな所において置けるかってんだ」


「もう、喧嘩は駄目だよ二人とも」


 そんなこんなで、この船に新しい仲間がやって来た。

 マキナは結局タライヤの部屋に居候することになった。正直ちょっと悔しい。


 まぁ本人の決めた事、仕方がないと言えばそれまでだが。


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