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第13話 怒りと稲妻

「何だお前たちは!?」


「うるせえ! 痛い目にあいたくなかったら道は開けろッ!」


 ショッピングモールの裏側。ひとたびそこに踏み込むとどういうわけか、武装したむさ苦しい野郎どもで満載だった。


 懐からペンライト上のショックガンを取り出し、こちらに銃口が向くよりも早く相手に向かって撃つ。


 死にはしないが、当たってしまいば服の上からでも一瞬で気絶してしまい、数時間は目を覚まさない代物だ。


 俺とアルフェンは二人がかりで、モテなそうなブ男共を倒して行く。やられた連中は自分に何が起きたかも分からないだろう。


 そうこうしているうちに、俺たちは、マキナの成れの果てであろう残骸の元へと辿り着いてしまった。


「なんてこった。こいつは……」


「……」


 かろうじて原型がわかる程度に、粉々にされたその残骸を見て思わず言葉が詰まってしまった。これは、確かに酷い。


 たいして話をしたことがあるわけじゃなかったが、少なくとも悪いヤツじゃなかった。こんな目に合わされるようなことをするようなヤツじゃない。


「……許せんッ」


 アルフェンが呟く、その顔には怒り以外の感情が無かった。

 意外とこいつにも熱いところがあるようだ。


「許せないのはわかった。じゃあどうするって話だ」


「こんな馬鹿げた事をしでかした連中の頭を抑える。この手でだ!」


「珍しく意見があったな。だが、その役目は俺のもんだ」


 アルフェンが俺を睨む。そうカッカすんなよ。


 こちらへと近づく足音が聞こえる。

 追加のご注文ってか? だが、ちょうどいい。


「とりあえずは他の連中を締め上げて、吐かせるだけ吐かせようじゃないの。

なぁ?」


 無言のアルフェンを余所に、マキナの残骸を出来るだけ集めて、収納カプセルの中に放り込むと、俺は左手のブレスに手を触れた。


 ◇◇◇


 テロリスト集団のリーダーは、実のところ内心悠々としていた。慢心があるわけじゃない、ただ緻密な計画と打ち合わせ通りに物事が進んでいたからだ。


 ある意味でリーダーは、自分の分を弁えた男でもあった。


 環境がどうとか、政府への不満がどうとか、そんなお題目を掲げてはいるが、結局のところ金銭目的が第一であった。だからこそ、今回の作戦でわざわざ人質を取るような真似をしたのだ。


 金さえ手に入ればそれでいい。

 自分たちの懐と、次のテロへの活動資金。


 その上で、他人に危害を加えたくて仕方がないという部下たちの嗜虐心を満たしてやれば、自分に対し言うことを聞く。


 だからこそ、その男は人間としては傲慢で、テロリストとしては引いた所に自分を置きたがる。


 しかし、男の眼に確かに狂いは無く、余程のイレギュラーが発生しない限りは、間違いなくこの計画は成功する。


 そう、余程のイレギュラーが発生しない限りは。


 リーダーの無線に通信が入る。


「どうした、何があった?」


『それがよくわからんのです! 全身金属の鎧みたいな格好したコスプレ野郎達が、急に現れて、があッ!……」


「おい何があった!!?」


『……』


 わけのわからないことを言ったまま部下の叫ぶ声が聞こえたと思ったら、とたんに静かになった。無線はもう何も答えない。


「何が一体どうなっている?! くそっ!」


 どうやら想定外の、余程のイレギュラーが発生してしまったようだ。

 しかしここに来てまで、リーダーは冷静さを保とうとしていた。


 計画に狂いが生じてしまった以上、こだわっていても仕方がない。人質を盾にして、残った部下とともにここから立ち去る。


 その算段を弾き出し、人質のいるところへ向かおうと、占拠していた部屋を出た。


 その時である。


「こんにちはぁ。あなたがあの猿山の大将でございましょうか」


「ッ!!!」


 そこにいたのは全身が金属で埋め尽くされた、わけのわからない二人組。


 一瞬で理解した、こいつらが自分たちの計画を狂わせているコスプレ野郎共であると。


 仮にも荒くれ者をまとめ上げたリーダーである。一瞬の判断力も並ではない。即座に拳銃を取ると、間髪入れずに発砲した。


 しかし……。


「何っ!」


「効きゃしねえさ。そんな豆鉄砲なんてな」


 確かに弾丸は、目の前の不審者に命中したが、跡さえつかずに弾かれてしまった。

 並の装甲ではない。


 リーダーは走り出した。あんな装甲を纏っている以上こちらの足についてこられるはずもない。後ろへ向かって機関中へ撃ち散らしながら、とにかく人質の所へ走っていく。


 一瞬で出したとはいえこの判断に間違いがあるはずがない。リーダーはそう思ってとにかく足を動かした。


 だがどうであろうか、銃弾の雨をものともせず、その手はもはや自分の直前にまで迫ってきた。


 その様は恐怖である。恐ろしいといった感情の具現化であった。機関中等の重火器は人間に対する絶対的なアドバンテージを意味する。それが容易く崩されてしまったのだ。


 しかし、足を止めない。止めるという思考すら分からなくなってしまったのだ。


 人質のいるショッピングモールの中央まであと少しというところで、その身柄は抑えられた。


 首を握られ、持ち上げられながらもリーダーは叫ぶ。 


「や、やめろ!! 何が目的だ!? 金ならやる、好きなだけくれてやるッ! だから離せ離してくれぇッ!!」


「それは聞けん相談だな。貴様のような愚物に物乞いなどするはずも無し。罪もない者は、貴様の私腹の為には無いッ!!」


 そう言うとコスプレ野郎の片割れは、その腕から電流を流し、リーダーは泡を吐き出しながら意識を手放した。




「私の勝ちだな、モナーガ」


「譲ってやったんだよ、それに気付けないからお前は間抜けだって言うんだ」


 俺は、アルフェンの腕の中で気絶する男を見ながら返す。

 この野郎は、気絶しながら糞尿まで垂れ流してやがる。スーツ越しで臭わないはずなのに思わず顔をしかめた。


 しかし、これからのことにこいつは重要なんだ。いやいやだが、男をアルフェンからぶん取る。


「んじゃ、あとは打ち合わせ通りに。手ぇ抜くんじゃねえぞ」


「誰に向かって言っている」


 小憎たらしいアルフェンの小言を聞きながらも、従業員口の扉を開き、外部スピーカーの音量を上げて高らかに宣言した。


「おい、糞カス共ッ!! てめえらの大事な薄汚ねえリーダー様は、無様にも俺の手の中に収まった! こいつを返して欲しけりゃ、全員武器を捨てなッ!!!」


 ショッピングモール中に響き渡る俺の美声に、さしもの同様したのか、こちらを向いたまま動きを止めるテロリスト共。


 しかし、それも少しの間の事だ。


「ふ、ふざけんじゃねえ! こっちにだって人質がいるんだぞ!! わかってんのか!?」


 なるほど、模範解答だな。だからこそ想定済みなんだよ。


「おいおいおい、俺はこれでもテメェらを思って、わざわざ忠告してやったんだぜ?」


「何を言ってやが、がぁっ!」


 俺に向かって口答えをしていた野郎が倒れる。

 それと同時に、何もない空間から突如現れるスーツマン。アルフェンだ。


 俺は、一つ作戦を立てていた。


 まず、俺がリーダーを掲げて注目を浴びる。その隙にステルスモードを発動させたアルフェンに人質を囲っていたテロリストどもを全滅させる。


 二人でやったら、わけのわからない事態に、出鱈目に連中が弾をばら撒く可能性があったからだ。


 だから、誰かが囮役をやる必要があった。

 だだっ広いフロアとはいえ、三分もありゃ一人でもやれる。並のスーツじゃ無いんでね。


 ん~冴えてるぜ、俺。


「中央に、人質が集まって功を奏した。隠れている残りを片付けるぞ」


「あいよ。……ああ、皆さんはそこ動かないように。まだまだ危ないんでね。あと少しの辛抱ですよ」


 俺は人質のみんなに声を掛けると、颯爽と駆け出した。


(今の俺、格好良くないか? まるでヒーローみたいじゃないか?)


 そんなことを考えつつ、残りのクズ共の居場所をサーチしながら探し当てていった。


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