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第12話 不安が走る

「しっかしあれだなぁ、右向いても左向いても人人人。ここはそんなに人気スポットなのかね?」


「知らんな、興味が無い。しいて言えば、こういった場所は息が詰る」


「お前ってヤツは、陰気なんだよ。だから友達がいねえんだ、恋人も出来ねえんだ」


「どうでもいい。それで困ってもいない」


 ショッピングモールの中、となりを歩くこの暗い男の相手をしながら歩くというのは、一種の拷問じゃなかろうか? 新しい発見だ。


 さすがに人が多い。だからちらほら麗しい美女もお見かけするわけで、こんな男が隣にいなきゃ声の一つでも掛けるもんなのに。


 大体にして野郎と一緒に、こんなところを歩くだけでもキツいってのに、その上仏頂面と来た。これならまだ街中ふらついてるほうがましだったか。


「それで?」


「あんだよ?」


「何だでは無い、いつになったら帰るんだ? こんな事に付き合わされるこっちの身にもなれ、お前と私とでは割り振られた仕事が違うのだ。DNAの回収などこちらの知った事では無い」


「またその話かよ。いいか、お前ってヤツはものの見方が狭いんだよ。俺の仕事を手伝う、つまるところ俺の手足となってこき使われてりゃ、それは全体のプラスになるんだ。お前の評価だってきっと鰻登りになって行く可能性が無きにしもあらずだろう。きっと、船長も喜ぶさ、たぶん」


「全く論理的でもない、面倒事の押し付けだと聞きたくもない」


 聞く耳持たず、といった顔でこちらを睨むこのつまらない男。アルフェンって野郎の底の浅さときたら、うんざりだぜ。



 そんなやり取りの中、女の子が鬼気迫るような表情で、走って来るのが見えた。その子はそのままアルフェンにぶつかる。


「ご、ごめんさい」


「悪いなぁお嬢ちゃん、こんな木偶の坊がつっ立ってること自体が迷惑だよな」


「お前は黙ってろ。……こちらは構わん、が、何があった?」


 その女の子の尋常では無い様子に、アルフェンも気にかかったようだ。

 女の子は恐る恐る口を開いた。


「ねこさんが、ねこさんが!」


「猫? 落ち着け、ゆっくりとでいい」


「こわいおとこのひとがきて、くろいおおきななにかをむけてきて、それでロボットのねこさんが、あいずをだしたらはしれって……」


「ロボット、さっきの猫型か。だが、黒い大きな……、まさか!」


「……お嬢ちゃん、君はどこから来たんだい?」


 アルフェンが何かに気づいて様子だ。恐らく俺と同じ事を考えてるんだろう。

 俺は、しゃがみこんで女の子と同じ目線になり問いかけた。


「わからない。でもくらくてひとがぜんぜんいないところ。わたし、ままをさがしてて」


「あいつが探して迷子か!」


「人が居ない場所、……客が来る事が無い、従業員用の通路あたりか。……途中で階段などは使ったか?」


「ううん」


 だったらこの階にいるはずだ。しかし、平和だと思ったら随分と物騒になってきたもんだ。


「わかった、俺たちがねこさんを探してくる。お嬢ちゃんは、そうだな……」


 ぐるりと周りを見渡してサービスセンターを見つける。こいつはラッキーだぜ。

 俺は女の子を抱えて、受付のお姉さんに話しかけに行った。


「こんにちは、綺麗なお嬢さん。紳士として本来はゆっくりとお声を掛けるところなんでしょうが」


「は、はあ……?」


「おい、そんなことをやっている場合か!」


「だからこっちも急いでんでしょうが! 申し訳ございませんが、こちらの女の子を預かってはいただけませんか? どうにも迷子らしいので」


「わかりました、そのようなご要件であれば」


「ありがとうございます」


 そう言って、女の子をお姉さんへと引き渡す。


「大人しくしているんだよ? すぐにママにも会えるさ。……じゃあ後は頼みます。おら行くぞ、ぼさっとしてんな!」

「してないが」


 俺はアルフェンを引き連れて、関係者以外立ち入り禁止の扉を勢いよく潜っていった。


 ◇◇◇


 モナーガ達が、裏口へと入って行った、そのすぐ後のことである。

 突如としてショッピングモール内を、夥しい銃声が支配していった。

 一瞬の静寂の後、パニックになる人々。


 しかし、その中を武装した厳つい集団が次々と現れたのである。


「動くな! 今持ってる荷物を地面におろしてゆっくりと中央に集まれ。いいか、客も従業員も関係ない、全員だ!」


 武装集団のリーダーと思わしき男が天井に向けて銃を掲げ、そう大声で指示を出した。

 その男は、スーツ姿にサングラスという出で立ちで、見た目は普通のサラリーマンといった感じであった。


 しかし、他の連中の装備を見てみれば、全員がマシンガンなどの銃器を携えている。

 言われた通りに、身につけている服以外をその場に置き、できるだけ刺激しないようにゆっくりと中央へと集まって行った。


 この瞬間にいやが応でも理解したのだ。今までの平穏な時間は終わって自分たちは人質となってしまったと。


「どうします? 見せしめに何人か殺りますか?」


 部下の一人がリーダーに問う。


「いや、それは止めておけ、すでに殺した警備員の死体を奴らの前に並べておけば、それだけで十分に効果がある」


「なるほど、流石ですなあ」


「それよりも、警備システムの確認は怠るなよ。休暇中のサツがここに来てる可能性だってあるんだからな」


「ええ、それは勿論。先程もロボットを一体始末したと報告が上がりましたので」


「ロボットだと? 独自に動ける警備ロボットがいたなど把握していないが?」


「それが単なるナビゲーションロボのようでして、まあそれも動けなくなりましたが」


「ならいいが。くれぐれも気を抜くなよ」


「心得ておりますとも」


 部下への会話を終わらせ、リーダーと思わしき男は警備員の死体を並べるように指示を出し、店の奥へと消えていった。




 中央に集まった人々の中にサービスセンターの受付嬢の腕の中で震える一人の少女がいた。あの迷子の少女である。


「大丈夫だから、きっと助かるから……!」


 自分自身恐怖に駆られているだろうにそれを表に立たず必死に少女を励ます受付嬢。

 しかし、それでも少女の震えを止めることができなかった。


「ままぁ、ままぁ……!」


 少女は現実に耐え切れず、涙を流すことしかできなかった。

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