気がつくと俺達は、どういうわけか公園にいた。艦内からいきなり外に出たせいか青い空が眩しいぜ。……じゃない!
「ど、どどど、ドコはダレ!? ワタシはココ!?」
「何を言っている!? 落ち着け!」
「お、お前ダレだッ!!?」
「私はアルフェンだッ! 正気に戻れ!!」
アルフェンの拳が俺の頭部に炸裂した。
「はっ! 俺はいったい何をしていたんだ!?」
「知らん、気がついたらここにいた。……お前の力は、他人を運べ無いのではなかったか?」
「その、はずぅ……だけど。いや、出来ちゃったねぇ。こりゃあ、たまげた」
そうだ、おかしい。
俺のテレポートは自分限定のはずだ。以前、それとなくスーラ君を地球に連れて行こうとして失敗した経験から、それは間違い無いはずだ。
それが今、こいつと一緒に飛んで来てしまった。これは一体?
じーっとしても始まんねーや。とりあえず、どうするか?
そりゃもちろん情報収集でしょうよ。何においてもまずは情報だ。それにしてもここはどこだ? 見渡す限りの、只の公園、何の変哲もない。
ということは、俺達は地球にやってきたというんだろうか?
であればいくらでもやりようがある。勝手知ったるなんとやらだ。ルンルン気分で街の探索でもおっぱじめようじゃないか。
「お前の角も隠さなきゃいかんだろうしな、面倒くさい」
「それは、そうだろうが……」
「何だ、不満でもあるのか。お前だって俺の格好見てみろよ、どっからどう見ても地球人じゃねえぞ」
「……確かにな。だがどうする?」
「帽子でも探すしかないんじゃないの」
俺達はとりあえず服屋を探すことにした。
帽子もそうだが、緊急事態自体とはいえ、いつまでも野郎とオソロは御免なんでね。ジャケットでも見繕うじゃないの、俺の分だけ。
その前に、ドリンク飲まなきゃ。二人分テレポートしたせいかいつもより疲れた。
◇◇◇
「ありがとうございましたぁ!」
で、無事目的の物を手に入れた。バイトで円を稼いでいて正解だったぜ。
常に持ち歩いていた俺を褒めてやりたい。
「ほらよ、帽子。わざわざ角がきっちり隠せるよう、デカめのやつ買ってきたんだからな。俺に感謝しろよ。ありがとうございますモナーガ様と深々と頭を下げながら……」
「いいから、寄越せ」
アルフェンはさっとハットを奪うとそのまま頭へと被った。
「しかし、耳は隠せんか」
「あん? 諦めろよそれは。どうせそこまで誰も見ねぇよ」
「そういうものか?」
「そういうもんだろ。後は適当にどうにかなるでしょうよ」
取り敢えずアルフェンは納得した。俺はというと、実用性重視の白いジャケットに新調した。
いくら制服とはいえ、こいつと同じ服着るのは嫌だし、野郎二人がペアルックは変に怪しまれる。ただ、あの青いジャケットは結構気に入ってるし、今後は使い分けってところかな。
古い方は収納カプセルに放り込んで、今や親指サイズだ。さぁ、次はどうするかね?
「この世界がどのような場所なのか知りたい。街に出て情報収集をするべきだ」
アルフェンの言うことはもっともだ。
「そうだな。ならとっとと行こうぜ!」
俺は意気揚々と、急かしながら言った。
それから数時間
「ふぅ……」
一息ついて俺はその場に腰を下ろした。
「まさか、こんな事になるとは」
アルフェンが俺の隣に座りながら呟いた。
「まったくだ。お前のせいだぞ、反省しな」
「一体、何を根拠にすれば私のせいになるのだ」
「そりゃあ、あれだよ。お前が、俺の仕事を手伝うって言ったからこうなったんだ。お前がいなけりゃ俺は、普通にテレポートしてたはずだ。つまり、お前が俺を巻き込んだんだよ」
「勝手に捏造するな」
「そりゃお前、捏造ってのは勝手にやるものであってだな。……後は日頃の行いとか」
「自分で言う事では無いだろうが、これでも品行方正を心がけて来たつもりだ。お前と違ってな!」
「何言ってんだ? 俺程のいい男を捕まえて。だいだい品行方正だつっても、お天道様は良く見てるもんだ、きっとそれだけじゃ足りなかったんだろ? ようは信心だよ、もっと太陽を崇めろよ」
「お前はその減らず口を抑えろ!」
お互い、苛立ちが段々募って来たのか言い争いが続く。
街中駆けずり回って結局のところわかったのは、ここが日本だって事。ただ違うのが、俺の知ってる日本じゃないって事だ。
なんせ今は二〇八九年らしい。年号だってもう令和じゃねえ。つい最近令和を体験したばっかだってのに、俺ついていけない。
とはいえ、折角きた以上は仕事をこなしてから帰りたいもんだ。俺ってば真面目君だから。
なのに、アルフェンときたら……
「この世界の事はだいたいわかった、あとはお前だけ後日ここにくればいいだろう」
なんてほざきやがる。
「なんてこと言うんだ。もうステルスに頼れなくなったんだから、これからは人海戦術に切り替えていくと決めただろ? お前もその手伝いしなきゃならないんだ」
「お前が勝手に決めた事など私は知らん。大体にして、それは私がやらければならない仕事では無い以上巻き込むんじゃない」
「友達甲斐の無い野郎だな、まったく」
「私とお前はそもそも親しく無い」
街中を歩き回ってる時にこんな会話を続けたのもあってか、さっきみたいな言い争いになっちまったわけで。妙に暑いのもあってかお互いむしゃむしゃしてんだなあ。
◇◇◇
で、今どこにいるかと言えば、ショッピングモール。映画館やら服屋、フードコートやらなんでもござれな総合施設ですわ。
その入り口付近をウロチョロしているわけだが。なんでこんなとこに来たかっていえばねー単純なことに涼みに来たっていうそれだけの話なわけで。
だって、暑いし、妙にむかつくし、イライラして仕方がない。
そんな事を考えながら俺は辺りを見回していた時だった。
「お兄さん! そこのお兄さん達!」
ふいに声をかけられて振り向いた先にあったのは、猫をモチーフにしたかのような白いボディにしっぽのついた……。
「なんだ? このロボットは?」
「僕は当ショッピングモールの案内人のマキナだよ。よろしくね!」
「へぇ~、随分流暢に喋れるもんだな」
「えっへん!」
「それで、私達に何の用だ? すまないが客引きなら他を当たってくれ」
アルフェンの言葉を聞いてか、マキナとかいうロボットは少ししょんぼりしたご様子だ。
「ううん、違うよ。僕、迷子の女の子を探しているんだけど、知らないかな?」
「迷子? 悪いね、俺達は今来たばっかなもんで」
「そっか……、ありがとう」
「役に立てなくてすまなかったな」
「ホントに悪いな。アルフェンって男はグズで鈍臭いんだ。少しは人の役に立てるよう言い聞かせとくぜ」
「は?」
俺の言葉にアルフェンが反応した。
「おい、誰がグズだ」
「お前以外に誰がいるってんだ。そういうとこがさ、既に鈍いんだよ」
「貴様……!」
「喧嘩はダメだよー。ほら、お友達同士で仲良くしようよ」
「私達は、友ではないが」
しかし、そんな風に言われたらすっかり毒気も抜かれちまうぜ。
「まあ何だ、ほんと役に立てなくてすまねぇな」
「別に気にしてないよ。じゃあ僕はもう行くからショッピングを楽しんでね二人とも」
マキナはそう言ってその場から去っていった。
「どこかの誰かさんと違ってずいぶんと愛想の良い奴だったな」
「……」
隣側から恨めしそうに選ばれた気もするが、とりあえず適当にぶらぶらしながら今後について考えてみましょうかね。
「あ、お前ついてくんの?」
「お前の場合勝手に帰ってしまう可能性がある。こんなところで置き去りなどごめんだ」
「あらま、俺ってば信用ねえんだ」
「当たり前だろう」
そんな会話をしながら二人でショッピングモール内を散策していく。正直何がどこにあるのか全くわからないんだがね。