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第6話 整えるらしい

 テレポート。

 それが、モナーガに与えられた能力だ。

 銀河の端から端、果ては次元の壁すら越える移動能力を身につけている。


 彼が生まれ変わった世界は、宇宙にフロンティアを求める宇宙開拓の世の中であり、彼自身も移民船に志願して新惑星を目指す事にした。


 コールドスリープに入って、早数年。予定よりも大幅に早く、その惑星は見つかった。


 年若く、自然に溢れ、人類にとって外敵もいない、まさに理想郷。彼らがその星で初めての知的生命体となった。


 彼らの移民船が着陸した際、船のコンピューターが自動で開墾を行い、畑や農場を作成し、次に都市の建設を開始。


 それらが完成した頃に、モナーガ達はコールドスリープから目を覚ました。


 だが、コンピューターが完成させた都市は、万単位の人間が暮らす事を想定していたのに対し、移民船の乗組員はわずか三百人しかいなかったのだ。


 元々、移民計画は数百年から数千年後の未来を見据えて計画されていた事もあり、仕方の無い話ではあった。まさか、一度目のコールドスリープで惑星が見つかるなど誰にも予想が出来なかったのだから。


 今まで誰にも荒らされ無かった為に資源は豊富で、食料もコンピューターが生産ラインを構築していたので問題は無かったのだが、何せ人口が少ない。


 たった三百人足らずでは、都市を維持する事も難しい。


 スリープから覚めると共に、モナーガの脳内に前世の記憶と転生した際に手に入れていた超能力の情報が一気に流れこみ、脳みそがパンクしてのたうちまわる。


 息も絶え絶えに、沸々と湧き上がった己の欲望を役目で覆ったある考えを持って、移民船の船長を始め、一部のトップにコンタクトを取った。


 そこで、自らの能力を明かし、人間に近い知的生命体のDNAを採取する事を提案し、首脳陣はこれを快諾したのだ。


 何故このような会談が行われたかと問われれば、簡単な話だ。

 彼らが元いた星ではクローン技術が確立されていたが、法律により人類のクローンは禁じられていた。


 しかし、未開惑星の人間に関してはそれに当てはまらない。


 グレーなやり方だが、人口問題の解決には必要な事だった。


 こうして、彼は自らの能力を使い、遺伝子を探しに次元の果てへと旅立つのである。


 ◇◇◇


 舵段谷だだんだに 壇堂だんどう

 社員旅行先で、初めて食べた牡蠣に大当たりして、そのまま死亡。


「うっは! なまらうめえっしゃ!」


 それが最後の言葉だった。

 享年二十一歳。誕生日から僅か三日後の出来事。




 それがこの俺――モナーガ・グーネルの前世の話だ。

 我ながらすげえ間抜けな死に方だぜ。


 死に際、ああこんな事になるなら、もっと遠くに旅行とか行きたかったなぁ……。なぁんて思ったら、まさかテレポーテーションが身につくんだから人生わかんねえな。はっはっは。……いや、笑えねえや。


 取りあえずそんなこんなで、俺は転生した。


 俺が生まれ変わった世界は、惑星『プレイスティア』。

 まるで、良くあるSF映画みたいにアホみたいに科学が発展した星だった。


 その頃の俺は、まだ前世の記憶を取り戻しちゃいなかったが、性格とかは今や前世の俺となんら変わりは無い。つまるところ、すげえクールで冷静な、仕事の出来るニクい奴って訳だな。顔もそれに見合ったナイスガイだしな。


 あの星を出るまで色々あったが、流石の機転で切り抜けて来た。おかげで今や恒星観測員の資格を持ったプロのスペースマンだぜ、やったね。


 そんな俺に転機が訪れたのが、外宇宙への移民船団。その乗組員の募集だな。


 正直、生まれ故郷とはいえ未練は無かったからな。フロンティア求めて宇宙の海に飛び出す、そういうロマンに生きてみたいと思うのも男のロマンだよな。

 恒星観測員の資格持ちだったし、すんなり合格できた。


 そんな俺が乗り込んだ船が、十三移民船団第六移民艦『ノーブルムーンⅥ』。


 全部で十三隻存在する超巨大移民艦の内の一つだな。

 この一隻一隻が本当にデカい。全長七一キロメートル。

 艦内移動には電車を使う程だ。


 ただ中は、快適そのもの。空気循環システムは完璧で酸素欠乏なんて起こらない。食料プラントは勿論、農場プラント、酒造プラントなんかもある。


 空気循環が効いてるつったって、紙タバコなんぞ吹かそうものなら、ぶん殴られんだがな。


 しかしだ、散り散りに飛び立った十三隻の内の一つ、このノーブルムーンⅥがまさか一回目のコールドスリープのうちに新天地を見つけるたぁ、お釈迦様もびっくりだろうぜ。


 そっからの流れは……別に振り返る事もないか。



 そんなこんなで、今日もお仕事を始める俺なのであった。


「さてと、うんじゃ行きますか!」


 行くといってもこのままテレポートするわけじゃない。

 整備班にスーツのメンテを任せてあるから、まずはそれを取りに行かなきゃならない。


「じゃ、いってくるからさ。留守番頼むねスーラ君」


「は~い、いってらっしゃい!」


 エプロン姿のスーラ君に見送られ、俺は部屋を出た。

 しかし、嫌に似合ってたな、思わず抱きしめたくなった。いかんいかん、俺にそっちの気は無いんだ。




 整備室に行くまでには、研究室がある。

 度々お世話になってるわけだし、挨拶でもして行くか。


「チーッス。朝のご挨拶に来ましたよ」


 いつもの調子で部屋に入ったらとんでもないものが目に飛び込んできやがった。


「ア~ン、ダーリン。いくらお仕事でも、あんまり放って置かれるなんて嫌よ」


「わかっているさハニー。でも大事な仕事なんだ、勿論君程では無いさ。ただ、私は研究員として重要視されている人材なんだ、その期待には応えないわけにはいかない。わかってくれるねハニー?」


「もぉ仕方ないわね。ダーリンが優秀過ぎるんだもの。でも忘れちゃだめよ? あなたを想う気持ちが一番強い女は私なんだから……」


「ありがとう。それを聞いて安心したよ。それでは行かせてもらうよ。愛しているよハニー」


「アン、私もよ」


 目の前で場違いのもいちゃついているのは、ここの研究員の一人で、クローン計画が始まってから付き合いのあるドラン・ファーマだ。


 それともう一人、青い肌に藍色の髪、白目の反転した黒目に蝙蝠みたいな羽。格好こそ、ここの女性職員の制服を一部改造した服だが、この色々目に毒な見た目、間違いねぇあのサキュバス。


 俺が衝撃で動けないでいる中、二人に甘ったるいやり取りにも終わりが来た。


「じゃあね、ダーリン。お仕事頑張ってね」


 ドランの頬に唇を合わせ、女は俺の方へと向かって来た。


「あら? ごめん遊ばせ」


 そういうと、俺の横を通って行く。

 思わず後ろを振り返ると、彼女はモンローウォークで部屋の外へと出て行った。


 俺の頭が再起動する。


「おい! こりゃあどういうこった!?」


「……な、何の事ですかな。モナーガ殿」


 ドランの奴に詰め寄れば、そりゃもう思いっ切り目を逸らしやがった。


「アンタの役目ってのはなんだ?」


「それは勿論、より良い遺伝子のクローン化になります。深刻な人口不足の解決は我々の命題なので」


「そうだろう? そんな大事な仕事をしている時にアンタ、公然の場で女といちゃついてるたぁどういう了見だ? それも俺が持って来た飛び切りな美女のDNAで作ったクローンとな~あ?」


「いえ……そのですね。彼女も優秀な遺伝子のサンプルとして……クローン化させた、だ、だけでありましてぇ」


「それが何でああなるんだ!?」


 いくら詰め寄ってもはぐらかすだけで、全く説明しようとしない。

 大体こいつは、周りの連中が血走った目でにらみつけている事に気がついてねぇ。この野郎……!


 そうこうしている内にドランの野郎も言い逃れが苦しくなってきたのか、逆ギレ気味に開き直ってきた。


「あああ、そうです! そうですともッ! 自分の欲で彼女を作りました!! しかしそれが何なのですかっ!!」


「あんだと……」


「研究職では、女性との関わりのたかが知れております! 事実私はこれまで女性との付き合いは全くありませんでした。その中で、彼女の様な女性は目に毒なのです! ならば仕方がありません。私が悪いのでは無く、彼女が魅力的なのが罪なのです! 手が出てしまってもそれは男の性であって決して私のせいではありません!」


「てめえ、言いてぇのはそれだけか? ……皆さん、もうやっちゃっていいですぜ?」


 言うが早いか、俺の言葉に反応するように四方八方から、仕事一筋でやって来たもてない野郎共がドランを取り囲んだ。


「な、なんでしょうか皆さん? そのような血走った目などをして。睡眠でも足りないのですかな? は、はは」


「だったら眠気覚ましに殴らせろォ!!」


「や、やめ。暴力はよくない……!」


「何がハニーだ、朝っぱらから蕩けた声出してんじゃねえぞコラァアアッ!」


「テメェ一人だけいい思いしてんじゃねえよ、オラァア!!」


 こうして俺は研究員たちの憂さ晴らしという、ある意味健全な方法で溜飲を下げさせてもらうのであった。


 大体、なんであの男には色っぽいお姉さんで、こっちの部屋には男の子なんだ。理不尽だろこんなの。




 馬鹿なやり取りも忘れ、整備室でスーツを受け取った。後は今日のお仕事だ。後は、どこの世界に飛ぶとするかだが。実を言うとここ数日、またまた地球に行って情報を仕入れてきた。


 今時は、地球にも電子書籍があるらしい。流石に俺が死んでから数十年経ってるだけあるぜ。


 とはいえだ、当然ネットはこっちまで通ってないし、金も余裕が無い。タブレットなんて無用の長物だからどうでもいいが、今後の事を考えると金を手に入れる必要がある。


 というわけでここ数日、日本でバイトをしていた。口座は勿論、戸籍も無いから、面接不要で履歴書の誤魔化しも効く、日雇いで給与手渡しの仕事だ。当たり前だが、肉体労働しか見つからない。


 まぁ、これでもスペースマンとして鍛えてきた俺には何の問題も無いけどね。


 そんなこんなで金を稼ぎ、本を買い漁った。故郷じゃ紙の本なんてのは、もう国庫の中にしかない。


 そして今回行く世界だが、今回もファンタジー系だ。何せ科学に対して疎い。つまるところつけ入る隙が沢山ある訳だ。


 俺が買った本の中で取り分け人気なのは中世ヨーロッパ風異世界モノとかいうジャンルらしい。こいつを選んだ理由は簡単。一番やりやすいからな。文化レベルが低くて銃器なんかもない。


 魔法があるつったって、文明人な俺だぜ? 大丈夫だろ。そういう意味でこの世界をチョイスした。

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