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ゼロから作る新惑星のクローン計画:人類繁栄の裏仕事
ゼロから作る新惑星のクローン計画:人類繁栄の裏仕事
こまの ととと
SF宇宙
2024年12月14日
公開日
7.2万字
連載中
宇宙開拓が盛んな惑星に生まれた主人公。その本人も気づいていなかった重大な秘密。
新惑星へ飛び立つ移民艦、そのコールドスリープから目覚めた直後に思い出したのは前世の記憶だった。
不慮の事故で命を落とした衝撃の記憶と共に超能力『テレポーテーション』にも目覚めた彼は、たどり着いた無人の新惑星においてある役目を買って出る。

クローン制作の為に異世界を渡り歩く男。
振り回したり振り回されたり、その場のノリにつき動かされて空回りして、それでもなんやかんや頑張っていく。
…………のかもしれない。

第1話 始まるらしい

「ふぁ~。よく寝たぜぇ」


 つい一時間前にテレポートで飛んで来て、すぐに公園のベンチで横になった。

 便利だけど疲れるのがこいつの悪いところらしいのだ。


 今、俺がいるのは地球だ。

 正確に言えば、太陽系第三惑星・地球の日本だな。

 俺はここで生まれ育ち、そして死んだ。


 つまるところ、前世に戻って来たって訳。

 ここに来た理由は単純で、単にイメージがしやすかったからだ。

 地球に生まれて、育った記憶がある分、他の星に行くより想像しやすいってだけ。

 まあ、これが記念すべき第一回目なわけなんだし、まずはここからスタートってことで、ね。


「さて、どうするか?」


 取り敢えずは、現状の確認だろう。

 公園のゴミ箱から新聞でも漁るとしようじゃないの。

 えーっと、……おっ! あった、あった。どれどれ?


 ……これ、スポーツ新聞じゃねぇか。

 まあ、いいや。まずは日付だ。


 ……え、令和!? 年号変わったのかよっ!!

 見た目は若返ったのに、すっかり時代に取り残されちまった。


 ショックを受けても仕方ない。

 間違いないなく日本なのは確かなんだし、仕事に取り掛かるとするか。


 ちょうどよく、子供達が公園に来た。

 俺は物陰に隠れて、腕時計型のデバイスを起動させ、スーツを纏う。


 頭の天辺から足の爪先まで覆う、このメカニカルなスーツは、いわば着る宇宙船。あらゆる環境に適応する万能服で、宇宙での活動を想定して開発された代物である。


 当然のことながら、着用者に合わせてサイズが変化してくれる優れものだ。

 デザインも悪くないし、機能性も高いので気に入っている。


 俺はステルスを使用して、子供達に近づく。

 当然気づかれる事はない。


 腕に仕込んだDNA採取キットを子供達に打ち込む。

 蚊の針よりも存在感の無いそれは、痛みを与える事も無く体内に潜り込み、遺伝子情報を抜き取る。

 針は一度使う毎に生成されるので、非常に衛生的で小さなお子様にも安心してご利用できます。


 抜き取った遺伝子情報をスーツの解析装置にかける。

 DNA配列パターンはまさしく人間そのもの。


 これでよし。

 後は、このままスタコラずらかるだけだ。

 初回の仕事ならこんなもんだろう。




 その後も、いくつかサンプルを回収した。

 基本的には若いDNAが欲しいから、二十代が目安。場合によってはそれ以上。


 ただ折角、前世の地球に戻って来たんだ。ちょっと楽しむくらいはいいだろう。

 金はゴミ箱漁りで二千円札を手に入れたしな。まだあったのね、コレ。


 じゃ早速、飯にするとしますかね。目指す場所は、そうだな。

 せっかくだし、あの店に行こう。



 らーめん屋。





『らっしゃいませー』


 昭和を感じさせる店内に、客は数人しかいない。

 奥のカウンター席に座り、注文をする。


「味噌ラーメン、大盛り。トッピングでチャーシューとメンマ増量ね」


『あいよっ!!』


 店主は元気に返事をして調理を始める。

 久々のラーメン屋だ。

 たまに無性に食べたくなるんだけど、向こうじゃラーメン自体無いんだもの。

 あぁ、この匂い。待ち遠しいぜ。


「お待たせしました」


 その瞬間、俺は目を奪われた。

 ラーメンに、じゃない。

 目の前に現れた女店員にだ。

 艶やかな栗色の髪に、パッチリとした目。

 スレンダーな体つきをした、超絶美人の女だった。


「あの、お客さん? どうかなさったですか!」


「い、いえ! 何も! あ、あぁ美味しそうだなあ」


 こちらを見て、首を傾げる姿が可憐だった。

 思わず見惚れてしまった。

 前世に戻って早々、幸先がいいじゃないか。


 俺は自分の幸運に感謝しながら麺をすすり始める。

 ぱぁあ、旨ぇ!

 ラーメンも良ければ、店員もいい。

 最高じゃねえの、おい!




 スープまでズズっと完食し、勘定を終えた俺は、トイレを借りた。

 とはいえ、それは建前だ。

 本当の目的は別にある。


 店の奥のトイレに入るフリをした俺は、本日二度目のスーツを起動する。

 そう、俺の目的とはあの娘のDNAを採取する事だ。

 だって一目惚れしたんだから仕方ない。

 特権だよ、特権!


 スーツの力で透明化した俺は、そのまま彼女の背後に回る。

 そして、先程と同じ要領で腕に針を突き刺して、DNA抜き取って行く。


 ヨシっ!!


 俺は再び店の奥へ行くと、白々しく用を足した風を装う。

 そして何事も無かったかのように、店主へと話かける。


「いや~美味しかったですぅ。ご馳走様でした」


「ありがとうございます。また来て下さいね」


「えぇ。店員さんも可愛い娘だし、いやさすっかり気に入っちゃいましたよ」


「え、……。あ、あぁ。俺の子供なんですが、うちの看板みたいなもんでね。評判なんですよ。ありがたい事でして。へ、へへ」


「へえ、そうなんですか。確かに綺麗な子ですね。それでは失礼します」




「ありがとうございましたー!」


 可愛い声に見送られながら、俺は店を後にする。

 いやー、本当にええ仕事したわ。

 これは、常連になるしかないな。

 俺はランラン気分のまま、新しき我が星へと帰った。




「なあ、さっきのお客さん。お前の事……」


「お父さんがこんな格好させるからでしょう。お母さんのお下がりだって言ったって、ぼく……」


「いいじゃねぇか。夢見させてやれるぐらい似合ってるってこった」


「もう。そのうち何かあったって、ぼく知らないからね!」



 ◇◇◇



 船に戻って来て、しばらく仮眠を取り、船長の待つ部屋に向かう。

 ノックをして入室の許可を得る。


『入れ』


 中に入ると、船長の他に数名の船員がいた。

 どう見ても堅気に見えない連中だが、これでもしっかりとした国家公務員だ。

 見た目と中身は違うんだろうなと思うけど、あんまり信じたくない現実だ。


「戻ったか。首尾は?」


「上々ですよ。サンプルは回収に成功しました。我ながら見事な手際でしたね」


「よし、よくやった。早速マシーンにサンプルを製作させるぞ」


「了解」


「それと、このサンプルだが……、やはり人間だったのか」


「はい。恐らくは。あ、第一号は俺に選ばせて貰えるんですよね」


「そういう約束だからな。この仕事は現状お前しか出来ない。希望は可能な限り聞いてやる」


「ありがとうございます。では早速試験を開始させて頂きます」


「ああ、行くぞ」


 俺は船長と共に、マシーンのある部屋へと向かった。


 薄暗い部屋の中央に、大きなカプセルがある。

 この機械こそ、人類の英知を集めたマシンである。

 まずはこのサンプルをこの装置に入れる必要がある。

 そして、DNA情報を元に人間のクローンを作るのだ。

 登録されたサンプルは培養され、遺伝子を組み込まれていく。


 後は時間が経つのを待つだけだ。

 その時、マシンの管理・担当の研究員が疑問を口にしてきた。


「ん?」


「どうしたんで?」


「いや、確かぁ……、女性のDNAを使用したのですよね?」


「ええ、とびきりのをね」


 研究員が答える。

 どうしたんだろう?俺は首を傾げた。


「おい出来上がるぞ」


 カプセルを見守っていた船長が、そう言って来たので俺は中に視線を戻す。

 すると、カプセルの中で人間の形が徐々に仕上がってくる。

 ゴクリと唾を飲み込んだ。


 いよいよだ。

 俺はカプセルのガラスに、つい手を伸ばす。


 やがて、その人物は目を開けた。

 美しい顔立ちの女性だ。長い髪に切れ長の目。

 肌も白く透けるようだ。



 だが、俺たちはそこである違和感を覚えた。


「……おかしいな、なんか見慣れたものが見えるような」


 俺の言葉に、他の連中も同意する。


「本当に女性だと確認して、採取してきたのですよね?」


「その、はず。いや間違いなく! ……そうであって欲しい」


「じゃあ、アレは俺の見間違いか?」


 そう言う船長の視線の先には、我々男性には非常に関係の近いブツがあった。

 い、いや。そんなはずは無い。

 ガラスの屈折とかが見せる幻だろう。そうなんだろう!?


 やがて、カプセルが開くと彼女?はゆっくりと立ち上がった。

 俺はどうしても我慢ができず、一つの質問をぶつける。


「あ、あのつかぬことをお伺いいたしますが。あなた様は女性様でございましょうか?」


「? いえ、ぼくは男ですが……」


「…………」


 俺は無言で天を見上げた。


「ふぁあっ!?」


 そこで俺のキャパシティが限界を迎えたようで、意識がブラックアウトした。




「うっ……!」


 目が覚めると、自室のベッドの上だった。

 窓から差し込む朝日が眩しい。


「夢? そうだ夢だ。なんだ夢か! はぁあ良かった!」


 安堵のため息をつく。

 そうだよ美少女にあんな物が付いていてたまるか。

 きっと長い眠りから覚めたてで疲れているんだろうな。

 今日は休みだし、ゆっくり寝よう……。


「あのぅ……」


「ん?」


 もう一眠りしようとした時、振り返るとその女はいた。

 そう昨日誕生した愛しのクローンだ。


「あ、ああ君か。いやね、ちょっと不思議な夢を見てしまってさ。君が実は男だっていうんだ。一体いつ頃から寝てしまっていたか分からないが、いやあ、夢でよか……」


「ですから、ぼくは男ですよ」


「……へ?」


「いや、だからぼくは男ですよ」


「……おぅ」





 こうしてこの惑星で初のクローン人間が誕生した。

 しかし、まだまだ人口問題の解決には遠い。

 数多くの世界を巡り、遺伝子を回収する旅は始まったばかりなのだ。


 そう、モナーガの受難はまだ終わらない。

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