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――――どうしよう……。
血の通っていないはずの体が、熱く感じる。
これは生前、何度も感じた感覚だ。
あの時は心臓がドキドキと、うるさいくらい大きく波打っていたのを覚えてる。
――――名倉くんが、優しく手に触れてくれた――――
――――名倉くんが、真剣な表情で私の手を見ていた――――
その優しくて暖かな手と視線ができっと、顔が赤くなってると思って……そう思うと急に恥ずかしくて、思わず逃げるように隠れてしまった。
「名倉くんに悪いことしちゃったな……」
生前の名残か、心臓がドキドキしてる気がする。
「名倉くん……本当にズルいよ……」
私は頬の熱が冷めたあと、名倉くんたちのあとを追った。
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【20××年 8月1日】
――――ピピピッ……――――
「38.1℃……熱やね」
「熱やなぁ」
「熱だなぁー」
「うーん……」
朝から頭や体が重いと思ったら、熱があった。
「
「ゴメンなー、名倉ー。山田が丈夫すぎるばかりに、迷惑かけちまって」
「なんで俺だけのせいやねん!」
山田のおばさんと西中の言い方に、山田が怒鳴り返す。
「これ、太一。病人の前や、大声はださんと」
「うっ、スマン……」
「やっぱ、昨日の通り雨に濡れたのがダメだったかなぁー?」
「それにしても、弱すぎやろ」
「うるさい……」
確かに昨日……杜を探索してる途中、僕たちは通り雨に遭遇した。数分ほど土砂降りの後、まるで何事も無かったかのように止んだのを覚えている。
「まぁ、疲れも溜まっとったんやろね。今日はゆっくり休みぃね」
「はい……」
「それじゃあ俺らは、おばさんたちの手伝いしてるから」
「なんかあったら、すぐ呼ぶんやで」
「わかった……」
そう言い残して、三人は部屋を出ていく。
僕が未だに見慣れない天井をボーッと見ていると、灯山が顔を覗き込んできた。
「灯山……」
「名倉グゥゥゥン! ダイジョォブ!?」
「大丈夫だから、泣くな……」
灯山は先程から、泣きながら「名倉くん! 死なないで〜!」と叫んでいる。おかげで先程の三人の会話は、半分も頭に入っていない。
しかし僕の異変に気づいたのは、何を隠そう灯山だった。
この数日、僕では考えられないくらいハードスケジュールだった。ここに着いた初日は、全身筋肉痛で動くのが辛かったせいか、余計に気づきにくかったのだ。
――――しかし……僕ですら気づかなかったのに、灯山はよく気づいたな……。
「名倉くん、なにかして欲しいことある? ……とは言っても、
「うーん……特にないかな」
「だよねぇー……」
遠くから、山田たちの声が聞こえる。
そういえば、今日は民宿の手伝いをするとか言ってた気がする。
「灯山……ここにいても暇なだけだろうし、山田たちのところにでも……」
僕がいい切る前に、灯山は首を横に振る。
「ううん……私、ここにいるよ。名倉くんのそばにいる」
「そう……好きにすれば……」
「うん」
僕はそう言って、目を閉じる。
体調が悪いせいか、少し弱気になってる自分がいた。
だから素っ気なくは言ったけど、本当は灯山がそばにいると言ってくれて嬉しかった。
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――――カチッ、カチッ、カチッ――――
「ん……」
静かな部屋に、秒針が鳴り響く。
重い瞼を開けると、見慣れない天井があった。
――――あれ……僕、どうして……。
よく思い出せない、ここはどこだろう……?
「あっ、名倉くん。起きた?」
「と……やま……?」
――――どうして、灯山がここに……?
分からない……思考が上手くまとまらない。
「おでこに置いてたタオル、ぬるくなっちゃったね。今、冷やして……」
そう言って手を伸ばす、灯山の指先が触れる。
冷たいその手が酷く冷たく、同時に何故か僕は悲しくなった。
だから思わず、その手を掴んだ。
「な、名倉くん……?」
「……が、いい……」
「えっ……?」
「とや、ま……が、いい……」
冷たいその手に、思わず頬を擦り寄せる。
熱に浮かされているせいか……それとも、違う何かのせいか。
「名倉く――――」
「と……さ……か……さん……灯山……」
奥から何か、熱いものが込み上げてくる。
「みんな……い……ない、で」
流れ落ちた何かを、誰かが優しく拭ってくれた気がした。
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「…………! …………っ!」
「…………! …………!」
誰かに呼ばれた気がして、うっすらと目を開ける。
「……な……! ……なぐ……!」
「と……やま……?」
「……ぐらっ! しっかりせい、名倉!」
――――山田……?
「熱測れるか?」
「ぅん……」
――――ピピピッ……――――
「39℃まで上がっとるやないか! なんかあったら呼べ言うたろ!? ……いや、なんかあったから呼ばれたんやけど……」
体が熱くて、頭がボーッとする……山田が何を言ってるのか、何を慌てているのか分からない。
――――だけど、これだけは聞かないと……。
「薬……の前に、飯や。粥は食えそうか?」
「山田……」
「なんや?」
「灯山は……?」
灯山の姿が見当たらない。灯山はどこに行ったのだろう?
僕の質問に、山田の顔が一瞬だけ険しくなった気がした。
「灯山は……今、席を外しとる。すぐ戻ってくるさかい、安心せい」
「わかった……」
山田は立ち上がると、ふすまに手をかける。
「それと……」
「…………?」
「灯山が
「……うん……?」
どうして山田がそんなこと言うのか、僕には分からない。
でも――――。
「灯山……早く、戻って……き、て……」
お前がいないと……すごく、寂しいから……。