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第十六話 【親戚の家へ】

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「よぉー来たねぇ、太一たいち。それと太一のお友達も」

「おばさんも、久しぶりやな」

「あっ、俺、西中って言います。今日からお世話になりまーす!」

「西中くんやね、よろしゅうね。……それと、えーっと……」

「な……ハァハァ……なぐ、っ……ハァ、名倉……っと、ハァハァ……言い……ハァハァ……ま、す……ハァハァ……よろしく、お願い……ハァ……しま、っす……ハァハァ……」


 僕は息を切らしながら、何とか挨拶をすることが出来た。


「うんうん、名倉くんやね。こちらこそ、よろしゅうね。暑い中自転車で来るなんて、元気な子たちやね。疲れたやろ? はよお上がり。麦茶用意したるけんね」

「おおきに」

「あざーす!」

「ありがとう……ござい、ます……」


 そう招かれ、僕らは民宿を経営しているという、山田の親戚の家へ上がる。


 しかし解せない……あれほど出発する前に走り回っていた、山田と西中。あの二人は息を切らしていないのは、基礎体力の差なのだろうか?


 ――――僕も、たまには外に出ないとかな……。


 さすがにここまで体力の差を見せつけられたら、自身の体力の無さが不甲斐ない。




 もう少し真面目に体育に取り組もう、僕はそう思った。




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「ほい、麦茶やで。これ飲んで、一息しいね」


 そう言って人数分のグラスと、麦茶の入ったボトルを置いてふすまを閉める。


「……ぷはぁー! 生き返るぅー!」

「ホンマやなぁー」

「…………」


 僕は麦茶を少しずつ飲みながら、この喉を潤す冷たさのありがたみを噛み締める。


「しっかし……ゴメンなー、名倉。名倉があそこまで、体力がないとは思わなかったぜ」

「うっ……」

「ホンマにな。何度ぶっ倒れかけとったことやったか……」

「ぐっ……」


 僕はこの民宿に着くまで、何度か倒れかけた。その度、山田と西中が僕を木陰まで運び、介抱してくれたのだ。


「まぁ、山田が体力バカのせいで、俺も完全に感覚鈍ってたわ。普通あの距離をチャリで行くって、普通に考えたらないわなぁー。……それに便乗しちまった、俺もゴメンなー」

「いや、西中のせいじゃないし……」

「せやけど名倉、体力なさすぎやろ。もっと鍛えんと、泉探しなんてでけへんぞ?」

「う、うるさいなぁ!」


 恥ずかし混じりに僕が怒鳴ると、西中が驚いたような顔をする。


「な、なに……?」

「いやぁ……前も思ったんだけど、名倉も怒鳴るんだなぁって」

「あー、分かるわぁ」

「…………?」


 二人の言葉に、僕は首を傾げながら麦茶を飲む。


「いや、名倉のあだ名って『根暗ねくら』だったじゃん? 確かに最初は根が暗い感じだったけど、ココ最近じゃちょーっとイメージ違うって言うかさぁ」

「……西中って、デリカシーないとか言われない?」


 僕は持っていたグラスを置いて、西中を見る。


「僕は別に『根暗』というあだ名、気にしてないけどさ。でも普通、本人の前で言う?」

「ほらー。今みたいに結構、はっきり喋るじゃんね」

「ちゅーか、言い方から察するに。実はそのあだ名、結構気にしとったんやろ?」


 二人の言葉に、灯山が割って入る。


「そうなんだよ! 名倉くんって、結構気にするタイプなの! ガラスのハートなの! それに結構、言い方も辛辣なんだよ!」

「気ぃつけ、西中。こういうタイプは、かなり根に持つタイプや」

「でもそこも、名倉くんのいいところなの♡」


 そう言って、灯山は頬に手を添える。灯山は少し、黙っててくれないかな?


 ……好き放題言う三人に、僕は正直イラッときた。それと同時に、僕はこの感情に戸惑った。


 ――――僕はどうして、こうもムキになってるんだ……?


 数週間前までなら、きっと抱かなかった感情。

 いつもの僕なら、ただじっと……息を潜めるようにあの教室で最後まで過ごしていたはずだ。

 だって……あの教室にはもう、灯山はいないから。


 灯山のいない教室は、僕にとってただ退屈で……虚しい場所で……。


 それなのに、今は――――。


「名倉くん」


 灯山が僕に話しかける。

 僕は時折透ける、灯山へと視線を移す。


「楽しいね」


 そう灯山が笑うから――――。


「そう……だな……」




 頑丈に閉ざしていた僕の心の扉が、思わず開きそうになる。

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