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第十五話 【追加要員】

【20××年 7月28日】




「おっ、来たな名倉」

「課題のためだし、来るしかないだろ……」


 僕は渋々、そう答える。


 先日、山田が帰る際に無理やり連絡先を交換させられた。


 そして今日。必要なものと日時を指定され、僕は来たのだ。


「もぉー、名倉くんったら! そんな言い方はダメだよ!」

「相変わらず、愛想ないやっちゃなぁー」

「うるさいなぁ……」


 山田に呼び出された際に、提示されたものは主に三つ。


 一つ目は、水分補給用の飲み物や食料。


 二つ目は、課題と何故か着替え一式。


 そして、三つ目は……。


「どうして泉を探しに行くのに、が必要なんだ?」

「そらそーやろ」


 山田は自転車のサドルを叩きながら、こう答えた。


「あの廃村近くに、民宿みんしゅくやってる俺の親戚がおるんや。その親戚ん家で、数日泊まりながら探すんや」

「はぁ……?」

「まぁ宿代浮かすために、途中手伝いはせなアカンけど」


 僕は初めて聞いた話に、耳を疑う。


「なにそれ、聞いてないんだけど」

「言うてなかったからな」

「なんで!?」

「言うたら名倉、何がなんでも逃げとったやろ?」

「……っ!」


 確かに……山田の言う通り、事前に言われていたら僕は逃げていただろう。


「しかし、まぁ……着替え一式もってこいって時点で、気づかんちゅーのは……名倉も案外、抜けとるヤツやな」

「なっ……!」


 山田の言葉に言い返せず、僕は顔が暑くなるのを感じる。


 確かに着替え一式と言われて、何も疑問がわかなかった訳じゃないけど……。


 ――――まさか泊まりながらなんて、普通思わないじゃないか!


「ちなみに、名倉のお姉さんの許可はもうとっとる」

「……はぁ?」


 僕がこの怒りをどうしようかと考えていると、後ろから「おーい」と言う声が聞こえる。

 その声の主を見て、僕はさらに驚く。


「悪ぃ、遅れた!」

「大丈夫や、俺も名倉も今来たところや」

「マジ? 良かったぁー!」


 そこに現れたのは、山田と以前、泉について会話をしていた西中だった。


「おっ! 本当に名倉いるじゃーん! よろしくな、名倉!」

「に、西中……クン……? なんで……?」

「西中でいいってー、同じクラスメイトだろ。俺も『名倉』って、勝手に呼ばせてもらうからさ!」

「別にいいけど……いや、なんで西中もいるの?」

「なんでって、そりゃあ……って、おい! 山田! もしかして名倉に、俺の事話してなかったのかよ!?」

「すまん、完全に忘れとったわ」

「ひっでぇー!」

「かんにんな」


 西中は僕に何かを伝えていなかったことに対し、山田に怒りをあらわにする。一方の山田は、西中の抗議の言葉を右から左に聞き流しているようだった。


「……悪いな、名倉。俺が急に来て、ビックリしただろ? 実は俺も山田に頼んで、名倉の自由研究に加えてもらったんだよ」

「どうして……?」

「俺が『名倉と自由研究する』って話をしたらコイツ『俺だけ除け者なんて酷い! 俺も名倉と仲良くしたい!』って、泣きついてきたんや。女々しいやっちゃなぁ」

「ばっ……! それは言わねぇって、約束だろバカ!」


 西中は顔を赤くしながら、山田に軽く何度かキックする。


「いって……! ……まぁ、俺と二人でギスギスするよりは、西中みたいにバカみたいに明るいヤツがおった方がええやろ」


 山田がそう、こっそりと僕に耳打ちする。


「だからって……」

「なになに? 二人して、なんの話ししてんだ? 俺も混ぜてくれよ!」

「なんでもあらへん。西中はアホやっちゅー話しや」

「なんだとー!?」


 西中が、逃げる山田を追いかけ出す。そんな二人のやり取りを、灯山はクスクスと笑ってみている。


「西中くんって、オモシロイね。ねっ、名倉くん」


 灯山と二人を眺めながら、僕は小さく呟く。


「……そうだな」


 夏の風が、木陰を揺らしながら駆け抜ける。




 木漏れ日に透けるて見える灯山が、僕は少しだけ――――。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「ほ、ほな……ハァ……そろそろ、ハァハァ、出発しよか……?」

「ハァハァ……そ、そうだな……山田、名倉……ハァハァ……」

「えっと……大丈夫?」


 途中から全力の鬼ごっこのように走っていた二人は、だいぶ息を切らしていた。


「なんや、心配してくれとんのか?」

「大丈夫、大丈夫。今のは軽い準備運動みたいなもんだからー」

「それなら別にいいけど……」


 しかし今から出発と言っても、何故自転車を持ってきたのだろう。電車に乗るなら、駅は違う方向なのに……。


「ほな、改めて。出発するで」

「え、でも駅はあっち……」

「そんなん、小遣いの無駄遣いや。男ならチャリで行くで!」

「はぁ?」

「俺ら、小遣い今月ピンチなんだよ。だから電車賃浮かせるために、親戚の家までチャリでだってさ」


 電車で結構かかったあの距離を、自転車で行くというのか!?


「ほな、行くでぇ!」

「しゅっぱーつ!」

「おー!」


 僕の自転車の後ろに乗った灯山が、意気揚々と二人に合わせてそういう。


 ――――というか、そもそも……。


「そんなの聞いてない!!」




 僕の悲痛な声は、夏の風に揺れる木の葉の音にかき消されたのだった。

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