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名倉は言った。『君と関わるつもりはないよ』と。
これは明確な拒絶。『自分の
俺はさっきまで名倉が
「
アイスをいくら食べたところで、この暑さを紛らわすことは出来ない。
「あんな頼み倒されたら、放っておけるわけないやろて……」
蝉の声が
「あっついなぁー……」
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【20××年 7月21日】
夏休み初日。
特にすることもないので、僕は課題を進めていた。
「ねぇー、ねぇー。名倉くーん」
「うるさい、灯山。僕は今、課題やってるんだ」
「夏休み初日から計画的に課題をやってる名倉くん、カッコイイー!」
人とは、恐ろしい生き物だ。二十四時間、この灯山の騒がしさには最初は慣れないと思っていた。しかし現に僕は、慣れてしまった。嫌な慣れだ。
「……じゃなくて! せっかくの夏休みだよ!? 遊びに行ーこーうーよー」
「嫌だよ、外は暑いし。何より外に出る用事がない」
「ストイックな名倉くんも、カッコイイ! ……ストイックって意味、全然わからないけど!」
「……バカ」
僕は極々小さい声で言ったつもりだった。だが灯山はしっかりと聞き取ったようだった。
「名倉くん、酷ーい! バカって言う方が、バカなんだよ! 名倉くん、すごく頭良いけど!」
悪口で返すつもりが悪口になっていない灯山に、小さなため息をつく。
――――コンコンコン――――
ドアをノックされ、僕は返事をする。
「光ー? ちょっといいかしら?」
「どうしたの、姉さん?」
やたらとニコニコしている姉さん。僕は思わず首を傾げる。
「お・と・も・だ・ち・が、来たわよ♪」
「
覚えのない言葉に、僕はさらに首を傾げる。
すると――――。
「げっ……」
姉さんの横から現れた人物を見た瞬間、思わずそう口からこぼれた。。
「よぉ、名倉。昨日ぶりやな」
「なんでいるのさ……」
僕がそう口にすると、姉さんが僕と山田の間に入る。
「もぉ、光。お友達にそんなこと言っちゃダメよ、めっ!」
「いや、山田は友達じゃな……」
「お姉さん、気にしとらんので大丈夫ですよて。それにまぁ、俺と名倉の仲ですし」
「まぁ、まぁ、まぁ! 光! 山田くん、いい子ね!」
はしゃぎ始めた姉さん。いかん、これは早々に退場してもらわなければ。大きな勘違いをされかねない。
「ね、姉さん。山田は暑い中わざわざ来たんだ、なにかあげなきゃ。……ぶぶ漬けとかどうかな?」
「そうねぇ、そうよね! お昼も近いし、山田くんお昼もどうかしら!」
あ、ダメだ。山田に対する嫌味のつもりで言った言葉を、まさかの姉さんが額面通り受け取ってしまった。
「えぇ、そんなえぇんですか? お構いなく〜」
「いいのよ、いいのよぉ〜。お構いしちゃうわぁ〜♪」
そう言って姉さんは、ルンルンで階段を降りていく。
残された僕と山田は、その姉さんの後ろ姿をただただ無言で見ていた。