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第十三話 【夏休み初日】

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 名倉は言った。『君と関わるつもりはないよ』と。


 これは明確な拒絶。『自分の心の領域テリトリーに入ってくるな』と。


 俺はさっきまで名倉がった場所を見ながら、もうひと袋のアイスを開ける。


無視それが出来たら、苦労せんのやけどな……」


 アイスをいくら食べたところで、この暑さを紛らわすことは出来ない。


「あんな頼み倒されたら、放っておけるわけないやろて……」


 蝉の声がやかましいくらいに、鳴き続けとる。




「あっついなぁー……」




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




【20××年 7月21日】




 夏休み初日。

 特にすることもないので、僕は課題を進めていた。


「ねぇー、ねぇー。名倉くーん」

「うるさい、灯山。僕は今、課題やってるんだ」

「夏休み初日から計画的に課題をやってる名倉くん、カッコイイー!」


 人とは、恐ろしい生き物だ。二十四時間、この灯山の騒がしさには最初は慣れないと思っていた。しかし現に僕は、慣れてしまった。嫌な慣れだ。


「……じゃなくて! せっかくの夏休みだよ!? 遊びに行ーこーうーよー」

「嫌だよ、外は暑いし。何より外に出る用事がない」

「ストイックな名倉くんも、カッコイイ! ……ストイックって意味、全然わからないけど!」

「……バカ」


 僕は極々小さい声で言ったつもりだった。だが灯山はしっかりと聞き取ったようだった。


「名倉くん、酷ーい! バカって言う方が、バカなんだよ! 名倉くん、すごく頭良いけど!」


 悪口で返すつもりが悪口になっていない灯山に、小さなため息をつく。


 ――――コンコンコン――――


 ドアをノックされ、僕は返事をする。


「光ー? ちょっといいかしら?」

「どうしたの、姉さん?」


 やたらとニコニコしている姉さん。僕は思わず首を傾げる。


「お・と・も・だ・ち・が、来たわよ♪」

……?」


 覚えのない言葉に、僕はさらに首を傾げる。

 すると――――。


「げっ……」


 姉さんの横から現れた人物を見た瞬間、思わずそう口からこぼれた。。


「よぉ、名倉。昨日ぶりやな」

「なんでいるのさ……」


 僕がそう口にすると、姉さんが僕と山田の間に入る。


「もぉ、光。お友達にそんなこと言っちゃダメよ、めっ!」

「いや、山田は友達じゃな……」

「お姉さん、気にしとらんので大丈夫ですよて。それにまぁ、俺と名倉の仲ですし」

「まぁ、まぁ、まぁ! 光! 山田くん、いい子ね!」


 はしゃぎ始めた姉さん。いかん、これは早々に退場してもらわなければ。大きな勘違いをされかねない。


「ね、姉さん。山田は暑い中わざわざ来たんだ、なにかあげなきゃ。……ぶぶ漬けとかどうかな?」

「そうねぇ、そうよね! お昼も近いし、山田くんお昼もどうかしら!」


 あ、ダメだ。山田に対する嫌味のつもりで言った言葉を、まさかの姉さんが額面通り受け取ってしまった。


「えぇ、そんなえぇんですか? お構いなく〜」

「いいのよ、いいのよぉ〜。お構いしちゃうわぁ〜♪」


 そう言って姉さんは、ルンルンで階段を降りていく。




 残された僕と山田は、その姉さんの後ろ姿をただただ無言で見ていた。

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