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第十二話 【終業式のアイス】

【20××年 7月20日】




『……えー。今日から夏休みですが、節度を持って…………また、事故や怪我のないように…………』

「校長、話長いって……」

「あっつー……」

「今どきクーラーの着いてない体育館とか、地獄かよ……」

「早く終われぇー」




『…………としまして、私の話は以上とします』




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「やーっと終わった」

「校長の話って、なんであんなに長いんだ?」

「逆にすげーよ……」


 今日は、一学期最後の終業式。

 校長先生の長い話がやっと終わり、夏休みが始まろうとしていた。

 各教室に戻った僕らは、各自大量の課題とプリントを配られた。


「それじゃあお前らぁ、今からお待ちかねの夏休みだ。夏休みだからといって、気を緩めるなぁ。とくに山田ァ! 一学期最後のHRホームルームで、堂々と寝るなぁ!」

「ファッ!?」


 先生の投げたチョークが、山田の額に見事に当たる。

 その様子に、クラス中から笑い声が上がった。


「あははっ! 見て見て、名倉くん! 山田くんの額に、チョークのあとがついてる!」


 そう灯山が言うので、僕も山田の額を見る。確かにチョークのあとがついている。


「……本当だ」


 僕は誰にも聞こえないよう、小さな声で呟く。


 今の灯山を初めて見えるようになってから、一週間ほど経った。

 人とは不思議なものだ。最初はあれだけ驚いていたのに、今では灯山の存在に慣れつつある。


 だからこそ忘れそうになる。




 時折透けて見える灯山が、既に死んでいるという事実を。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「名倉、ちょっとええか?」


 HRが終わり、突然山田に声をかけられた。


「……その前に、その額のチョークのあと……拭いた方がいいと思うけど」

「なっ……!?」


 僕の言葉に、山田は慌てて額を手の甲で拭う。


「あ、あんの先生ぇめ……!」

「それで? なんか用? なんにも用がないなら、帰りたいんだけど」

「ちょっと! そんな言い方はないよ名倉くん!」

「せや、その言い方はないやろ」

「灯山には関係な……」


 山田の言い回しに、僕は首を傾げる。


 ――――今のはまるで……。


「せ、せやった! 今からクラスのみんなで、カラオケ行く言っとったんや! そんで……名倉は行くか?」

「行かないよ。行くわけないよ」

「せやと思ったわ」

「それじゃあ、僕はこれで……」

「待てや名倉」


 僕が山田を避けて、教室を出ようと出入口へ向かう。すると僕は、腕を掴まれた。




「ちょっと付き合えや」




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




「……ねぇ、山田……」

「なんや、名倉」

「どうして僕ら、コンビニの前でアイス食べてるの?」


 気づけば僕は、山田と二人で並んでアイスを食べていた。


「そりゃあ、暑いからやろ?」


 そう平然と返す山田に、僕はため息をつく。


「僕の認識が間違ってなければ、僕はそもそも山田と並んでアイスを食べる仲じゃないと思うんだけど……」

「ほんなら、今からアイスを買い食いする仲や」


 僕は「なんでそうなる?」と思いつつ、暑さて溶け始めたアイスを口にする。

 甘く冷たいアイスが、口内の熱を奪う。たったこれだけで、体中に涼しさを感じる。


「……というか僕ら、ほとんど接点なかったよね?」

「ほんなら、今から作っていけばええ」

「……どうして急に?」

「なんとなくや」


 山田の考えていることが分からず、僕は静かにアイスを食べ進める。


 ――――本当に僕らは接点がなかった。


 最近、山田は僕に絡むことが多い。どうしてかは分からないけど。

 僕は山田のことをよく知らない。今までも……きっとこれから先も、山田を知ろうとは思わない。


 僕は元々、他人と関わるのが苦手だ。とくに灯山が死んでから、まるで拍車をかけたように……。


 ――――理由は、なんとなく分かってる……。


 でもそれを認めたら、きっと僕はさらに弱くなる。

 強くなりたいとは思わない。でもこれ以上弱くなれば、僕はもう……。


「……山田が何を考えているのかは分からない」


 最後の一口を食べる。冷えきった口内に、冷たさ以外何も感じない。

 心もそうやって閉じれば、何も感じない。


「僕は君と関わるつもりはないよ」




 食べ終えたアイスに『あたり』と書かれた棒を、僕はそっとゴミ箱に捨てた。

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