「ありがとう、山田。保健室まで連れてきてくれて」
「まぁ、肝心の先生ぇが、出かけてもうだけどな」
保健室に着くなり、保健医の先生は会議で出てってしまった。
「大丈夫やとは思うけど……とりあえず、熱、測ろか? 自分、この間熱出したんやろ? 念の為に」
「あ、うん。分かった」
山田に手渡された体温計を受け取り、僕は脇にはさむ。そこで何となく、疑問が浮かんだ。
「えっと……なんで僕がこの前、熱を出したの知ってるの?」
「ギクッ……!」
保健室利用表に山田が僕のクラスと名前を、代わりに記入してくれている手が止まる。
「ほ、ほら! この間、名倉が一人で山に行っとったやろ!?
山田はどことなく目を泳がせながら、そう答えた。
しかし山田の挙動よりも、灯山の謎のうるさい動きの方が気になって仕方がない。何やってるんだコイツ。
「そ、そうだったんだ……たまたま山田がいてくれたおかげで助かったよ」
「せ、せやろ!?」
「でもなんで、山田もあそこにいたの?」
「ギクッ!」
山田は「えーっと……」と、口ごもる。
山田の挙動不審よりも、後ろの灯山が何かしてる方が気になる。でもここで振り向くと僕の行動も不自然だろう。気になるけどここは我慢だ。
「じ、実はな……オトンのオジイがあの村の出身やねん。それで
「そ、そうなの……?」
「せや! こんな偶然、ほんま驚きやわな! あはっ、あははははっ!」
山田はそう言って、豪快に笑う。山田って、こんなキャラだったかな? なんか普段見てる山田のイメージとだいぶ違うような気がするが、きっと気のせいなのだろう。
――――そもそも、山田とこうしてまともに話すのは初めてだし……。
僕の勝手なイメージで、山田を評価するなんて失礼だ。
――――――ピピピッ……。
どうやら熱を測り終えたようだ。体温計を外して確認する。
「どれ、見せてみ。……うーん、ちと、微熱やな。少し休んで、様子見てみるか」
「いや、僕は大丈夫……」
「アホウ、無理して寝込まれたら俺が気まずいんや。ええから寝とれ!」
山田はそう言って、半ば無理やり僕をベッドへと押し込む。
「先生ぇには俺が言うとくさかい、ゆっくり寝とるんやで」
「わ、分かった……」
「ほな、お大事に」
そう言って、山田は出ていく。
残された僕は、ベッドに横になりながら考える。
――――山田は全部『
少し微熱があるからか、考えようにも頭痛がし始めたためやめた。
「とりあえず、少し寝……」
「名倉ぐ〜ん! 微熱があったんだね! 大丈夫?」
――――そうだった、灯山がいたんだった。
灯山が泣きながら、僕の頭上を行ったり来たりしている。
「私に出来ることあったら、なんでも言ってね!」
「灯山……」
「あっ! 子守唄でも歌おうか!?」
「灯山……」
僕の意志など関係なく、灯山は調子外れの子守唄を歌い始める。
「灯山……頼む……」
――――頼むから静かにしてくれ……。
僕の願いは虚しく、灯山の調子外れの歌のせいで結局寝られなかった。