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第十一話 【保健室のやり取り】

「ありがとう、山田。保健室まで連れてきてくれて」

「まぁ、肝心の先生ぇが、出かけてもうだけどな」


 保健室に着くなり、保健医の先生は会議で出てってしまった。


「大丈夫やとは思うけど……とりあえず、熱、測ろか? 自分、この間熱出したんやろ? 念の為に」

「あ、うん。分かった」


 山田に手渡された体温計を受け取り、僕は脇にはさむ。そこで何となく、疑問が浮かんだ。


「えっと……なんで僕がこの前、熱を出したの知ってるの?」

「ギクッ……!」


 保健室利用表に山田が僕のクラスと名前を、代わりに記入してくれている手が止まる。


「ほ、ほら! この間、名倉が一人で山に行っとったやろ!? ! そう、! あの日、俺もあそこにおったんや! そんで倒れとった名倉を病院連れてったあと、名倉のお姉さんとよう話すようになってな! この前、名倉の様子が気になったから、名倉の家に電話したらお姉さんがそう言うてはったねん」


 山田はどことなく目を泳がせながら、そう答えた。

 しかし山田の挙動よりも、灯山の謎のうるさい動きの方が気になって仕方がない。何やってるんだコイツ。


「そ、そうだったんだ……たまたま山田がいてくれたおかげで助かったよ」

「せ、せやろ!?」

「でもなんで、山田もあそこにいたの?」

「ギクッ!」


 山田は「えーっと……」と、口ごもる。

 山田の挙動不審よりも、後ろの灯山が何かしてる方が気になる。でもここで振り向くと僕の行動も不自然だろう。気になるけどここは我慢だ。


「じ、実はな……オトンのオジイがあの村の出身やねん。それでオジイの墓参りに行っとったら、名倉を見つけたんや……そう、全部や!」

「そ、そうなの……?」

「せや! こんな偶然、ほんま驚きやわな! あはっ、あははははっ!」


 山田はそう言って、豪快に笑う。山田って、こんなキャラだったかな? なんか普段見てる山田のイメージとだいぶ違うような気がするが、きっと気のせいなのだろう。


 ――――そもそも、山田とこうしてまともに話すのは初めてだし……。


 僕の勝手なイメージで、山田を評価するなんて失礼だ。


 ――――――ピピピッ……。


 どうやら熱を測り終えたようだ。体温計を外して確認する。


「どれ、見せてみ。……うーん、ちと、微熱やな。少し休んで、様子見てみるか」

「いや、僕は大丈夫……」

「アホウ、無理して寝込まれたら俺が気まずいんや。ええから寝とれ!」


 山田はそう言って、半ば無理やり僕をベッドへと押し込む。


「先生ぇには俺が言うとくさかい、ゆっくり寝とるんやで」

「わ、分かった……」

「ほな、お大事に」


 そう言って、山田は出ていく。

 残された僕は、ベッドに横になりながら考える。


 ――――山田は全部『』と言っていたけど、本当に全部偶然なのだろうか?


 少し微熱があるからか、考えようにも頭痛がし始めたためやめた。


「とりあえず、少し寝……」

「名倉ぐ〜ん! 微熱があったんだね! 大丈夫?」


 ――――そうだった、灯山がいたんだった。


 灯山が泣きながら、僕の頭上を行ったり来たりしている。


「私に出来ることあったら、なんでも言ってね!」

「灯山……」

「あっ! 子守唄でも歌おうか!?」

「灯山……」


 僕の意志など関係なく、灯山は調子外れの子守唄を歌い始める。


「灯山……頼む……」


 ――――頼むから静かにしてくれ……。




 僕の願いは虚しく、灯山の調子外れの歌のせいで結局寝られなかった。

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