茂みを抜けると、小さな泉が現れた。
「これが……『
日が暮れ始めた薄暗い森の中でも、はっきりと分かる。まるでおとぎ話にでも出てくるような……その泉の澄んだ水は、淡く光って己の存在を主張しているようだった。
僕は疲れなど最初からなかったかのように、吸い込まれるように泉に近づく。
「思人ノ杜ノ泉……本当にあったんだ……」
そう呟いた時、『ハッ!』と我に返る。
僕は慌てて泉の前に
資料にはこう書いてあった。
『
正直に言えば、ここに辿り着くまで半信半疑だった。
だが目の前の泉を目にした今、僕は心から願いを込める。
――――もう一度、もう一度だけでいい……。
「お願いします……どうか……どうか、もう一度だけ――――」
▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁
どのくらい僕は、泉に向けて願い続けていただろうか。
思人ノ杜ノ泉は、僕の願いを聞き入れてくれたのか分からない。だが泉のその輝きが、徐々に失われはじめたのを感じた。
泉の輝きが完全に失われた頃には、真っ暗な森に一人だった。
僕は握り合わせていた手を
「ははっ……コレで何も起きなかったら、無駄足だな……」
星の見える真っ暗な森の空を見上げながら、この後どうしたものかと考える。
「電車はもうないし、そもそも野宿するつもりも考えもなかったからな……」
携帯は相変わらず圏外だし、そもそも姉さんには行き先も告げずに来てしまった。
「心配……してるだろうな……」
人里……はもう既にないとは分かってはいるが、運良く元村人か誰が現れてくれたらすごく助かる。
「最初に来た駅か……建物が残っていれば
――――お化けとかでたらどうしよう……。
そこまで考えて、背中がゾワッとする。
無我夢中でここまで来たが、よく考えれば
「いやいやいや……お化けなんて、非現実的なモノ……存在するわけないじゃないか……」
自分が何をしに来たのかを完全に棚に上げて、僕はそう呟く。
「とにかく! 今できることを考え……」
――――パキッ……――――
「ひっ……!?」
どこからか枝を踏む音が聞こえ、思わず小さな悲鳴をあげる。僕は両手で口を塞ぎ、近くの木の後ろに隠れた。
――――……人? いやいや、ここは廃村の山の中だぞ!? 獣? それとも……。
「まさか、幽霊……?」
そう自分で口にした瞬間、心臓がバクバクと脈打つ。
静寂な森の中で、僕の心臓だけが鳴り響いてるようだった。
――――落ち着け、そんな非現実的なモノはこの世に存在しない。きっと野生の……。
――――パキッ、パキッ……――――
――――完全にこっちに向かってきている……!
僕はどうしようかと一生懸命頭を働かせるが、何一ついい案が浮かばない。
それでも枝を踏む音の主は、僕の方へと確実に……迷いなく近づいてきている。
――――どうしよう、このままじゃ……っ!
考えている内に、音の主が木を挟んですぐ後ろまで来た。
僕は為す術なく、諦めてギュッと目を
そして走馬灯のように真っ先に浮かぶのは、姉と……。
そうこうしてるうちに、肩に触れられる。
――――ゴメン……っ!
「名倉……?」
「へっ……?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには端末の光をかざす……。
「やま……だ……?」
そう呟いた僕は、緊張の糸が切れたのか全身の力が抜ける。
「なん……」
「お、おい! 名倉! しっかりせぇ!!」
薄れゆく意識の中で確かに分かったのは、焦った顔のクラスメイトの姿だった。