ある休日のことだった。
「ごめんね、陽ちゃん。せっかくの休みなのに……」
僕、
「いぃーよぉー。俺、今日めーちゃくちゃ暇してたし」
そう応えるのは陽ちゃん……従兄弟の
たまたまお店の前を通りかかった陽ちゃんは、僕が一人で作業していることに気づいて手伝ってくれたのだ。
「あっ、涼ちゃん。これ食材とか備品の在庫記録。あと先月の棚卸しと、売上記録まとめたものねー」
「わわわっ、ありがとう陽ちゃん! すごく助かるよ!」
作業は主に、溜まっていた雑務や在庫管理。そして普段行き届かない店内の掃除など……することは山ほどあったので、陽ちゃんの手伝いは本当に助かった。
「ふっふーん。どう、涼ちゃん? 俺のスーパーでスペシャルにパーフェクトな姿に、さすがの涼ちゃんも惚れ直すっしょ?」
「ふふっ。僕は今も昔も、ずっと陽ちゃんのこと大好きだよ」
「いやん、そんな真っ直ぐに言われちゃうと……陽太、照れちゃうー」
陽ちゃんは両肩を抱きながら、茶化すようにそう言う。そんな陽ちゃんの姿に、僕はクスクスと笑う。
……でも、陽ちゃんのことが大好きなのは本当だから。お世辞とかではなく、素直に言葉のまま受け取っててくれると嬉しいな。
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「じゃー、次は更衣室兼、休憩室だなー」
「従業員は実質、僕と陽ちゃんの二人だし……そんなに使ってないから、すぐに終わるね」
僕がそう言うと、陽ちゃんは「え? あー……うん……ソダネー」と返す。どこか歯切れが悪そうに聞こえるのは、きっと僕の気のせいだろう。
……と、一瞬だけ思ったりもしました。
部屋のドアを開けると――――そこは悲惨な光景でした。
そう……まるで陽ちゃんの家に遊びに行ったときに毎回目にする、陽ちゃんの部屋のように……。
「よ、陽ちゃん!? ねぇ、陽ちゃん!? なんでこんなことになってるの!?」
「俺くらいしか普段使わないので……つい」
「だからって……! 幸いにも僕らの他に、従業員さんがいなくて良かったけど……陽ちゃん!!」
「ゴメンナサイ」
気づかなかった僕も悪いけど……少しだけ陽ちゃんにお説教をした後、僕たちは掃除を始める。
陽ちゃんは要領が良くて器用だけど、どうしても部屋の片付けなどは苦手だ。僕がお説教をしたせいか、陽ちゃんは少ししょんぼりしながらも一生懸命掃除をする。私物で持ち込んだ教材やテキストなどをまとめ、棚に片付ける。……あれ? そういえばあの棚って、そもそもうちの店にあったかな?
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「ふぅー、ひと仕事終えたおかげか……心なしか、心も部屋もスッキリしたぜ」
一通り片付け終えた頃には、陽ちゃんはいつもの調子に戻っていた。
「もう……ココは陽ちゃんのおうちじゃないんだから。次やったら怒るからね?」
「もう怒られたけど……」
「返事は?」
「あい……」
陽ちゃんは、渋々といった風に頷く。
「……ってことで。片付けている時に、何やらお宝っぽいのを見つけたので。一緒に中身を拝見しようよ、涼ちゃん!」
そう言って陽ちゃんは、どこからともなく少し古くなった箱を取りだした。
「陽ちゃん! さては全然反省してないね!?」
「したした、めーっちゃした。ちょーした。それではご開封ー」
陽ちゃんはどこか楽しそうに箱を開ける。
「おっ、色々と入ってんね」
「本当だ、たくさん入ってるね」
色とりどりの折り紙やおはじき、手紙やお守り。……そして数枚の写真が入っていた。
「先人が残したものかな?」
「先人って……ココはおじいちゃんのお店だよ、陽ちゃん」
ということは。これらは全て、おじいちゃんの宝物なのだろうか?
「涼ちゃん、見てみてー。すっげー若い頃のじーちゃん」
「わぁ、おじいちゃんかっこいいね」
「こっちはばーちゃんかな?」
「おばあちゃん、すごく綺麗だね」
気づけば、僕と陽ちゃんは写真に釘付けになっていた。
「なー、涼ちゃん。これってもしかして、この店じゃね?」
「…………!」
少し色あせたそれは……確かに、このお店の前で撮られた写真だった。
「……このじーちゃんさ、すっげー嬉しそうじゃね?」
「そうだね……おじいちゃん、すごく嬉しそうだね」
このお店……喫茶店『
「……おじいちゃん、このお店を開くのすごく頑張ったって言ってたもんね」
「その大事な店を涼ちゃんが継ぐって言った時、じーちゃんスゲー嬉しそうだったもんな」
おじいちゃんの大切にしていたお店を、今は僕が引き継いでいるんだ。
「……あっ。俺、スゲーいいこと思いついた」
「陽ちゃん?」
「涼ちゃん、ちょっと来て」
「ちょっ、陽ちゃん!?」
戸惑う僕にお構い無しに、陽ちゃんは僕の腕を引いた。
******
「みーどり、さん」
「わっ! どうしたの、陽太くん!」
カウンターに座る常連の
「いいもんあるけど……見る?」
「えー? そんなにもったいぶって、なになに?」
「実はー……」
「……!!」
陽ちゃんが何を見せているのか、なんとなく想像が着く。
陽ちゃんに腕を引かれたあの日、僕は写真を撮った。
あの時おじいちゃんが撮った写真と、同じ写真を。