あの男は、ことあるごとに周りを驚かせる。
何を隠そう。私……
あの男とたまたま繋がった腐れ縁は、幼稚園からだった。
園児ながらに思った、あの男の第一印象は……『なんか違う』だった。
幼稚園児にしては周りより、どこか落ち着いていて。
表情があまり変化しないせいか、周囲より大人びて見えた。
……かと思えば、ときおり年相応の反応を示し。
大抵の事は一度見ただけで、そつなくこなす。
熱中していたかと思えば、すぐに飽きてしまう。
常に自分のペースを崩さず。
だからと言って、周りの人間を不快にさせる訳ではなく。
むしろケンカなどの面倒なことに、自ら進んで仲裁に入り。
気づけば『自分があの男にフォローされていた』ということなど数知らず。
あの男――――
そんな古奈との縁も、小学校、中学校、高校……さらには大学まで続いた。
そして、大学に入学してしばらくした頃……。
「はぁ……? なっ……!?」
「どぉーよ、那月ちゃん?」
幼稚園の頃の私よりも随分と背が高くなった古奈が、見せつけるように少しだけ屈む。
「どうって……何その頭!?」
古奈の頭を見ながら、私は何度も口をパクパクさせる。
数日前まで暗かったはずの髪が、明るい金髪に染まっていたからだ。
「大学デビューでーす」
驚いている私とは正反対に、古奈は能天気に「いえーい」とピースする。
昔からこの男……表情と感情と言葉と抑揚が一致しないため、はたから見たら無表情な棒読みでピースしているようにしか見えない。
伊達に私は、この男と腐れ縁で繋がってない。
この男、ものすごく楽しんでいる!
「どう? ねぇ、どう?」
「はぁ……」
古奈の突然のイーメジチェンジに、今更と思いつつもため息が出る。
そういえば……高校時代も突然ピアスを付け始めたと思えば「実はイアリングでーす」とか言ってきたことがあった。
「どうよ、那月ちゃん? 元々イケメンの原石だった俺のイケメン度に、拍車がかかったと思わない?」
「自分で言うの? それ?」
「事実ですので」
古奈はそう言って『エッヘン』と胸を張る。
「うわ……」
確かに、古奈の顔立ちはどちらかと言うと……いや、正直に言ってかなりいいほうだとは思う。
だが自分で言ってしまうあたり、残念で仕方ない。
「ねぇ、古奈……その頭を見て、
青山先輩とは、古奈の従兄弟で青山
「涼ちゃんを卒倒させないように、ちゃんと事前通達した紳士な俺。ちょーえらい」
「いやいやいや、いきなり金髪にする時点でおかしいでしょ!?」
「那月ちゃんは手厳しいなぁー」
私の言葉に、古奈は「えー?」と口を尖らせる。
「しかし困ったなぁ」
「……? 何が?」
古奈の言葉に、私は眉間に皺を寄せて質問する。
「だって元々イケメンだった俺が大学デビューしたことによって、さらイケメン度が増し増しに増し……リニューアルオープンした事で。この世の全ての老若男女が、俺の魅力に気づいてしまうんだよ。それって、ヤバくない?」
「……ソウダネ」
私が反応に困っていると。
「どうしよう。俺が今まで見てきた『反応に困る那月ちゃんの表情集』で過去一困ってる顔になっちゃった」
「何その謎の表情集って……分かってるならやめてよ。本当に反応に困るから」
「調子に乗りすぎました。ゴメンよぉ……」
私の言葉に少しだけションボリとする古奈に、小さくため息をつく。
「……というか、なんで急に髪なんか染めたの?」
「……友達の一人が美容専門の学校に行ったので、カラーの練習のついでに俺の髪を使って染めてもらって……スゲー綺麗に染めてもらったから、那月ちゃんにも見てもらおうと思って……あとせっかくの大学デビューだから、記念になにかしたかった」
「さては最後が本音だな?」
「ゴモットモ」
古奈の素直すぎる最後の本音に、今日だけで何度目かのため息をついてゆっくりと息を吸う。
「……ま、まぁ……その……似合ってる、んじゃない……?」
私は顔を逸らしながら、もごもごと感想を告げる。
「へへっ、ありがとう」
チラッと見た古奈は。普段は表情と感情と言葉と抑揚が一致しない男とは思えないほど、珍しく全てが一致した笑顔で笑っていた。
(
「というわけで、那月ちゃん。今から涼ちゃんのところに一緒に行って、大学デビューした俺の姿をお披露目しに行こう」
「ちょっと待って、古奈。アンタまだ青山先輩に見せてないの?」
「涼ちゃん驚くかなぁー?」
「ちょっ……待ちなさい!」
その後……大学デビューをした古奈の姿を見た青山先輩が、卒倒したのは言うまでもなかった。