霧子誘拐事件が集結し、綾音は自由の身となった。
夏の最後に訪れた小さな町での大冒険は幕を閉じ、二学期がスタートした。
夏の間にカップルとなった者達が一定数はクラスにも存在したが、義人霧子ペアほどクラスをざわつかせたカップルは存在しないだろう。
なにせ霧子と清歌がほとんど付き合っていると思っていたのだ。
それが普段一緒にいる義人と霧子が付き合うことになるだなんて、クラスの誰もが予想していなかったのだ。
しかもそれでいていつも通り清歌も交えて三人で一緒に笑っている。
クラスメイトからしたら夏の間に何が起きたのかといった感じだろうが、いろいろあったにしろ三人の関係についてはほとんど変化していない。
少なくとも清歌たちの感覚ではそうなのだ。
義人と霧子が付き合い、清歌はいま綾音と交際している。
確かに蓋を開けてみれば変化はあるのだが、三人にしてみればたいした変化ではない。
「俺たちはこのままカフェでも寄っていくけど清歌は?」
「僕はいいや。二人で楽しんできて」
「遠慮しやがって」
「別にしてないって」
九月も下旬。
やや気温も下がってきて過ごしやすくなった学校からの帰り道。
義人の誘いを断った清歌は急ぎ足である場所に向かう。
当然義人たちに遠慮したわけではない。
清歌は清歌で会いたい人がいるのだ。
「綾音さん!」
清歌は以前のように一階から声をかけた。
二階の窓際には、清歌にとっての姫君がいる。
前は囚われの身だったが、いまは自由を得た姫君だ。
「待って! 今降りるから!」
綾音は清歌に返事をして窓を閉めた。
自由を得たはずの綾音だったが、一人で外に出るのはまだ不安なので、結局ほとんどの時間を二階の窓際で過ごしている。
ただ買い物などは行くらしく、少しずつではあるが何もなかった家の中に小物は増えてきていた。
「行こう」
玄関から現れた綾音の姿を見て、清歌は頬を赤らめる。
もともとスタイルもよく、綺麗系の綾音がすらっとしたパンツスタイルで決めてくると恐ろしく美しかった。
それこそ人間離れした美しさを誇り、道行く人が一度は振り返る程度には目立っていた。
どこに行くかという問題だが、いま向かっているのは裏山だ。
お祈り地蔵による暴走が起きてから、二柱の神が交互にあの地蔵に宿り、人間たちの願いを聞いているらしい。
なんとなく夏の事件以来、清歌たちは裏山に近づいてはいない。
特になにかされるなんてことはないはずなのだが、嫌な記憶というか、無意識のうちに避けていた。
しかし一ヶ月経ったいま、清歌と綾音は話し合って決めたのだ。
一度お礼に行こうと。
なんだかんだいって、こんな風に綾音と清歌が自由に外出できるようになったのは二柱のおかげ。
お礼を言いに行くぐらいはしとくべきだろう。
「そういえば清坊のおばあちゃんビックリしてたね」
「口から魂が半分出てたよあれ」
二人はそう言って笑いあう。
実は夏休みが終わってすぐ、清歌は綾音を連れ帰っており、その際におばあちゃんに紹介したのだ。
おばあちゃんは、清歌がまさかこんな綺麗な女性を連れてくるとは思っていなかったので、比喩でもなんでもなく本当に魂が抜けかけていた。
「長生きしてもらわないとね」
綾音は優しい笑みを浮かべ、清歌の腕に絡みつく。
清歌はやや恥ずかしそうにしながらも、まんざらでもない様子で抵抗もせず歩き続ける。
「綾音さん」
「うん?」
「僕は放さないからね」
清歌の意味深に聞こえるセリフに、綾音はクスリと笑う。
それはこっちのセリフだと言わんばかりに、綾音を力強く抱きしめた。
「ちょっと……」
清歌は誰かに見られていないかと周囲を確認する。
すでに裏山付近に来ているため、ひとけはほとんどない。
「ねえ清歌。清歌が卒業したら結婚しようか」
「え!? 良いの?」
「早くない? とかじゃないんだ」
綾音はツッコミを入れ、清歌を離す。
そしてすぐさま清歌の顔を両手で引き寄せて熱い口づけを……。
清歌は初めての感覚に硬直してしまい、口づけをした綾音も初めての経験に固まってしまった。
「好きだよ清歌」
「ぼ、僕もだよ綾音」
二人はもう一度、焦げ付くようなキスをした。
end