憂鬱になるほど陽の光を浴びれない6月。空模様も人の心も沈みがちなこの季節も、少年はここにいる。
早朝6時30分。少年以外誰もいないその空間は、鉄製のダンベルやマシーンで囲まれているせいか肌寒く感じる。
バーベルの両端に錆びたプレートを2枚ずつ1セット目の準備から始まる。
パワーラックの中で深い深呼吸を2,3回繰り返し、バーベルの下に潜り込み、担ぐ。担いですぐに「重い」という現実が押し寄せてくる、始めてしまったことを後悔し、これから始まることに恐怖し、今すぐにでも逃げ出したいと思う。そんな思考を嘲笑するかのように少年は、猛々しく、荒々しく一発目を始めた。
しゃがむごとに鳴る金属の擦れる音は、まるで地獄の門が開くかのように、静寂な孤独の世界に響く。
熱を帯びた大腿四頭筋は痛みに絶望しながら、最大負荷がかかったまま歯を食いしばり、力をふりしぼる。眉間にはしわが寄り、目は鏡の自分を睨み付けていないと視界がぼやける。耳は自分の呼吸と金属音、僅かな雨音しか聞こえなくなった。
肺は酸素を、心臓は血液を、不足した身体に一秒でも早く届けるために動く。
脳は恐怖、後悔、逃避、絶望が入り交じり、ぐしゃぐしゃに丸め込まれたその感情を火種とし、もう一度しゃがむ。
滝のように出る汗、食いしばる歯、歪む表情、込み上げる胃液。
おそらく彼以外の誰もが、もうやめていいと、膝をついて休めと、声をかけるだろう。
しかし、彼は決してまだやめない。
何故なら、銃を突きつけられているから。
そこにあと二回、残っているから。