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第19話 外痔核

 真面目な話が続いたので、ここで笑い話(?)を一つ。


 私は、『痔主』である。


 幼少期から便秘が酷く、下剤のお世話になってきた。時には一ヶ月も排便できず、腹痛で病院のお世話になることもしばしばあった。排便をコントロールすることはなかなかに難しく、自分の身体や体質にあった下剤も見つからず、未だに便秘や下痢を繰り返して苦しみ悩んでいる。


 便秘体質の私にとって、一番の天敵は『ストレス』だ。


 特に、外泊したり、旅行に行くなどした時に悪化する。普段はうんともすんともしない大腸だが、そういう時に限って腹痛を訴え出す。しかも、ガスが溜まって妊婦さんのように腹が膨れて痛むのに、ガスは出ないし便も出ない。そして頼みの綱の下剤も効かない。八方塞がりである。


 そんな私が『痔主』になってしまうのは、当たり前のことだったのかもしれない。


 強靭な便秘による切れ痔に悩む幼少期だったが、ある運命の日にイボ痔を発症してしまう。それも痛みを感じにくい内痔核ではなく、強烈な痛みを感じる外痔核の痔主になってしまったのだ。


 突然だが、歯科衛生士の国家試験を受けるためには、沢山の条件を満たして専門学校の卒業権利を得なければならない。そうして無事に権利を受け取った私は、歯科衛生士国家試験を受けるために同期たちとバスに乗り、福山から広島市のホテルに到着した。


 夕食後、一人ひとりに与えられた個室で、私は優雅にテレビを視て過ごしていた。――この日のために、人生で一番勉強を頑張ったのだ。あと十数時間後には試験が始まるのに、今更慌ててももう遅い。今日はゆっくりお風呂につかり、テレビを視て、就寝前に眺める程度に自作のテキストを読んで寝た。


 私は気持ちの良い目覚めと共に、症状が現れていることに気がついた。


「……うそだろ?」


 残念ながら嘘じゃない。寝る前はなんともなかった腹部はガスでぱんぱんに腫れ上がり、腹部で獣のような唸り声を上げていた。急いでトイレに入ったが、就寝前に服用した下剤は役に立っておらず、ガスも便もでなかった。


「まじかよ……」


 こんなにお腹が苦しく、痛くて、鳴っていたら、試験に集中することができないではないか。


「……しかたねえ!」


 謝恩会のために綺麗に伸ばしていた爪に不安があったが、私はここで摘便てきべんすることにした。ワセリンも医療グローブもなく、爪はすこぶる長い。それでも私は腹のガスと便を取るために、右手の中指を肛門に挿入しようとした。


 しかし、上手くいく筈はなく……。


 肛門の周囲をズタズタに荒らして、肛門がぷっくりと腫れてしまった。


 結局私は、ガスによる腹痛と音、なにより肛門の痛みに耐えながら、無事に試験を受けきることができた。試験が終わる頃には、お尻にビー玉を挟んでいるような違和感と猛烈な痛みに襲われていたのであった。


 『切れ痔』のDちゃんのすすめもあって、私ははじめて肛門科を受診した。


「あー。結構育ってるねー。今カメラで見せてあげるよ、画面を見とってぇな」


 そう言って内視鏡を肛門に挿入された。激痛だった。ちなみに診察体勢は横向き寝だった。


「おっ! 一、二、三……まだ手術する程じゃないけど、内痔核もあるね。おっ、裂痔もあるねぇ〜〜」

「い、痛いです……」

「痛いのはこれから見せる、肛門周辺に出来る外痔核のせいだねぇ」

「外痔核……イボ痔ですか?」

「そうだね〜〜。ほら! このうっ血してる、赤紫色のブルーベリーが外痔核。この外痔核、一度なったら繰り返すし、激痛なんだよねぇ〜〜! はい! 薬を塗っておきました! 飲み薬と塗り薬、下剤を受け取ってから帰ってね。お大事に〜〜」


 ……こうして私は、切れ痔、内痔核、外痔核を持つ、『大痔主』となったのであった。


 蛇足であるが、無事に国家資格を取得し、歯科衛生士として歯科医院で働くことができた。

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