目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第15話 夫との出会い④

 幸せいっぱいで大阪に行ったチワワだったが、広島に帰ってきたら萎びたチワワになっていた。


「どうしたんすか。彼女に頭なでなでしてもらわなかったんすか?」


 私は笑いながらチワワをからかった。するとチワワが、


「……彼女と別れてきた」


 と言ったのだ。「え」と、二の句が継げない私をバックヤードに置き去りにして、チワワは店内へ入っていった。


「うそ……じゃろ……?」


 私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。失恋したと思っていたのに、チャンスが降って湧いてきたのである。……この機会を逃してなるものか!

 私はこの日から、チワワの心の傷に寄り添いながら、自己アピールを開始した。


 まずはメアドと電話番号を交換した。おはよう、おやすみ、のメールに加えて、実習で生けた生け花の写真も送った。ピンクの白衣姿ももちろん送る。「どうか、白衣フェチであってくれ……!」と、願いながら。(セーラー服フェチだった。クソが)


 そしてある日、運命のダブルデートの切符を手にすることに成功した私は、チワワの親友であるAさんと、私の友だちであるBさん。私とチワワの四人でボーリングデートに行った。

 ……正直、デートの内容はあまり覚えていない。かわいい子アピすることに全力を注いでいたからだ。覚えていることといえば、ストライクを決めた時にチワワとハイタッチすることが出来て、「うぉおおおお! この手は二度と洗わねぇ……!(オイ。歯科衛生士)」と感動したことくらいだ。


 ボーリングのあとは、尾道ラーメンを食べに行って、だべって終了した。私の友人は自家用車で来ていたので、一人で帰っていった。私はAくんの運転する車に乗り、アパートまで送り届けてくれることになった。


 その途中、二人が煙草休憩がしたいと言うので、私は「ええよー」と言って、ひとり車内で待っていた。すると、先に吸い終わったAくんが戻ってきた。


「あれ? チワワさんは?」

「まだ煙草吸ようるし、なんか、家から電話かかってきたっぽい」

「じゃあ、もうちょっと待機かー」

「なあ、アナちゃん。アナちゃんて、もしかして、チワワのことが好きなん?」


 突然、突っ込んだ質問をされて、私の心臓はドッキーン! と跳ねた。そして、何故か、めちゃくちゃシリアスな空気が車内に満ちていく。私が、「チワワさんのことが好きです」と言ったあと、Aくんはチワワの過去を語り出した。


 夫のめちゃくちゃプライベートなことなので、ここは割愛させていただく。


 最終的に、元カノや元妻の話になり、これまでチワワは沢山傷ついてきたんだと聞かされた、チワワと連絡を取り合うようになってから、ちょこちょこ聞いていた話もあったが、私は真面目に話を聞いた。そして――


「俺はチワワに、二度と傷ついて欲しくないんよ。アナちゃんは、なんでチワワと付き合いたいん?」


 その質問に、私は虐待・モラハラ・ネグレクトを経験して生きてきたことを話して、実の親から悲惨な扱いを受けてきた私なら、チワワのことを分かってあげられるし、暴力も振るわないし、幸せにしてあげられる。いや、


「私はチワワさんのことを幸せにしてあげたいんです!」


 と言った。するとAくんはにこっと笑って、


「アナちゃんにだったら、チワワを任せられるな」


 と言ってくれた。


 そして、私を無事に送り届けてくれたあと。Aくんはチワワに、私のことを話したのだという。そして、当時、私のことが好きだったチワワは、過去のトラウマのせいで恋愛をためらっていた。しかし、Aくんに、


「アナちゃんとなら、幸せになれるじゃろう」


 と言われて、私に告白することを決めたらしく。私とチワワは、晴れて付き合うことになったのだった。


 そして今現在も、二人で仲良く? 夫婦として暮らしている。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?