幸せいっぱいで大阪に行ったチワワだったが、広島に帰ってきたら萎びたチワワになっていた。
「どうしたんすか。彼女に頭なでなでしてもらわなかったんすか?」
私は笑いながらチワワをからかった。するとチワワが、
「……彼女と別れてきた」
と言ったのだ。「え」と、二の句が継げない私をバックヤードに置き去りにして、チワワは店内へ入っていった。
「うそ……じゃろ……?」
私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。失恋したと思っていたのに、チャンスが降って湧いてきたのである。……この機会を逃してなるものか!
私はこの日から、チワワの心の傷に寄り添いながら、自己アピールを開始した。
まずはメアドと電話番号を交換した。おはよう、おやすみ、のメールに加えて、実習で生けた生け花の写真も送った。ピンクの白衣姿ももちろん送る。「どうか、白衣フェチであってくれ……!」と、願いながら。(セーラー服フェチだった。クソが)
そしてある日、運命のダブルデートの切符を手にすることに成功した私は、チワワの親友であるAさんと、私の友だちであるBさん。私とチワワの四人でボーリングデートに行った。
……正直、デートの内容はあまり覚えていない。かわいい子アピすることに全力を注いでいたからだ。覚えていることといえば、ストライクを決めた時にチワワとハイタッチすることが出来て、「うぉおおおお! この手は二度と洗わねぇ……!(オイ。歯科衛生士)」と感動したことくらいだ。
ボーリングのあとは、尾道ラーメンを食べに行って、だべって終了した。私の友人は自家用車で来ていたので、一人で帰っていった。私はAくんの運転する車に乗り、アパートまで送り届けてくれることになった。
その途中、二人が煙草休憩がしたいと言うので、私は「ええよー」と言って、ひとり車内で待っていた。すると、先に吸い終わったAくんが戻ってきた。
「あれ? チワワさんは?」
「まだ煙草吸ようるし、なんか、家から電話かかってきたっぽい」
「じゃあ、もうちょっと待機かー」
「なあ、アナちゃん。アナちゃんて、もしかして、チワワのことが好きなん?」
突然、突っ込んだ質問をされて、私の心臓はドッキーン! と跳ねた。そして、何故か、めちゃくちゃシリアスな空気が車内に満ちていく。私が、「チワワさんのことが好きです」と言ったあと、Aくんはチワワの過去を語り出した。
夫のめちゃくちゃプライベートなことなので、ここは割愛させていただく。
最終的に、元カノや元妻の話になり、これまでチワワは沢山傷ついてきたんだと聞かされた、チワワと連絡を取り合うようになってから、ちょこちょこ聞いていた話もあったが、私は真面目に話を聞いた。そして――
「俺はチワワに、二度と傷ついて欲しくないんよ。アナちゃんは、なんでチワワと付き合いたいん?」
その質問に、私は虐待・モラハラ・ネグレクトを経験して生きてきたことを話して、実の親から悲惨な扱いを受けてきた私なら、チワワのことを分かってあげられるし、暴力も振るわないし、幸せにしてあげられる。いや、
「私はチワワさんのことを幸せにしてあげたいんです!」
と言った。するとAくんはにこっと笑って、
「アナちゃんにだったら、チワワを任せられるな」
と言ってくれた。
そして、私を無事に送り届けてくれたあと。Aくんはチワワに、私のことを話したのだという。そして、当時、私のことが好きだったチワワは、過去のトラウマのせいで恋愛をためらっていた。しかし、Aくんに、
「アナちゃんとなら、幸せになれるじゃろう」
と言われて、私に告白することを決めたらしく。私とチワワは、晴れて付き合うことになったのだった。
そして今現在も、二人で仲良く? 夫婦として暮らしている。