古本屋さんでバイトする前、私は飲食店とコンビニでのバイトを経験していた。飲食店でのバイトは泣くほどつらく、しかし時給がよかった(夏休みだけで十万円稼いだ)ので、店長からのパワハラとセクハラに耐えて働いた。私立高校に通っていたのでバイトは禁止だったのだが、ヲタクは金がかかるもの……背に腹は代えられなかった。
私立高校の上、十一月には専門学校に受かっていた私は、三学期(始業式と卒業始業式だけ出れば良い)はコンビニのバイトと自動車免許の取得(ATだよ! MTは高いからね……!)に明け暮れた。コンビニのバイトは……クッッッソ暇だった。暇すぎて辞めたかった。時給が最低賃金すぎたし。
しかし古本屋さんは、大量の本を一度に持ち運ぶので重いし腰が痛い! カウンターで本の表紙を拭くんだけど、腰が痛い!! あと、洗剤で手が荒れるし、本の拭きすぎ(ただ拭くだけじゃないのよ)て右手が腱鞘炎に!!
私は生活費を稼ぐためにバイトをしているのであって、本職は歯科衛生士なんです! こんなに手がぼろぼろになってしもうて……しかも腱鞘炎! スケーリング実習での手根運動がキツかった……! 痛すぎて泣いた。
もういっそのこと、歯医者で働こうかとも思ったけれど、時給600円はしょぼすぎる。私は、時給850円の古本屋さんでがんばりまーっす!
……と、頑張ってきたとき。私の夫になるイケメン――名をチワワと呼ぼう。チワワ君が本の
「あの新人、本拭くの遅いから教えろや」
とでも言われたのであろう。だが、その時の私は、数日間のバイトで腱鞘炎を患っていたのだ。そんな私の状況を見かねて、夜メンのリーダーが手に負担のかからない拭掃の仕方を優しく教えてくれていた。
しかしこのチワワは、上司に言われるがまま、私の腱鞘炎を悪化させに来たのであった。
――本職は違えど、給料を頂いている身。私は十分真面目に働いていた。
それなのに、私の苦しみを聞こうともせず、事務的に仕事を教えるチワワにすこぶる腹が立った。最初の『はぁん、かっこいい!』はどこへやら。『この、クソチワワが』と、私はチワワを敵として認識した。そして性格が悪いことにこう思ってもいた。
――私はなあ! 午後から出勤すればいいフリーターのあんたらと違って、睡眠時間二時間で専門学校に通ってんだよ! だけど、真面目にバイトもこなしてんの! それなのに『本を拭掃するのが遅え』とかなんとか言って、歯科衛生士にとって何よりも大切な手をボロボロにさすんじゃねえ! クソ野郎が!!
……と。もう、イケメンだとか関係ねえ! こいつは店長の犬だ!
チワワ……私の将来の夫への評価は地に……いや。底なし沼の中に落ちていた。