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第11話 捨てられた真心

 今回の話は、私が幼稚園生だった時の話である。


 あまり記憶が確かではないのだが、『母の日にお手紙を渡そう!』という行事があり、折り紙のカーネーションと一緒に手紙を書いて母親に渡すのだ。


 一刻も早く母にプレゼントしたい気持ちを抑えつつ、幼い私は母の日を指折り数えて待ち続け、とうとうやってきた母の日の朝にプレゼントを渡した。


「ママ! お母さんの日だよ! いつもありがとう!」


 と、そんなことを言って渡したと思う。


 しかし不思議なことに、この時の母の表情やリアクションを覚えていない。


 はて? 何故なのだろうか? けれど、普通にお礼を言われた気がする。


 母の日から幾日か経ち、母の日にプレゼントを渡したことも忘れかけていた頃。私は幼いながらに、母の家事を手伝っていたので、ベランダで洗濯物を取り込んでいた。コンクリート造りのベランダは、裸足で出られるように木製のすのこが置いてある。そしてその上には、翌日に出すであろう燃えるゴミが入った透明のポリ袋が置いてあった。


 いつもの私なら、そのゴミ袋に大して興味を惹かれなかっただろう。しかし、まるで見せつけるかのように、それは透明なゴミ袋からこちらを見ていたのだ。


「これ……アナがママにあげた、母の日のおてがみ……」


 私は生活ゴミと一緒に捨てられた、真心を込めたプレゼントのカーネーションと手紙を見た途端、その場でギャン泣きした。


 当時、母は買い物に出かけており、家には珍しく父がいた。驚いてベランダを開けた父に、ゴミ袋を指差しながら、私は泣きながら訴えた。


「あれぇ! アナがママにあげた母の日のプレゼントォ〜〜! ママ、捨ててしもうとるぅ〜〜!!」


 ……正直、この話はかなりのトラウマで、体調が悪いととても書けるものではなく。今になってやっと書くことができた。


 父は笑いながら、気の所為じゃろう! とかなんとか言っていたが、その切り返しには無理がありすぎた。


 結局、「酷いお母さんじゃのう! パパが叱ってやろうか?」と言われたので、私は自分の気持ちよりも母が責められないことを選んだのだった。


 燃えるゴミと一緒に捨てられた、私の真心。ゴミ袋から取り出すことも出来たが、私はそのゴミ袋が捨てられる様子を黙って見送った。


 だって、私がどれだけ心を込めて書いた手紙だとしても、母にとってはただのゴミに過ぎなかったのだ。それを救い出して、母にとってはゴミである私の真心を、再び笑って手渡すことは無理だと思った。


 蛇足であるが、母は、弟からのプレゼントは全て大切に持っていた。母の日の手紙など、財布の中に入れて、時折出して眺めては微笑むのだ。その顔を見る度に私の胸は痛んだが、母は気づくことはなかった。


 ねえ、ママ。どうしてあの時、私があげた手紙を捨てちゃったの?


 そう尋ねることは、ついぞ出来はしなかった。

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