注:新年に相応しくない、暗くて重い内容になっております。
2024年12月30日。
父(55歳)が再婚相手の女性を連れて、我が家へ年末の挨拶にやってきた。再婚相手の女性はTさん。確か、3人のお子さんの母親である。
私がTさんに初めて会った時、彼女は37歳くらいで、元夫のもとへ置いてきたという子どもたちは未成年だった。1番下の男の子はまだ小学校低学年だったはずだ。当時、すでに歯科衛生士として働いていた私はもちろん成人済み。父は頑なに否定しているが、我が家を崩壊させた女に会わせるなんて、正気か? このおっさん。……と思ったものだ。「会わせたい。仲良くしてほしい」と言われたが、もちろん、「はい、わかりました」と頷ける筈もなく。
大人になった当時も、母親からの愛情に飢えていた私は、「W不倫の末、3人の可愛い子供を捨ててくるなんて、なんてクソ女なんだ! 母親失格だ!」と思っていた。あとは単純に、元ギャル臭がする女性だったので好きになれなかった。ヒョウ柄のバッグや、ジャージを着て、キティちゃん健康サンダルを履くタイプの女性は好きではない。……もちろん、全て見た目で決めつけてはいけないと分かってはいるが、趣味が合わないのは確実だった。
……そんな女性と10年以上連れ添ったあげく、ついに再婚することに決めたのだ。私の父親は。そして、正月の挨拶には、1歳半だという双子の乳幼児を連れてきていた。一瞬、私の義理の弟!? と驚いた。が、違った。話を聞くに、Tさんの長女が父とTさんのマンションに里帰りしている為、私に義理の甥っ子を紹介しに来たという。
――なんなの、この人たち。幸せ家族ですか?
私や母、弟は傷つけられるだけ傷つけられた。そして私は、家庭環境が劣悪だったことがトラウマで、「子供を産んで育てる」という選択が出来ない人間になってしまった。(自分自身を愛せないのに、子供を愛す自信がない。それにいつ死んでもいいと思っているから)だというのに、暴力を振りかざした本人は、年下の美人な女性と再婚し、調理師だというTさんの手料理でぷくぷく太り、義理の孫を抱いて幸せそうに笑っているのだ。
正直。とてつもない嫌悪感を抱くのと同時に、胃の中のものを全て吐き出してしまいそうだった。いや、それよりも。衝動的に手首を切ってしまいたくなった。包丁で完全に切り落とした血まみれの手首を、4人に向けてぶん投げてやりたかった。
――やられた方の気持ちも知らずに。何も考えずにトラウマに塩を塗りに来やがって! と。
私の手首から赤黒い血が吹き出して、それが腐った海鮮物のような臭気を放ち、黒い雨となって父に降り注げばいいのに。阿鼻叫喚する父の姿を嘲笑えたらいいのに。さんざん私の身と心を、殴って、叩いて、蹴って、罵って、めちゃくちゃにした悪魔のくせに、こんなものが怖いのか! と。
もちろんこれは、心の中の叫びであり、実際の私は笑顔を浮かべて子供を抱っこした。――ああ。なんて可愛いんだろう。私も自分の子供が持てたら……。
そう思う度に、頭の中で声がする。
「お前は一生、誰にも本心を理解してもらえないまま、自分の分身を生み出すことも出来ず、孤独に朽ち果てていくのだ!」
と。私はその声を聞かなかったフリをして、笑顔で父たちと笑い合う。――反吐が出そうだ、と思いながら。
とても疑問に思うのだが、Tさんの娘は、何故平気で父やTさんに接することが出来るのだろうか? 二人が不倫関係にあった時、娘はまだ中学生だったと聞いた覚えがあるのだが。それに聞けば、年子の女の子を妊娠中だそうだ。――何故だ? 何故、私の弟や、Tさんの娘は、親の汚い面を見せつけられて、捨てられて、家庭が崩壊したというのに。何故、子を生み、母になり、家庭を作ることに恐怖を感じないのだろう?
私は今でも、自分の命を否定し続けながら生きているのに。
何故? 何故? 何故?
臆病な私は、幸せそうな父とTさんに訊ねることが出来なかった。
――あなた達は、どうして笑って生きているの? と。