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第5話 ストレスとプロレス

 父は浮気に夢中、そして家には寝に帰ってくるだけ。母は愚痴をこぼしてばかり、それも当時4歳だった幼い私に。


 今思えば、私はストレスから、一種のうつ状態になっていたのであろう。頻繁に嘔吐をし、頭が割れそうなほど酷い頭痛に襲われ、血が出るまで爪を咬み、髪の毛を抜いて、夢遊病になっていた。そして、身体に虫が這いずるような不快感に悩まされ、血が出るまで皮膚を掻きむしっていた。


 主人と出会って知ったことなのだが、これらの症状が続いていたら、普通は病院を受診するそうだ。


 だが私は、一度も病院に連れて行ってもらった記憶がない。上記の症状の中で一番苦しんだのは、激しい頭痛である。細い針金に頭を少しずつ締め付けられていく感覚。痛い! と声に出さなければ耐えられない程の痛みで、じっとしていることも困難で、身体を横たえ頭を押さえて「痛い! 痛い! 痛いよー!」と泣き叫び、右に左にと身体を悶えさせていた。当時はまだ、◯ファリンが販売されておらず、私は痛すぎて気を失うまで、母に放置されていた。――これは一種の、ネグレクトと言えるのではないだろうか?


 基本的に、母は私を無視していた。たまに声をかけてくるのだが、


「うるさい」

「大げさ」

「眼が悪いのに、絵本ばっか読みょうるけぇじゃ」

「あんたのせいで、ママの仕事が増える」


 ……などなど。「大丈夫? 病院に行こうか」なんて言葉は掛けられたことがなかった。


 そして話は変わるが、私は新たなトラウマを抱えることになる。母が安定期に入ったのだろう。父と母がプロレスをしていたのだ(なんの行為かおわかりになるだろうか?)。二つある部屋のうち、一部屋は寝室になっていて、もう一部屋は居間になっていた。私は幼いながらに眠りが浅く、薄い壁を通して聞こえる母の苦しげな声に目を覚ます。そして、寝室に行くと、父が母の上に乗っていじめているではないか! 私はギャン泣きしながら、「パパ〜! ママをいじめんといてぇ〜!」と言った。すると私の方を振り返った父が、「うるせぇ!! あっち行っとけ! クソガキが!!」と怒鳴った。父の剣幕にビビり散らかした私は、大人しく居間に戻って、泣きつかれて眠った。この頃から少しだけ、「男は怖くて、汚らしい」という考えが芽生え始める。


 結論から言うと、軽度の男性恐怖症を患ったのである。これよりも、もっと酷く、恐ろしく、汚らしい体験をすることになるのだが、それは弟が生まれて成長し、私が小学4年生の時に起こる事件なので、今は割愛させていただく。


 そしてぐっすりと眠っていた私は、プロレスが終わった父に腹を蹴られ、強制的に起こされることになる。そして理由がわからないまま、頬をビンタされ、頭を丸めた雑誌で何度も殴られ、ひたすら「ごめんなさい。うちがわるかったです」と言わせ続けられるのだ。そして気絶するように眠ったのだろう。記憶はそこで途絶えている。


 次回は、母が入院し、弟が生まれたところから書き始めようと思う。

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