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第30話 反撃開始

 国王の怒号で騎士たちはいっせいに動き始めた。


「よいか! 迅速にサイラスをこの場へ連行しろ! これは王命だっ!!」


 さらに王命まで出され、騎士たちはどの方法が一番早いか荒々しい言葉で問答している。


「僕が連れてくる。五分もあれば十分だ」


 ファウストのひと言で場が静まり返った。確かにファウストなら転移魔法が使えるから、一瞬で往復できる。


「リュリュ、マージョリー、セト。カレンを頼む」


 三人の賢者が頷いたのを確認したファウストは、カレンに「ちょっと待ってて」と囁き転移魔法を使った。


(ほんの少しだとわかっているのに、こんなに不安な気持ちになるなんて……)


 ファウストが頼もしいから、ついつい甘えてしまっているようだ。カレンはこの後の展開に備えて、静かに心の準備をした。


 宣言通り五分で戻ってきたファウストは、汚れも傷もないよろいをまとうサイラスを床に転がす。


 さらにレイドルとサーシャまで連れて戻ってきた。


「ぐわっ! おっ、お前、いくら賢者だと言っても無礼だぞ! 俺は王太子だとわかっているのか!?」

「ああ、エンシェントドラゴン討伐の戦場で、最後尾でふんぞり返っていたのはわかってる」


 汚れも傷もない鎧を身にまとっているということは、戦闘に参加せず、援護もしていないことの証でもある。図星だったのかサイラスはグッと黙り込んだ。


「あら、こっちはこっちでいい感じなのかしら?」

「みたいだな。ま、エンシェントドラゴンはファウストの手伝いもあって倒せたから、ゆっくりしていこうぜ」

「そうね。わたくしたちの役目は終わったみたいだし。あ、エンシェントドラゴンの後処理は騎士の皆さんにお願いしてきたので、ご安心くださいませね」


 サーシャが騎士たちに向けて微笑むと、ワッと歓声があがった。エンシェントドラゴンからは非常に優れた武器や防具が作られる。それは騎士団にとってまたとない吉報だ。


 サーシャとレイドルはほこりと泥に塗れ、エンシェントドラゴンを倒した時に返り血も浴びたせいか、衣装がところどころドラゴンの血で青く染まっている。


 そのことから、エンシェントドラゴンとの戦いは苛烈だったと推察できた。


「サイラス……」


 国王はより眉間の皺を深めて、ポツリと呟く。


「父上! この賢者はあまりにも無礼です! 魔天城へ訴えましょう!」

「…………」


 サイラスは目の前の国王を味方にしようとしたが、国王の雰囲気がいつもと違うことに気付き、ようやく周囲を見渡す。


 城内にいた高位貴族をはじめ、聖教会の教皇と枢機卿まで揃っている現状を見て、やっとことの重大さを認識したようだ。


「これは……いったいなんなのですか?」


 サイラスは揃った面子にギョッとした。特別な会議でも、ここまで高位貴族や教皇、それに枢機卿たちが集まることはない。

 間違いなく、なにかが起きていると理解できた。


 それが、己の破滅だと知らずに、カレンを見つけて近寄ってくる。


「カレン、元気にしていたか? 聖教会に戻ったと聞いたが、心配していたんだ。魔道具開発の方が――」

「サイラス様。お話があります」

「……話とは?」


 ようやく。


 ようやく、これまでの鬱憤を吐き出し、とっくに愛想の尽きた婚約者に反撃できる。


 カレンは極上の笑みを浮かべて、サイラスにはっきりと告げた。



「サイラス・リトルトン。この場で、貴方との婚約を破棄いたします」



 誰も彼もカレンの言葉にやむなしと頷いている。

 だが、そう告げられたサイラスだけが激しく抵抗した。


「なにを言うのだ!? 俺はカレンを愛しているのだぞ! これまでもずっとお前を支えてきたではないか! それに、俺のために魔道具を開発しているのだろう? あれはどうなる?」

「別に貴方のために開発したわけではありませんが?」


 以前に王城で感じた不快感を隠さず、カレンは冷淡な声で真実を告げる。


「そもそも私は魔道具開発の手伝いをしていただけで、開発責任者は全能の賢者ファウスト・エヴァリットです。彼は王国の犯罪発生率を減らすため、また効率よく記録を集めるために魔道具を開発していたのです。すでに先週発表されましたが、ご存じないのですか?」


 サイラスがエンシェントドラゴンの討伐に出立する前に、確かに魔道具の発表はされていた。


 新聞にも取り上げられ話題になっていたはずだ。


「魔道具について興味すらないのに、自分の都合のいいように解釈されても困ります」

「いや、だって、カレンが魔力を増幅する魔道具もできると言ったではないか!」

「ええ、確かにそう言いました」

「そうだろう! では――」

「ですが、魔力を増幅させる魔道具ができるまでに十年はかかるでしょうね」


 ニッコリと笑いながら、カレンは真実を突きつける。


「なんだと!? お前、俺を騙したのか!?」

「騙してなどいません。いったいサイラス殿下はどのような解釈をされたのですか? 最初の手紙で魔道具の開発について、その用途や目的まで明記していますが、読まれてないのですね」


 サイラスはギリッと奥歯を噛みしめて、込み上げる怒りをこらえているようだ。


(ふう、だいぶスッキリしたけど……まだだわ)


 カレンは氷のように冷たく微笑んで、サイラスを追い詰める。真の自由を手に入れるため、追撃の手を緩めるつもりはまったくない。



「それから、サイラス殿下の不貞による婚約破棄ですので、慰謝料を請求いたします」 




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