クルサードにおいては、ドラゴンや龍の分類は、武仙幇の元となった組織の分類法が、現在でも使用されている。
通常の龍は、形状で二種類に分類され、更に大きさで四種類に分類される。
形状は東洋風の龍、寧人の世界におけるE型が、クルサードでは
大きさは
通常の龍に関しては、大きさと強さが比例する。
最も小型の龍は
これまで出現したゴーストドラゴンや鬼龍は、全てが丁龍……つまりは小物ばかりである。
そんな小物のゴーストドラゴンであっても、モンスターの中では相当に強い部類に入る。
ただ、その強さには開きがあり、弱いものはレベル6のガーディアンやモンスターと同等、強いものは浅い階層に出現する、ロードガーディアンに近い程だと言われている。
ガーディアンとモンスターの強さの尺度……レベルは、基本的には同じである。
ただ、アガルタ内部にしか出現せず、特定の階層の一定の範囲から動かないロードガーディアンとは違い、ゴーストドラゴンは好き放題に移動してしまうモンスターだ。
故に、アガルタで発生した場合、その被害は甚大であり、ロードガーディアンよりも危険だと見做す人々も多い。
ゴーストドラゴンは本物のドラゴンではないのだが、寧人にとってはドラゴンの名を持つだけでも、身を強張らせるに足る存在と言える。
「第九階層で出くわしたんで、すぐに逃げたんだが、それでも全滅しかけちまった。下の階層はパニック状態だぜ」
甲冑の男の話を聞いて、シェイラは口を開く。
「私達は第十一階層で、今日は荒れ過ぎている気がしたから、危ないんじゃないかと思って、引き返したんだけど……」
らしくない深刻な面持ちで、シェイラは続ける。
「ゴーストドラゴンまで出るなんて……」
「ゴーストドラゴンは上を目指してる! すぐにこの階層にも辿り着くぞ! パブの連中に伝えて、避難と迎撃準備を始めさせないと!」
そう言うと、甲冑の男と仲間達は、パブリックハウスの者達がいる、パイプテントが並んでいる辺りに向かって、移動を再開する。
ゴーストドラゴンに関する会話は、周りの冒険者達にも聞こえていて、第二キャンプは騒然となり始める。
そして、甲冑の男の発言を裏付けるかのように、遥か遠く……第七階層に通じる連結孔がある西側で、打ち上げ花火のようなものが打ち上げられる。
信号弾が間を空けずに、続けざまに打ち上げられたのである。
間を空けずに連続して打ち上げられる信号弾は、緊急事態の発生を知らせる為のものだ。
ゴーストドラゴンの発生や出現は、緊急事態の発生といえた。
「下の階層で、ゴーストドラゴンの出現が、確認されました!」
メガフォンを使用して、男性のバウンサーが声を張り上げ、第二キャンプ全体に警告を発する。
「下の階層から来た冒険者達の報告に加え、信号弾も上がった以上、ゴーストドラゴンの出現は、確定的と言えます!」
騒然とする中、バウンサーによる警告は続く。
「三つ星以下の冒険者達は、即刻……退避を推奨します! 地上を目指して下さい! 四つ星以上の冒険者の皆様には、ゴーストドラゴン迎撃への協力を、要請します!」
パブリックハウスは非常時であれ、冒険者に命令はしない。
あくまでも退避の推奨と、迎撃への協力の要請をするだけである。
アガルタで発生したゴーストドラゴンは、上を目指す……つまり地上を目指す場合が多い。
地上に出ることがない、アガルタを守るガーディアンとは違い、モンスターであるゴーストドラゴンは、むしろ地上こそが主な活動の場なのだ。
ゴーストドラゴンがアガルタから地上に出て暴れ回れば、サウダーデが浮ける被害は甚大なものとなる。
モンスターの中ではゴーストドラゴンは、相当に強くて凶暴な部類に入るので。
そうなると、結果として冒険者達やパブリックハウスも、大きなダメージを受けてしまう。
故に、アガルタ内でゴーストドラゴンが出現した場合、パブリックハウスは冒険者達と共に、その迎撃にあたることになっている。
パブリックハウスはモンスター迎撃に対し、賞金を出すなどの形でインセンティブを設定し、冒険者達が迎撃するような状況を作り出す。
同時に、パブリックハウスは腕利きのバウンサーを動員し、自ら迎撃を行うのである。
賞金目当ての多数の冒険者達と、パブリックハウスのバウンサー達が協力すれば、大抵のモンスターは撃退が可能だ。
だが、ロードガーディアンに近い強さの場合があるゴーストドラゴン程の大物となると、少し状況は異なる。
ゴーストドラゴンの迎撃に当たるのは、四つつ星以上の冒険者達と、冒険者時代に四つ星以上であったバウンサー達に限定される。
三つ星以下の者達では、ゴーストドラゴン相手に無力とまでは言えないのだが、犠牲になる可能性が高過ぎる。
故に、ゴーストドラゴンを相手にしても生き延びれそうな、四つ星以上の者達だけが、迎撃に動員されるのである。
無論、パブリックハウスは冒険者達の自由を尊重するので、強制ではなく、あくまでも要請である。
そして、モリグナの三人は、ゴーストドラゴン迎撃への協力を、パブリックハウスに要請される、五つ星の冒険者達なのだ。