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第67話 下の階層で、ゴーストドラゴンの出現が、確認されました!

 クルサードにおいては、ドラゴンや龍の分類は、武仙幇の元となった組織の分類法が、現在でも使用されている。

 通常の龍は、形状で二種類に分類され、更に大きさで四種類に分類される。


 形状は東洋風の龍、寧人の世界におけるE型が、クルサードでは東式とうしき、西洋風の龍、寧人の世界におけるW型が西式せいしき

 大きさは甲乙丙丁こうおつへいていの四種に分けられる。


 通常の龍に関しては、大きさと強さが比例する。

 最も小型の龍は丁龍ていりゅうとされていて、これは寧人の世界のドラゴンの分類では、コルベット級に相当する。


 これまで出現したゴーストドラゴンや鬼龍は、全てが丁龍……つまりは小物ばかりである。

 そんな小物のゴーストドラゴンであっても、モンスターの中では相当に強い部類に入る。


 ただ、その強さには開きがあり、弱いものはレベル6のガーディアンやモンスターと同等、強いものは浅い階層に出現する、ロードガーディアンに近い程だと言われている。

 ガーディアンとモンスターの強さの尺度……レベルは、基本的には同じである。


 ただ、アガルタ内部にしか出現せず、特定の階層の一定の範囲から動かないロードガーディアンとは違い、ゴーストドラゴンは好き放題に移動してしまうモンスターだ。

 故に、アガルタで発生した場合、その被害は甚大であり、ロードガーディアンよりも危険だと見做す人々も多い。


 ゴーストドラゴンは本物のドラゴンではないのだが、寧人にとってはドラゴンの名を持つだけでも、身を強張らせるに足る存在と言える。


「第九階層で出くわしたんで、すぐに逃げたんだが、それでも全滅しかけちまった。下の階層はパニック状態だぜ」


 甲冑の男の話を聞いて、シェイラは口を開く。


「私達は第十一階層で、今日は荒れ過ぎている気がしたから、危ないんじゃないかと思って、引き返したんだけど……」


 らしくない深刻な面持ちで、シェイラは続ける。


「ゴーストドラゴンまで出るなんて……」


「ゴーストドラゴンは上を目指してる! すぐにこの階層にも辿り着くぞ! パブの連中に伝えて、避難と迎撃準備を始めさせないと!」


 そう言うと、甲冑の男と仲間達は、パブリックハウスの者達がいる、パイプテントが並んでいる辺りに向かって、移動を再開する。

 ゴーストドラゴンに関する会話は、周りの冒険者達にも聞こえていて、第二キャンプは騒然となり始める。


 そして、甲冑の男の発言を裏付けるかのように、遥か遠く……第七階層に通じる連結孔がある西側で、打ち上げ花火のようなものが打ち上げられる。

 信号弾が間を空けずに、続けざまに打ち上げられたのである。


 間を空けずに連続して打ち上げられる信号弾は、緊急事態の発生を知らせる為のものだ。

 ゴーストドラゴンの発生や出現は、緊急事態の発生といえた。


「下の階層で、ゴーストドラゴンの出現が、確認されました!」


 メガフォンを使用して、男性のバウンサーが声を張り上げ、第二キャンプ全体に警告を発する。


「下の階層から来た冒険者達の報告に加え、信号弾も上がった以上、ゴーストドラゴンの出現は、確定的と言えます!」


 騒然とする中、バウンサーによる警告は続く。


「三つ星以下の冒険者達は、即刻……退避を推奨します! 地上を目指して下さい! 四つ星以上の冒険者の皆様には、ゴーストドラゴン迎撃への協力を、要請します!」


 パブリックハウスは非常時であれ、冒険者に命令はしない。

 あくまでも退避の推奨と、迎撃への協力の要請をするだけである。


 アガルタで発生したゴーストドラゴンは、上を目指す……つまり地上を目指す場合が多い。

 地上に出ることがない、アガルタを守るガーディアンとは違い、モンスターであるゴーストドラゴンは、むしろ地上こそが主な活動の場なのだ。


 ゴーストドラゴンがアガルタから地上に出て暴れ回れば、サウダーデが浮ける被害は甚大なものとなる。

 モンスターの中ではゴーストドラゴンは、相当に強くて凶暴な部類に入るので。


 そうなると、結果として冒険者達やパブリックハウスも、大きなダメージを受けてしまう。

 故に、アガルタ内でゴーストドラゴンが出現した場合、パブリックハウスは冒険者達と共に、その迎撃にあたることになっている。


 パブリックハウスはモンスター迎撃に対し、賞金を出すなどの形でインセンティブを設定し、冒険者達が迎撃するような状況を作り出す。

 同時に、パブリックハウスは腕利きのバウンサーを動員し、自ら迎撃を行うのである。


 賞金目当ての多数の冒険者達と、パブリックハウスのバウンサー達が協力すれば、大抵のモンスターは撃退が可能だ。

 だが、ロードガーディアンに近い強さの場合があるゴーストドラゴン程の大物となると、少し状況は異なる。


 ゴーストドラゴンの迎撃に当たるのは、四つつ星以上の冒険者達と、冒険者時代に四つ星以上であったバウンサー達に限定される。

 三つ星以下の者達では、ゴーストドラゴン相手に無力とまでは言えないのだが、犠牲になる可能性が高過ぎる。


 故に、ゴーストドラゴンを相手にしても生き延びれそうな、四つ星以上の者達だけが、迎撃に動員されるのである。

 無論、パブリックハウスは冒険者達の自由を尊重するので、強制ではなく、あくまでも要請である。


 そして、モリグナの三人は、ゴーストドラゴン迎撃への協力を、パブリックハウスに要請される、五つ星の冒険者達なのだ。




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