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第66話 ……嫌な趣味だな

 超ハードな武術の修行をしている影響で、寧人は氣の流れが乱れ過ぎてしまう場合がある、特異体質になってしまった。

 乱れ過ぎた氣の流れは、身体にトラブルを起こす原因となる。


 武仙幇にはセックスで氣の流れと整える、房中術という仙術がある。

 そして、特異体質であるが故に、レヴァナントである自分と性的関係を持っても、寧人は大丈夫なので、自分が房中術を使い、乱れ過ぎた寧人の氣の流れを整えている……。


 そんな風にアレンジして、ジーナは寧人と自分の関係を、モリグナの三人には話していた。

 要するに、寧人相手に自分が関係を持っているのは、単に性的な好奇心や楽しみの為だけでなく、寧人の為なのだと、言い訳したのだ。


 超人詛咒の暴走を防ぐのに、ジーナとのセックスが役立っているのは事実なので、寧人の為になっているのは事実である。


「何で……知ってるの? 俺とジー姐……ジーナさんとのこと?」


 気まずい思いをしながら、寧人はモリグナの三人に問いかける。


「ジーナと飲んだ時に、聞いちゃったんだ」


 楽し気に、シェイラは答えた。


(女同士だと、そういうこと平気で喋るのは、日本と同じか……)


 寧人は日本において、超人詛咒のせいで、様々な女性達と関係を持ってしまった。

 関係を持った女性達が、女性同士の会話において、自分との関係を気楽に話していたことを知る経験を、寧人は日本で数え切れぬ程に積んでいたのだ。


 故に、この世界の女性達も、日本の女性達と同じらしいと、寧人は思ってしまったのである。


「……じゃあ、まぁ……遠慮しないで、頂きます」


 食べないと、モリグナの三人にからかわれ続けそうなので、寧人は冒険者の燃料に口を付ける。

 見た目通り、チョコの味もするのだが、バターとジャガイモ……更には干し肉の味がする、寧人にとっては妙な味の食べ物だった。


(何か……訳が分からない味というか、明らかに不味いんだけど、エネルギーが大量に補充できそうなことだけは分かる)


 美味しくはなさそうな顔の寧人を見て、味への評価を察し、バネッサは同意の言葉を口にする。


「やっぱ不味いよな、これ」


 自分だけでなく、バネッサも不味いと思っていたのを知り、寧人は驚き問いかける。


「不味いのに、何で買ったの?」


「冒険者の燃料は、よく新しい味のが発売されるんだけど、このチョコミート味は出たばかりなんで、どんな味か知らないまま、試しに買ってみたんだ」


 バネッサは寧人に、そんな答を返した。


「そしたら、不味いのなんのって! だから、寧人のバラフルタスで、口直しさせてもらったって訳」


「口直しはいいけど、不味いと分かってる物、人に食べさせるの止めてよ」


「ごめんごめん、今度美味い奴あげるから」


 楽し気に謝るバネッサに続き、ティルダが口を開く。


「冒険者の燃料、定番は美味しいんだけど、新作は当たり外れが激しいんだよね」


 ティルダの手にも、冒険者の燃料があった。


「私は大抵、定番の買うんだけど、バネッサは新作好きなんで、新作買っては不味いから食ってみろって、人に食べさせようとするの」


「……嫌な趣味だな」


 寧人は半目で、率直な感想を漏らす。


「不人気で、すぐに店頭から消え去る、珍しい味の食べ物を、皆に味わって欲しいだけなんだって、悪意はないの悪意は」


 悪戯っ子のように、バネッサは言い訳をすると、チョコミート味の冒険者の燃料を、口の中に放り込む。

 そして、微妙な顔つきで咀嚼し、飲み下す。


 雑談を交わしつつ、空腹を満たす四人の前方に、右側……西側から、慌ただしい感じの五人組のパーティが走ってくる。

 かなり酷くやられた様子なのは、見れば分かる程の状態だが、聖術士の応急処置を受けたので、既に出血は止まっている。


 ただ、皆が血塗れであり、服装もぼろぼろになっている。

 先頭を行く剣士などは、既に甲冑が穴だらけで、幾つかの部品は外れた状態。


 剣も先端部分が、折れてなくなっていた。


「酷い有様だな!」


 寧人達から十メートル程離れた辺りにいた、そのパーティの知り合いらしき、緑の標準戦闘服姿の男が、パーティに声をかける。


「今日は荒れてるが、お前等がそこまでやられるなんて、何にやられたんだ?」


 パーティは立ち止まり、リーダーらしき甲冑の男が即答する。


「ゴーストドラゴンだ!」


 甲冑の男の返答を聞いて、寧人は驚き、身を強張らせる。


(ゴーストドラゴンだって?)


 ゴーストドラゴンについては、夢琪に教わっていたので、寧人は知っていた。

 武仙幇ではゴーストドラゴンではなく、鬼龍きりゅうと呼ばれている。


 最終戦争において、多数のドラゴンが倒された。

 故に、生物兵器であるドラゴンを構成していた残骸と、魂魄やゴーストと呼ばれている、中核的な霊的存在の残骸が、この世界には大量に残されている。


 だが、ごく稀に魂魄やゴーストと呼ばれている存在が、その機能を回復。

 魂魄やゴーストが核となり、ドラゴンの残骸や他の物質を掻き集め、ドラゴンや龍としての姿を取り戻し、暴れ回ることがある。


 そういった存在が、ゴーストドラゴンや鬼龍と呼ばれていて、アガルタを守るガーディアンではなく、モンスターに分類されている。

 魂魄やゴーストと呼ばれる霊的な存在は完全ではなく、身体を構成している物質も、ドラゴンや龍の残骸ではない物が多い。


 当然、本来のドラゴンや龍に比べると、ゴーストドラゴンは遥かに弱体化した存在となってしまう。

 しかも、ゴーストドラゴンとなるのは、ドラゴンや龍の中では、小型のタイプばかりなのである。




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