超ハードな武術の修行をしている影響で、寧人は氣の流れが乱れ過ぎてしまう場合がある、特異体質になってしまった。
乱れ過ぎた氣の流れは、身体にトラブルを起こす原因となる。
武仙幇にはセックスで氣の流れと整える、房中術という仙術がある。
そして、特異体質であるが故に、レヴァナントである自分と性的関係を持っても、寧人は大丈夫なので、自分が房中術を使い、乱れ過ぎた寧人の氣の流れを整えている……。
そんな風にアレンジして、ジーナは寧人と自分の関係を、モリグナの三人には話していた。
要するに、寧人相手に自分が関係を持っているのは、単に性的な好奇心や楽しみの為だけでなく、寧人の為なのだと、言い訳したのだ。
超人詛咒の暴走を防ぐのに、ジーナとのセックスが役立っているのは事実なので、寧人の為になっているのは事実である。
「何で……知ってるの? 俺とジー姐……ジーナさんとのこと?」
気まずい思いをしながら、寧人はモリグナの三人に問いかける。
「ジーナと飲んだ時に、聞いちゃったんだ」
楽し気に、シェイラは答えた。
(女同士だと、そういうこと平気で喋るのは、日本と同じか……)
寧人は日本において、超人詛咒のせいで、様々な女性達と関係を持ってしまった。
関係を持った女性達が、女性同士の会話において、自分との関係を気楽に話していたことを知る経験を、寧人は日本で数え切れぬ程に積んでいたのだ。
故に、この世界の女性達も、日本の女性達と同じらしいと、寧人は思ってしまったのである。
「……じゃあ、まぁ……遠慮しないで、頂きます」
食べないと、モリグナの三人にからかわれ続けそうなので、寧人は冒険者の燃料に口を付ける。
見た目通り、チョコの味もするのだが、バターとジャガイモ……更には干し肉の味がする、寧人にとっては妙な味の食べ物だった。
(何か……訳が分からない味というか、明らかに不味いんだけど、エネルギーが大量に補充できそうなことだけは分かる)
美味しくはなさそうな顔の寧人を見て、味への評価を察し、バネッサは同意の言葉を口にする。
「やっぱ不味いよな、これ」
自分だけでなく、バネッサも不味いと思っていたのを知り、寧人は驚き問いかける。
「不味いのに、何で買ったの?」
「冒険者の燃料は、よく新しい味のが発売されるんだけど、このチョコミート味は出たばかりなんで、どんな味か知らないまま、試しに買ってみたんだ」
バネッサは寧人に、そんな答を返した。
「そしたら、不味いのなんのって! だから、寧人のバラフルタスで、口直しさせてもらったって訳」
「口直しはいいけど、不味いと分かってる物、人に食べさせるの止めてよ」
「ごめんごめん、今度美味い奴あげるから」
楽し気に謝るバネッサに続き、ティルダが口を開く。
「冒険者の燃料、定番は美味しいんだけど、新作は当たり外れが激しいんだよね」
ティルダの手にも、冒険者の燃料があった。
「私は大抵、定番の買うんだけど、バネッサは新作好きなんで、新作買っては不味いから食ってみろって、人に食べさせようとするの」
「……嫌な趣味だな」
寧人は半目で、率直な感想を漏らす。
「不人気で、すぐに店頭から消え去る、珍しい味の食べ物を、皆に味わって欲しいだけなんだって、悪意はないの悪意は」
悪戯っ子のように、バネッサは言い訳をすると、チョコミート味の冒険者の燃料を、口の中に放り込む。
そして、微妙な顔つきで咀嚼し、飲み下す。
雑談を交わしつつ、空腹を満たす四人の前方に、右側……西側から、慌ただしい感じの五人組のパーティが走ってくる。
かなり酷くやられた様子なのは、見れば分かる程の状態だが、聖術士の応急処置を受けたので、既に出血は止まっている。
ただ、皆が血塗れであり、服装もぼろぼろになっている。
先頭を行く剣士などは、既に甲冑が穴だらけで、幾つかの部品は外れた状態。
剣も先端部分が、折れてなくなっていた。
「酷い有様だな!」
寧人達から十メートル程離れた辺りにいた、そのパーティの知り合いらしき、緑の標準戦闘服姿の男が、パーティに声をかける。
「今日は荒れてるが、お前等がそこまでやられるなんて、何にやられたんだ?」
パーティは立ち止まり、リーダーらしき甲冑の男が即答する。
「ゴーストドラゴンだ!」
甲冑の男の返答を聞いて、寧人は驚き、身を強張らせる。
(ゴーストドラゴンだって?)
ゴーストドラゴンについては、夢琪に教わっていたので、寧人は知っていた。
武仙幇ではゴーストドラゴンではなく、
最終戦争において、多数のドラゴンが倒された。
故に、生物兵器であるドラゴンを構成していた残骸と、魂魄やゴーストと呼ばれている、中核的な霊的存在の残骸が、この世界には大量に残されている。
だが、ごく稀に魂魄やゴーストと呼ばれている存在が、その機能を回復。
魂魄やゴーストが核となり、ドラゴンの残骸や他の物質を掻き集め、ドラゴンや龍としての姿を取り戻し、暴れ回ることがある。
そういった存在が、ゴーストドラゴンや鬼龍と呼ばれていて、アガルタを守るガーディアンではなく、モンスターに分類されている。
魂魄やゴーストと呼ばれる霊的な存在は完全ではなく、身体を構成している物質も、ドラゴンや龍の残骸ではない物が多い。
当然、本来のドラゴンや龍に比べると、ゴーストドラゴンは遥かに弱体化した存在となってしまう。
しかも、ゴーストドラゴンとなるのは、ドラゴンや龍の中では、小型のタイプばかりなのである。