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第65話 ジーナさん相手には、もっと凄いことしてる癖に

 モリグナの三人は武仙幇の皆と、良好な関係を維持しているが、特にジーナとは親しい。

 ジーナが可愛がってる弟分なら、自分達にとっても弟分のようなものだと、子供扱いしつつも、三人は寧人を可愛がっている。


 最初の頃は、自分達の裸を覗き見た……ということで、三人は寧人を、よくからかっていた。

 最近では、寧人がジーナと関係を持ったことに驚きながらも、ジーナに聞いた色々な下半身関連の話をネタに、からかったりもしている。


 寧人は最近まで知らなかったのだが、モリグナの三人は、冒険者の間では名の知れた、人気がある存在なのだ。

 二十二歳にして全員が五つ星の実力者であり、おまけに美女揃いなのだから、そうなるのも当然といえる。


 シェイラとバネッサは派手目の顔立ちで、ティルダはクールな顔立ち。

 胸に関しては、シェイラとティルダは豊かであり、バネッサは普通の大きさだが、三人揃ってスタイルもいい。


 三人は大手のカンパニーには属さず、仲がいい三人のパーティで、そのままカンパニーとしてパブリックハウスに登録している。

 実績を積み易い大手のカンパニーに所属していたら、とっくに六つ星になっていただろうとも言われている。


 そもそも、二十代前半にして五つ星になれる冒険者など、殆どいないので、六つ星になれずとも、モリグナの三人は同世代では出世頭といえる状態なのだ。

 モリグナの三人は、五つ星である現状に、特に不満など抱いてはいない。


 不満という程ではないが、やや満足していない点といえば、男性と無縁なことだけらしい。

 強くなる為の修行中は、男性の相手をする暇がなく、強くなってしまうと、今度は男性が近寄ってこなくなってしまう……。


 そんな風な、女性冒険者が陥り勝ちな、男性と縁遠くなるパターンに、モリグナは三人揃って陥ってしまったのである。

 例え美しく魅力的で人気はあっても、自分より強い女性には、劣等感を覚えてしまうせいか、近寄り難くなってしまう男性が多いのだ。


 遠い昔、ゾフィーという、七つ星の強過ぎる女性冒険者が、このパターンに陥ってしまい、孤独のまま人生を終えたという、事実かどうか不明な逸話がある。

 故に、こういったパターンに、女性冒険者が陥ることは、冒険者達の間では、「ゾフィーの悲劇」と呼ばれている。


 モリグナの三人は、背負っていた荷物を地面に置くと、寧人と同じベンチに座る。

 シェイラが右に、バネッサが左に、ティルダはバネッサの左に。


「……こんな荒れまくってる日に、よく第六階層まで来れたな、初心者なのに」


 バネッサは寧人に語り掛けつつ、フィールドジャケットのポケットから、「冒険者の燃料」と書かれた小袋を取り出して開く。


「聞いていたより相当ハードだったけど、まぁ……何とかね」


 冒険者の燃料が何なのか気になり、寧人はバネッサの手元を見つつ、言葉を続ける。


「無茶苦茶疲れたんで、しばらく休んでから、地上に戻るつもりなんだ」


 小袋から顔を出したのは、チョコバー風の携行食だった。

 燃料というくらいだから、カロリーは相当に高いのだろうなと、寧人は思う。


 冒険者の燃料を一口齧り、バネッサは飲み下すと、寧人に問いかける。


「地上に戻るなら、一緒に戻る? 俺達もしばらく休んでから、地上に戻るつもりなんだ」


 俺という一人称が、バネッサには自然であり、よく似合っている。


「……そうしたい所なんだけど、梁師には一人で行動するように言われてるんだ。その方が修行になるからって」


「初心者に、そこまでやらせるとは、厳しいねぇ……武仙幇は」


 そう言うと、バネッサは寧人の手元に顔を寄せる。


「一口頂戴」


 バネッサは寧人の返事も聞かず、バラフルタスを一口食べてしまう。

 そして、バラフルタスを咀嚼しつつ、寧人に齧りかけの冒険者の燃料を差し出す。


 代わりに一口、冒険者の燃料を食べていいという意味合いなのは、寧人には分かる。

 それでも、女性が食べかけの物を、齧っていいものなのかどうか、寧人は躊躇う。


「……俺が口付けた物は、食べるの嫌な訳?」


 やや不満そうに、バネッサが寧人に訊ねる。


「いや、女の人が口を付けた奴に、俺が口付けて……いいのかな……と」


 寧人は頬を染めつつ、バネッサに答を返す。


「寧人君て、こんなこと……恥ずかしがるんだ、意外だね」


 恥ずかし気な寧人の言い訳を聞いて、シェイラが笑顔で、からかうように口を挟んでくる。


「ジーナさん相手には、もっと凄いことしてる癖に」


 そんなシェイラの言葉を聞いて、寧人は吹き出しそうになり、バネッサとティルダは笑い出す。

 シェイラの言う「凄いこと」が何を意味しているのか、二人には見当が付いているのだ。


 八卦温泉の紅囍館での仕事中、ジーナはモリグナの三人相手に、寧人と関係を持ったことを、話してしまっていた。

 酒が入っている時、信頼している常連客相手だったので、つい口が緩んでしまったという感じで。


 ジーナはヘルガよりも先に、寧人の超人詛咒を暴走させない為には、適度に女性と関係を持った方がいいことを、夢琪から聞いていた。

 でも、超人詛咒については、外部には秘密にした方がいいので、ジーナもモリグナの三人には話していない。


 故に、ジーナは自分と寧人が身体の関係を持っている理由を、モリグナ達にはアレンジして話したのだ。

 寧人の超人詛咒に関することに関しては、伏せた上で。




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