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第62話 早く……第二キャンプに行って、しばらく休もう

 かなり長い薄暗いトンネルの中は階段になっていて、冒険者達が行き来している。

 下りて行く冒険者達より、上がって行く冒険者達の方が多いのだが、上がっていく冒険者達は、激しい冒険を続けた後なのだろう、着衣や装備が破損している者達だらけだ。


 長い階段を最後まで下りた寧人は、第六階層に辿り着いた。

 寧人が下りていたのは、第五階層と第六階層を繋ぐ連結孔だったのだ。


 既に第三階層と第四階層……第五階層を、寧人は多数の戦いを繰り返した上で、何とか通過することができた。

 そして、とうとう今回の目標の階層である、第六階層に辿り着いたのである。


 懐から懐中時計を取り出し、寧人は時刻を確認する。


「午後三時二十分……片道だけで、六時間程かかっちまった」


 予定よりも、かなり時間がかかってしまっていた。

 夢琪やヘルガの話では、片道三時間往復六時間、第六階層で一時間程休息を取る時間も考慮して、七時間もあれば、第六階層に行って、戻ってこれるという話だった。


 でも、話に聞いていたよりも、かなり多くの強力なガーディアンとの戦いを経験する羽目になった寧人は、片道だけでも六時間かかってしまったのだ。

 お陰で、既にガーディアンは目標の倍以上、倒してしまっていた。


 第六階層に来るまで、倒したガーディアンは二百体を超えている。

 アガルタでの滞在時間も、既に六時間を超えていて、第六階層にも到達したので、夢琪に出された三つの目標は、全てクリアしているのだ。


(後は地上に戻るだけだが、結構消耗してるから、すぐに戻るのは止めた方がいいな)


 初めてアガルタに下りたにしては、ハード過ぎる連戦を経験した結果、寧人はかなり消耗してしまっていた。

 氣を練っても、三分の一程度しか回復しない程、寧人は疲れ切っていたのだ。


「早く……第二キャンプに行って、しばらく休もう」


 第二キャンプというのは、パブリックハウスがアガルタ内に設営している、キャンプの一つ。

 第五階層と第六階層を繋ぐ連結孔の、第六階層側の出入口近くにあると、パブレティンの地図には記載されていた。


 寧人にとっては、安全に休める場所であるのと同時に、第六階層まで下りた証拠を得る為の場でもある。

 キャンプでは色々な物も売っていて、第二キャンプの場所が記された領収書を発行してくれるので、第六階層まで下りた証拠になるのだ。


 懐中時計を仕舞うと、寧人は第六階層を歩き始める。

 目線の先に広がる第六階層は、果てが見えぬ程に広い荒野であり、しかも昼間のように明るい。


 七十メートル程の高さがある、天井のあちらこちらに、強力な光を放つ太陽石と呼ばれている、強い光を放つ石がある。

 しかも、天井の殆どの部分は、空石と呼ばれる青空のような色合いの岩石に覆われている。


 この太陽石と空石のせいで、高さにして百メートル前後の高さの天井は、青空のような感じに見えなくもない。

 空と比べたら天井が低過ぎるし、太陽石は複数存在し、太陽がいくつも空にあるように見えるので、本物の空と見間違える人はいないのだが。


 青空の下の荒野の如き第六階層を、寧人は西に向かって歩いていく。

 その方向に三百メートル程歩くと湖があり、その湖の周囲に第二キャンプがある筈なのだ。


 発見された湖の水に、害がないのを確認した上で、湖を水源として利用できる湖の畔に、パブリックハウスはキャンプを設営したのである。

 進行方向にキャンプがあるのは間違いないらしく、キャンプを後にしたばかりと思われる冒険者達と、寧人は何人も擦れ違った。


 程なく、湖の煌めく大きな水面が、遠くに見え始める。

 サッカー場の倍はあるだろう大きさの湖の周りには、疎らに木々が立っているだけでなく、明らかな人工物が存在した。


 まるで行楽地であるかのように、多数のパイプテントが並んでいるのだ。

 パイプテントの白い天幕には、酒樽猫の大きな絵が描かれているので、パブリックハウスが設営したものであるのが、遠目にも分かり易い。


 多数の人々が、パイプテントや湖の辺りにはいて、賑やかな声が風に乗ってくる。

 あそこまで行けば休めると思うと、疲れ切った身体に力が戻り、重くなっていた寧人の足取りは軽くなる。


 そして、とうとう寧人は、第二キャンプに辿り着く。

 知った顔は見当たらないが、孤独な時間が長かった寧人の場合、人が多い場所に来れただけでも、心が安らぎ楽しい気分になるのだ。


 救護施設や店舗、飲食や休息など、様々な用途ごとに、パイプテントは分けられている。

 さすがに風呂やシャワーはないのだが、湖は水浴びができるので、多くの冒険者達が、身体を洗ったり泳いだりしていた。


 第二キャンプには総数三百人程の冒険者達と、十数人のパブリックハウスのスタッフ達がいた。

 冒険者達は寧人と同様、疲労している者達が多く、思い思いに身体を休めている。


 とりあえずどうすべきなのか、寧人は思案する。


(腹も減ったし、喉も乾いたな……)


 アガルタで六時間、行動し続けた寧人は、かなりの距離を移動し、数多くの戦いを経験していた。

 その結果、寧人は相当な空腹を覚えていたし、喉も乾き切っていたのだ。


 リュックには携行食と水筒を入れて、寧人は持ち歩いていた。

 だが、アガルタでの行動中、既に携行食は食べ尽くし、水筒のお茶は飲み干してしまっていたのである。


 寧人は湖に目をやる。


(パブレティンには、第二キャンプの湖の水は、飲めるって書いてあったけど、さすがに飲む気はしないや)


 水浴びや水遊びをしている人がいる、湖の水を飲むというのは、プールの水や公衆浴場の浴槽のお湯を飲むも同然の行為に、寧人には思えた。

 ちなみに、第二キャンプで飲食に使用する湖の水は、聖術で浄化してあるので、衛生上の問題はない。




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