(どうやら、倒せたみたいだな)
ハーピー相手の戦闘は終わったと判断し、寧人は硬身功を解除する。
そして、ハーピーに襲われていた、採掘者達や冒険者達のことが気になり、後ろを振り返る。
山頂の中央辺りに、二十人程の採掘者達や冒険者達が集まっていた。
ハーピー相手に反撃しつつ、山頂からの逃亡を試みては、動きの速いハーピーに回り込まれては襲われ、山頂の中央辺りで、動きを封じられていたのだ。
五人の冒険者パーティが護衛に雇われていたのだが、既に三人は倒されていた。
銃器で武装していた採掘者も二人が倒されていた。
倒されていた五人は、バリアアクセサリーの全てを失い、怪我を負わされ出血していた。
だが、雇われた冒険者の一人が聖術士であり、すぐに治療を受けられたので、大事には至らないレベルの怪我で済んでいた。
「よかった、死人が出そうな状態じゃないみたいだな」
採掘者達と冒険者達に歩み寄りつつ、寧人は安堵の表情を浮かべ、声をかける。
「……あ、有難うございます! 助かりました!」
寧人とハーピーの激戦を見守っていた、採掘者達の中のリーダー格らしい三十歳程の男性が、やや慌てて礼の言葉を口にする。
命が助かったことに安堵してはいたのだが、目の前で繰り広げられた光景が、信じ難かったのだ。
子供にしか見えない小柄な冒険者が、自分達を余裕を持って殲滅しようとしていたハーピーを、あっさり撃退してしまったのだ。
茫然とする程に驚くのも、無理はないのである。
助けられた採掘者達や冒険者達は、次々に寧人に礼を言う。
皆同様に、子供にしか見えない寧人の姿と、見た目からは想像し難い戦闘能力に、戸惑いの表情を浮かべつつ。
突如、背後に人が迫る気配を察し、寧人は振り返る。
殺気や敵意を感じなかったが、一応は警戒した上で。
すると、寧人の視界に、黒い標準戦闘服姿の女と、白い標準戦闘服姿の男が映る。
二人共三十歳前後であり、左胸に酒樽猫のバッジを輝かせていた。
(バウンサーか)
寧人が心の中で呟いた通り、姿を現した二人は、第二階層に配置されていたバウンサー達だった。
ここから大して離れていない辺りを巡回していた二人は、救援を求める信号弾の光を目にして、急いで駆け付けたのである。
ちなみに、黒い標準戦闘服姿の青い髪の女は、背中に鞘に納められた、大型の剣を背負っている剣士。
白い標準戦闘服姿の赤毛の男は、聖術士だ。
「御無事ですか?」
救援を求めた採掘者達に問いかけたのは、女の方である。
男の方は怪我人の方に向かう、治療に協力する為に。
「怪我人が出ましたが、何とか命の方は! この男の子に助けて貰ったので!」
採掘者達のリーダー格らしい男が、バウンサーの女に返答する。
「一応、成人してるんだけど」
相手に悪気がないのは分かっているので、苦笑いを浮かべつつ、寧人は小声で呟く。
「あ、そうなんですか! 失礼しました」
採掘者の男は、驚き慌てつつ、謝罪の言葉を口にする。
「さっきの攻撃を、彼が?」
バウンサーの女は意外そうな顔で、採掘者の男に問いかける。
バウンサーの女は岩山に駆け付けながら、寧人の爆氣砲による攻撃を、目にしていたのだ。
「そうです!」
採掘者の男が、興奮気味の口調で答える。
「炸裂して、大量の
奥拉射撃というのは、奥拉の光弾を放って攻撃する、氣砲と同種の攻撃方法である。
奥拉と氣は、基本的には同じ存在なので、震天動地と奥拉武術の基本的な技は、似ている部分がある。
能力に関しては震天動地の方が上なのだが、武仙幇は活動を控えていた期間が長い。
それ故、氣砲よりも奥拉射撃の方が、最近では知られているので、採掘者の男は奥拉射撃という言葉を口にしたのだ。
バウンサーの女は、子供にしか見えない寧人に、そんな真似ができるのかどうか、最初こそ疑わし気な目で見下ろしていた。
だが、すぐに寧人の服装を目にして、思い当たる節があったので、納得したかのように呟く。
「武仙幇の新人の噂は、本当だったんだ……」
昨日、武仙幇が新人冒険者を登録する準備の為、ヘルガが第一パブリックハウスを訪れたことは、既に噂になっていた。
バウンサーの女も、その噂を耳にしていたのである。
「武仙幇の新人冒険者の方ですね?」
バウンサーの女に問われ、寧人は答える。
「あ、はい」
「救援活動への協力に、感謝いたします」
寧人はバウンサーの女に一礼され、寧人は居心地の悪さを感じる。
既に助けた相手に礼を言われまくった上、助けた訳でもない、明らかに年上の相手にまで頭を下げられてしまうのは、むしろ居心地が悪い程だったのだ。
寧人は余り、礼を言われ慣れていないので。
「じゃ、後は任せますんで、俺は行きます」
長居は無用とばかりに、その場にいる者達に背を向けると、寧人は駆けだし、岩山の頂上を後にして、斜面を駆け下りていく。
遠ざかりながらも、感謝の言葉が耳に届くので、寧人は照れ臭い気分を味わう。
「ハーピーのアガルタイズの所有権は、倒した君にあるので、ちゃんと拾っていってください!」
そんなバウンサーの女の声が聞こえたので、寧人はアガルタイズのことを思い出す。
ハーピーが墜落した辺りを目指して移動すると、寧人はアガルタイズを発見し、拾い上げる。
ハーピーのアガルタイズは、豆粒大であったアーティラリースコーピオンのより、多少は大きく見えた。
(アーティラリースコーピオンと同じレベル2だし、あまり大きさは変わらないな。魔石タイプだし)
寧人は少し残念に思いながら、アガルタイズをリュックのポケットに仕舞うと、本来のルートに戻り、徒歩で砂漠の移動を再開する。
そして、第一階層でも戦ったガーディアン達や、第二階層で初めて出会ったガーディアンと戦い抜き、第三階層への連結孔に辿り着く。
第二階層に下りる連結孔と、殆ど変わらない形状の連結孔を通り、寧人は緊張しながら第三階層へと下りていくのだった。
♢ ♢ ♢