目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第61話 武仙幇の新人の噂は、本当だったんだ……

(どうやら、倒せたみたいだな)


 ハーピー相手の戦闘は終わったと判断し、寧人は硬身功を解除する。

 そして、ハーピーに襲われていた、採掘者達や冒険者達のことが気になり、後ろを振り返る。


 山頂の中央辺りに、二十人程の採掘者達や冒険者達が集まっていた。

 ハーピー相手に反撃しつつ、山頂からの逃亡を試みては、動きの速いハーピーに回り込まれては襲われ、山頂の中央辺りで、動きを封じられていたのだ。


 五人の冒険者パーティが護衛に雇われていたのだが、既に三人は倒されていた。

 銃器で武装していた採掘者も二人が倒されていた。


 倒されていた五人は、バリアアクセサリーの全てを失い、怪我を負わされ出血していた。

 だが、雇われた冒険者の一人が聖術士であり、すぐに治療を受けられたので、大事には至らないレベルの怪我で済んでいた。


「よかった、死人が出そうな状態じゃないみたいだな」


 採掘者達と冒険者達に歩み寄りつつ、寧人は安堵の表情を浮かべ、声をかける。


「……あ、有難うございます! 助かりました!」


 寧人とハーピーの激戦を見守っていた、採掘者達の中のリーダー格らしい三十歳程の男性が、やや慌てて礼の言葉を口にする。

 命が助かったことに安堵してはいたのだが、目の前で繰り広げられた光景が、信じ難かったのだ。


 子供にしか見えない小柄な冒険者が、自分達を余裕を持って殲滅しようとしていたハーピーを、あっさり撃退してしまったのだ。

 茫然とする程に驚くのも、無理はないのである。


 助けられた採掘者達や冒険者達は、次々に寧人に礼を言う。

 皆同様に、子供にしか見えない寧人の姿と、見た目からは想像し難い戦闘能力に、戸惑いの表情を浮かべつつ。


 突如、背後に人が迫る気配を察し、寧人は振り返る。

 殺気や敵意を感じなかったが、一応は警戒した上で。


 すると、寧人の視界に、黒い標準戦闘服姿の女と、白い標準戦闘服姿の男が映る。

 二人共三十歳前後であり、左胸に酒樽猫のバッジを輝かせていた。


(バウンサーか)


 寧人が心の中で呟いた通り、姿を現した二人は、第二階層に配置されていたバウンサー達だった。

 ここから大して離れていない辺りを巡回していた二人は、救援を求める信号弾の光を目にして、急いで駆け付けたのである。


 ちなみに、黒い標準戦闘服姿の青い髪の女は、背中に鞘に納められた、大型の剣を背負っている剣士。

 白い標準戦闘服姿の赤毛の男は、聖術士だ。


「御無事ですか?」


 救援を求めた採掘者達に問いかけたのは、女の方である。

 男の方は怪我人の方に向かう、治療に協力する為に。


「怪我人が出ましたが、何とか命の方は! この男の子に助けて貰ったので!」


 採掘者達のリーダー格らしい男が、バウンサーの女に返答する。


「一応、成人してるんだけど」


 相手に悪気がないのは分かっているので、苦笑いを浮かべつつ、寧人は小声で呟く。


「あ、そうなんですか! 失礼しました」


 採掘者の男は、驚き慌てつつ、謝罪の言葉を口にする。


「さっきの攻撃を、彼が?」


 バウンサーの女は意外そうな顔で、採掘者の男に問いかける。

 バウンサーの女は岩山に駆け付けながら、寧人の爆氣砲による攻撃を、目にしていたのだ。


「そうです!」


 採掘者の男が、興奮気味の口調で答える。


「炸裂して、大量の奥拉弾オーラバレットをばら撒く奥拉射撃オーラシューティングを使う人なんて、初めて見ましたよ!」


 奥拉射撃というのは、奥拉の光弾を放って攻撃する、氣砲と同種の攻撃方法である。

 奥拉戦技オーラコンバットと総称される、奥拉を操るクルサードの標準的な武術に含まれる技である。


 射撃剣シューティングソード奥拉駆動オーラドライブなども、奥拉武術に含まれている。

 奥拉と氣は、基本的には同じ存在なので、震天動地と奥拉武術の基本的な技は、似ている部分がある。


 能力に関しては震天動地の方が上なのだが、武仙幇は活動を控えていた期間が長い。

 それ故、氣砲よりも奥拉射撃の方が、最近では知られているので、採掘者の男は奥拉射撃という言葉を口にしたのだ。


 バウンサーの女は、子供にしか見えない寧人に、そんな真似ができるのかどうか、最初こそ疑わし気な目で見下ろしていた。

 だが、すぐに寧人の服装を目にして、思い当たる節があったので、納得したかのように呟く。


「武仙幇の新人の噂は、本当だったんだ……」


 昨日、武仙幇が新人冒険者を登録する準備の為、ヘルガが第一パブリックハウスを訪れたことは、既に噂になっていた。

 バウンサーの女も、その噂を耳にしていたのである。


「武仙幇の新人冒険者の方ですね?」


 バウンサーの女に問われ、寧人は答える。


「あ、はい」


「救援活動への協力に、感謝いたします」


 寧人はバウンサーの女に一礼され、寧人は居心地の悪さを感じる。

 既に助けた相手に礼を言われまくった上、助けた訳でもない、明らかに年上の相手にまで頭を下げられてしまうのは、むしろ居心地が悪い程だったのだ。


 寧人は余り、礼を言われ慣れていないので。


「じゃ、後は任せますんで、俺は行きます」


 長居は無用とばかりに、その場にいる者達に背を向けると、寧人は駆けだし、岩山の頂上を後にして、斜面を駆け下りていく。

 遠ざかりながらも、感謝の言葉が耳に届くので、寧人は照れ臭い気分を味わう。


「ハーピーのアガルタイズの所有権は、倒した君にあるので、ちゃんと拾っていってください!」


 そんなバウンサーの女の声が聞こえたので、寧人はアガルタイズのことを思い出す。

 ハーピーが墜落した辺りを目指して移動すると、寧人はアガルタイズを発見し、拾い上げる。


 ハーピーのアガルタイズは、豆粒大であったアーティラリースコーピオンのより、多少は大きく見えた。


(アーティラリースコーピオンと同じレベル2だし、あまり大きさは変わらないな。魔石タイプだし)


 寧人は少し残念に思いながら、アガルタイズをリュックのポケットに仕舞うと、本来のルートに戻り、徒歩で砂漠の移動を再開する。

 そして、第一階層でも戦ったガーディアン達や、第二階層で初めて出会ったガーディアンと戦い抜き、第三階層への連結孔に辿り着く。


 第二階層に下りる連結孔と、殆ど変わらない形状の連結孔を通り、寧人は緊張しながら第三階層へと下りていくのだった。



   ♢     ♢     ♢



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?