「どうやら、倒せたみたいだな」
寧人にとって、空中で氣彈を放つ攻撃は、成功率が低い攻撃手段だ。
成功率の低い攻撃手段で、寧人は賭けに出て……勝ったのである。
勝利の証といえるアガルタイズを、寧人は拾い上げる。
「今みたいに、馬鹿でかい奴でも、こんなもんなのか? 確かアーティラリースコーピオンはレベル2って話だが」
これまで戦ったガーディアンの中では、明らかに一番強かったので、もう少し大きなアガルタイズを、寧人は期待していた。
実際、これまで手に入れた物の中では、一番大きなアガルタイズだったのだが、それでも寧人の期待より、かなり小さかったのだ。
「アーティラリースコーピオンですら、この大きさってことは、梁師やヘル姐のアガルタイズ、どんなガーディアン倒した奴なんだよ?」
夢琪やヘルガに見せられたアガルタイズの大きさを思い出しながら、寧人は魔石のアガルタイズを、リュックのポケットに仕舞う。
そして、輕身功を解除した上で、失った氣を補充すべく、寧人は氣を練る。
(まだ普通に、氣が練れる。輕身功と氣彈を使っただけだし、大して消耗してないのは当たり前か)
大して消耗していないのだが、念の為に氣の補充を行った寧人は、再びルート通りに砂漠を歩きだす。
「夜の砂漠でも、歩いてる感じだな……」
星空のような天井を見上げつつ、寧人は独り言を呟く。
「まぁ、本物の夜の砂漠なんて、歩いたことないんだけど」
歩いている内に、賑やかな声が聞えてくる。
左斜め前にある低い岩山で、採掘者達が採掘している現場の近くを、寧人は通りかかったのだ。
見上げると、ツルハシで岩を砕いている採掘者達の姿が、小さな人形程の大きさではあるが、寧人の視界に映る。
採掘者達なのか、それとも採掘者と組んでいる冒険者達なのかは知らないが、採掘作業を行わず、周囲を警戒している者達もいる。
「ガーディアンの襲撃に、備えてるのかな」
第一階層は、既に掘り尽くされた後、回復していない場所が多いのか、寧人は採掘中の現場には出くわさなかった。
採掘中の現場を近くで見てみたい気もしたのだが、興味本位で覗き見るのも悪いだろうと思い、寧人は岩山を通り過ぎようとする。
突如、岩山の方から、銃声が響き渡り、叫び声が上がる。
銃撃らしき火戦が数条、空……ではなく天井の方に上がる。
攻撃が上に向けられていたので、飛来してきた何かに襲われたらしいと、寧人は推測する。
銃器に装填している銃弾を撃ち尽くしたのか、それともやられたのか、銃声は止み始める。
だが、岩山の方から響いてくる、悲鳴と絶叫は止まらない。
採掘者達が追い込まれている可能性が高いのが、百数十メートル離れた辺りにいる寧人にも、察せられる状況である。
更に、岩山の上の方で、天井に向かって打ち上げ花火のように、青い光弾が打ち上げられた。
冒険者達や採掘者達が救援を求める、信号弾の光だと、寧人は気付く。
冒険者の基礎知識として、信号弾については武仙幇で、寧人は教わっていた。
対空攻撃ではない形で、空……もしくはアガルタ各階層の天井に向けて放たれた光弾は、他者にメッセージを求める信号弾なのだ。
冒険者の場合は、自分の魔術や聖術、武術を使って放たれる光弾の信号弾を使う。
探索者の場合は、魔石のアガルタイズを利用した、拳銃型のランチャーを使って、信号弾を打ち上げる。
単発の信号弾が、間を空けて放たれる場合、それは救援を求めていることを示している。
救援を求める信号弾を見かけた場合、パブリックハウスの者達は救援に駆け付けるし、冒険者達の場合は義務ではないのだが、なるべく助けに向かうことが推奨されているのだと。
岩山の上にいる者達が、他者に救援を求める程度に、追い込まれているのが分かる状況だ。
(どうする?)
寧人は自問するが、即決する。
「スーパーヒーローになるって決めたんだから、やることは決まってるじゃないか!」
夢琪に修行を願い出る時、寧人は言ったのだ。
「俺は……爺ちゃんみたいな、スーパーヒーローになりたいんだ!」
この時、寧人は決意したのだ、スーパーヒーローになることを。
ただ強くなるだけではなく、危機に陥っている人を見かけたら、迷わず……いや、迷っていたのかもしれないが、助けていた弾のようなスーパーヒーローになるのだと。
そう決意した以上、襲われているらしい人々の存在を知ったのなら、やるべきことは決まっている。
寧人は輕身功を発動すると、砂を舞い上げながら砂漠を駆け、岩山の頂上付近を目指す。
二十メートル程の高さがある、潰れたプリンのような形の岩山の手前に、あっという間に辿り着いた寧人は、砂を蹴って跳躍。
一気に岩山の頂上に、寧人は跳び上がる。
直径五十メートル程はあるだろう、円形になっている頂上には、二十人程の人々がいた。
五人程は倒れていて、出血している。
冒険者と思われる、黒い標準戦闘服姿の男が二人、剣を手に空中にいる相手と戦っている。
剣に纏わせた
二人の背後には採掘者達がいて、弾倉の交換を終えたのか、上に向けて銃撃を再開していた。