(第二階層は砂漠層だって書いてあったけど、本当に砂だらけだな)
波打つサンドベージュの砂と、低い岩山で構成される景色は、砂漠という名称が相応しい。
岩盤に覆われた天井がなければ、本物の夜の砂漠だと、勘違いしてしまいそうな程だ。
昼ではなく夜なのは、満天の星空のように、天井には多数の光点があるから。
第一階層の洞窟と同様、アガルタイズがあちこちで光っているせいである。
光っているのは、天井だけではない。
あちこちにある岩山は、砂漠を照らす照明であるかのように、天井よりも遥かに強い光を放っていた。
そういった場所には、アガルタイズが集積しているので、光っているのだ。
数は少ないのだが、採掘者らしき格好の人々は、そういった光の強い場所を目指し、進んでいく。
どこまで続いているのか分からない程、砂漠層は広く見える。
どういう訳だか、空気に流れがあるらしく、風も時折吹いて、砂を舞い上げる。
寧人はリュックからパブレティンを取り出すと、地図で第二階層のルートを確認する。
一応は記憶していたのだが、念の為に。
(確か毒持ちのガーディアンが出るとか、書いてあった気がするんだが……)
出現が確認されたガーディアンの情報を、寧人はパブレティンでチェックする。
記憶していた通り、第二階層のルートには、毒を持つ数種類のガーディアンの出現情報が、記載されていた。
(解毒方法は習ってるから、焦らなければ問題はない筈だ)
パブレティンを仕舞いながら、寧人は自分に言い聞かせる。
(焦らないように、気を付けよう)
寧人は連結孔付近を後にして、砂漠に足を踏み入れる。
砂漠を歩くのが初めてである寧人は、足をとられてしまい、歩き難さを覚える。
(一応は、砂の上で戦う修業もやったんだけど、砂の感じが違うな)
洞天福地において、夢琪が仙術で作り出した砂場を使い、砂の上で戦う修業も、寧人は経験していた。
ただ、砂の色や質感が明らかに違うし、砂が大きく複雑に波打っているので、修行の時よりも歩き難いのだ。
遠くから銃声や、人の怒鳴り声が響いてくる。
どこかでガーディアン相手の戦いが、始まったのである。
別の方向からは、今度は爆発音が響いてくる。
攻撃魔術によるものだろうと、寧人は思う。
戦闘の音が、寧人の心を引き締める。
いつ襲われてもおかしくない場所に、自分がいることを、寧人は強く自覚する。
トンネルのような通路と違い、空間が開けている為、他の冒険者達の姿や、採掘者達の姿が、あちらこちらに見える。
そのせいで、寧人は第一階層よりは、孤独感を覚えずに済む。
そして、三百メートル程歩いた辺りだろうか、ようやく砂の上を歩くのに慣れ始めた頃合、突如……寧人の正面方向、三十メートル程離れた辺りで、爆発でも起こったかのように、砂が舞い上がる。
そして、砂の中から、赤黒い何か大きな物が、姿を現した。
(サソリ?)
サソリと表現するしかない見た目ではあるのだが、その大きさは普通のサソリとは程遠い。
横幅だけですら、寧人の数倍はあるだろう、大型トラックを超える程の大きさだ。
普通のサソリであれば、獲物を突き刺し、毒を送り込む尾の先端に、毒針がある。
だが、巨大なサソリらしき何かの尾の先端は、筒状になっている。
(アーティラリースコーピオンか!)
特徴ある尾の先端の形状を目にして、寧人は出現したのが、アーティラリースコーピオンだと判断する。
数種類の大型サソリ風のガーディアンが、第二階層では確認されている。
だが、尾が筒状になっているのは、アーティラリースコーピオンだけだと、パブレティンで解説されていたのだ。
アーティラリーというのは、「砲兵」や「大砲」を意味する言葉であり、スコーピオンはサソリを意味している。
何故、そんな名称なのかといえば、筒状になっている尾の先端から、大砲の砲撃のように、毒の塊……
アーティラリースコーピオンは遠距離攻撃能力を持ち、砂漠での移動速度も速く、殻は固くて防御力も高い。
アーティラリースコーピオンは、浅い階層に出るガーディアンの中では、かなり厄介な部類だと、パブレティンでは解説されていた。
アーティラリースコーピオンは即座に、寧人に尾の先端を向け、毒弾を放つ。
そのスピードは、本物の銃弾や砲弾並である。
(ここは輕身功を使った方がよさそうだ)
毒弾のスピードは、普通の戦場であれば輕身功なしでも、寧人には余裕で躱せる程度でしかない。
だが、ここは普通の戦場ではなく、足場の悪い砂地だ。
水面のような不安定過ぎる足場ですら、高速で駆けることができる輕身功を発動すれば、砂地であっても、素早く機敏に高速移動ができる。
だが、輕身功なしでは、足を砂にとられたり、砂のせいで滑ってしまい、回避し損なう可能性がある。
ここは輕身功を使うのが妥当だと判断し、寧人は即座に輕身功を発動し、砂を蹴って跳躍。寧人は一瞬で、右側に跳び退く。