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第57話 確か毒持ちのガーディアンが出るとか、書いてあった気がするんだが……

(第二階層は砂漠層だって書いてあったけど、本当に砂だらけだな)


 波打つサンドベージュの砂と、低い岩山で構成される景色は、砂漠という名称が相応しい。

 岩盤に覆われた天井がなければ、本物の夜の砂漠だと、勘違いしてしまいそうな程だ。


 昼ではなく夜なのは、満天の星空のように、天井には多数の光点があるから。

 第一階層の洞窟と同様、アガルタイズがあちこちで光っているせいである。


 光っているのは、天井だけではない。

 あちこちにある岩山は、砂漠を照らす照明であるかのように、天井よりも遥かに強い光を放っていた。


 そういった場所には、アガルタイズが集積しているので、光っているのだ。

 数は少ないのだが、採掘者らしき格好の人々は、そういった光の強い場所を目指し、進んでいく。


 どこまで続いているのか分からない程、砂漠層は広く見える。

 どういう訳だか、空気に流れがあるらしく、風も時折吹いて、砂を舞い上げる。


 寧人はリュックからパブレティンを取り出すと、地図で第二階層のルートを確認する。

 一応は記憶していたのだが、念の為に。


(確か毒持ちのガーディアンが出るとか、書いてあった気がするんだが……)


 出現が確認されたガーディアンの情報を、寧人はパブレティンでチェックする。

 記憶していた通り、第二階層のルートには、毒を持つ数種類のガーディアンの出現情報が、記載されていた。


(解毒方法は習ってるから、焦らなければ問題はない筈だ)


 パブレティンを仕舞いながら、寧人は自分に言い聞かせる。


(焦らないように、気を付けよう)


 寧人は連結孔付近を後にして、砂漠に足を踏み入れる。

 砂漠を歩くのが初めてである寧人は、足をとられてしまい、歩き難さを覚える。


(一応は、砂の上で戦う修業もやったんだけど、砂の感じが違うな)


 洞天福地において、夢琪が仙術で作り出した砂場を使い、砂の上で戦う修業も、寧人は経験していた。

 ただ、砂の色や質感が明らかに違うし、砂が大きく複雑に波打っているので、修行の時よりも歩き難いのだ。


 遠くから銃声や、人の怒鳴り声が響いてくる。

 どこかでガーディアン相手の戦いが、始まったのである。


 別の方向からは、今度は爆発音が響いてくる。

 攻撃魔術によるものだろうと、寧人は思う。


 戦闘の音が、寧人の心を引き締める。

 いつ襲われてもおかしくない場所に、自分がいることを、寧人は強く自覚する。


 トンネルのような通路と違い、空間が開けている為、他の冒険者達の姿や、採掘者達の姿が、あちらこちらに見える。

 そのせいで、寧人は第一階層よりは、孤独感を覚えずに済む。


 そして、三百メートル程歩いた辺りだろうか、ようやく砂の上を歩くのに慣れ始めた頃合、突如……寧人の正面方向、三十メートル程離れた辺りで、爆発でも起こったかのように、砂が舞い上がる。

 そして、砂の中から、赤黒い何か大きな物が、姿を現した。


(サソリ?)


 サソリと表現するしかない見た目ではあるのだが、その大きさは普通のサソリとは程遠い。

 横幅だけですら、寧人の数倍はあるだろう、大型トラックを超える程の大きさだ。


 普通のサソリであれば、獲物を突き刺し、毒を送り込む尾の先端に、毒針がある。

 だが、巨大なサソリらしき何かの尾の先端は、筒状になっている。


(アーティラリースコーピオンか!)


 特徴ある尾の先端の形状を目にして、寧人は出現したのが、アーティラリースコーピオンだと判断する。

 数種類の大型サソリ風のガーディアンが、第二階層では確認されている。


 だが、尾が筒状になっているのは、アーティラリースコーピオンだけだと、パブレティンで解説されていたのだ。

 アーティラリーというのは、「砲兵」や「大砲」を意味する言葉であり、スコーピオンはサソリを意味している。


 何故、そんな名称なのかといえば、筒状になっている尾の先端から、大砲の砲撃のように、毒の塊……毒弾どくだんを放って、攻撃するからである。

 アーティラリースコーピオンは遠距離攻撃能力を持ち、砂漠での移動速度も速く、殻は固くて防御力も高い。


 はさみ状になっている前足は、強力な切断能力を持ち、防御手段を持たない人間など、あっさり両断してしまう。

 アーティラリースコーピオンは、浅い階層に出るガーディアンの中では、かなり厄介な部類だと、パブレティンでは解説されていた。


 アーティラリースコーピオンは即座に、寧人に尾の先端を向け、毒弾を放つ。

 そのスピードは、本物の銃弾や砲弾並である。


(ここは輕身功を使った方がよさそうだ)


 毒弾のスピードは、普通の戦場であれば輕身功なしでも、寧人には余裕で躱せる程度でしかない。

 だが、ここは普通の戦場ではなく、足場の悪い砂地だ。


 水面のような不安定過ぎる足場ですら、高速で駆けることができる輕身功を発動すれば、砂地であっても、素早く機敏に高速移動ができる。

 だが、輕身功なしでは、足を砂にとられたり、砂のせいで滑ってしまい、回避し損なう可能性がある。


 ここは輕身功を使うのが妥当だと判断し、寧人は即座に輕身功を発動し、砂を蹴って跳躍。寧人は一瞬で、右側に跳び退く。




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