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第56話 馬鹿馬鹿しい! 冗談に付き合ってる暇はねぇんだよ! オッサン!

 バリアアクセサリーは便利なアイテムなのだが、一度に最大で十個までしか、装備や携行ができない。

 しかも、一度……防御用の魔術や聖術を発動すると、専門の技術者でなければ、魔石や聖石の交換ができない。


 つまり、バリアアクセサリーによる防御能力は、基本的には十回しか、冒険者は使えないのだ。

 バリアアクセサリーの魔石や聖石の交換技術を持つ、魔術士や聖術士が同行している場合であれば、話は別なのだが。


 ゲラルトが話しかけたパーティの冒険者達は、ブレスレット型やピアス型など、様々なバリアアクセサリーを装着していた。

 だが、その半分程は、既に魔石や聖石を失っているので、使用済みであるのが分かるのだ。


 バリアアクセサリーだけでなく、軽装の鎧も破損しているし、標準戦闘服などの戦闘用の服装も、破れている部分があった。

 パーティの冒険者達が、第一階層での戦いで、結構消耗してしまっているのは、ゲラルトの目には明らかだった。


 シェルスクエアには、ゲラルトを含めて、三人のバウンサーが配置されていた。

 この三人の役目は、下の階層に下りない方がよさそうな者達に、下りないように警告することなのである。


 冒険者の八掟に反しない限り、冒険者の自由を尊重するのが、パブリックハウスの掟。

 それ故、強制する訳ではない、あくまでも危険だと、警告するだけに止まるのだが。


「皆様の消耗度合いを見る限り、本日……第二階層以下に下りるのは、かなり危険と思われます」


 かなり年下の相手なのに、ゲラルトは丁寧な口調で続ける。


「……ですので、ここで引き返すことを、お勧めする訳です」


「何で俺達にだけ、そんなこと言いやがるんだ? 他の連中は、素通りさせてるくせに!」


 自分達だけ引き返すように言われたことが、不満なのだろう。

 赤い標準戦闘服の青年は、ゲラルトに食ってかかる。


「そんなに俺達が弱く見えるのか? 舐めてやがんのか俺達を!」


「いや、そういう訳では……」


「あんなガキですら素通りさせてるのに、俺達に引き返せなんて言いだすのは、いくらなんでもおかしくねぇか?」


 赤い標準戦闘服姿の青年の隣にいた、青い標準戦闘服姿の青年が、斜め前にいる寧人に気付き、ゲラルトに問いかけた。

 金髪のショートヘアーに褐色肌の、槍を手にしている青年だ。


(あ、何か……とばっちりが来そうだから、さっさと先に行った方がよさそうだ)


 面倒ごとに巻き込まれるのは、御免だと考えた寧人は、ゲラルト達の方を見るのを止めて、再び連結孔に向かって歩き始める。

 そんな寧人の耳に、ゲラルトの声が飛び込んで来る。


「彼は……消耗した様子が、ありませんでしたので」


「消耗とか以前に、あれガキじゃねえか! あんなガキが、俺達より強いとでも思ってんのか?」


「正直申しますと、その通りです。あの子供の着ている服は……」


 やや遠慮がちな、ゲラルトの返答を、最後まで聞きもせず、ゲラルトに呼び止められていた、四人組のパーティの面々は笑いだす。


「馬鹿馬鹿しい! 冗談に付き合ってる暇はねぇんだよ! オッサン!」


 赤い標準戦闘服の青年は、そう言い放つと、ゲラルトの脇を通り過ぎ、先へと進んで行く。


「見る目がないにも、程があるだろ!」


 青い標準戦闘服の青年も、ゲラルトを通り過ぎつつ、言葉を続ける。


「こんなオッサン雇っていて、大丈夫なのか、サウダーデのパブは?」


 残りの二人は、特に何も言わず、ゲラルトに一礼しつつ、他の二人の後に続く。

 前を行く二人とは違い、やや迷っている感じの、複雑な表情を浮かべつつ。


 ゲラルトの返答は、近くにいた冒険者達の耳にも届いていた。

 殆どの冒険者達は、「何を馬鹿なことを言っているんだ?」とばかりに、ゲラルトのことを笑っていた。


 パブリックハウスは冒険者の意志を尊重するので、警告はするのだが、警告を受け入れない冒険者を、止めたりはしない。

 ゲラルトからすると、本心では無理にでも止めたいのだが、それはパブリックハウスの掟に反するのだ。


「……最近の若い連中は、武仙幇を知らないから困る。あの服装を見れば、俺達の世代なら、子供相手でも侮りはしないんだが」


 困り顔で愚痴を吐いた後、ゲラルトは続ける。


「それにしても、武仙幇に新人が入ったという噂、事実であったか。十字星教の連中も増えつつあるし、揉めなければいいのだが……」


 そう呟いた後、ゲラルトは気を取り直し、仕事を再開する。

 また冒険者のパーティがいくつも近付いて来たので、チェックしなければならないのだ。


 その頃、寧人は連結孔の周囲に辿り着き、円形の連結孔を覗き込んでいた。

 連結孔には様々な種類があるのだが、浅い階層を繋ぐ連結孔は、大抵は斜めのトンネル風であり、寧人が覗き込んでいるのも、そのタイプだ。


 寧人は連結孔の中に足を踏み入れ、トンネルの坂を下りていく。

 かなりの急勾配であり、アガルタイズで一杯になったリュックを背負い、上ってくる苦し気な採掘者の姿もある。


 高さにして三十メートル程下りた辺りで、連結孔のトンネルは終わり、寧人は開けた空間に出る。

 寧人は第二階層に、辿り着いたのだ。


 連結孔を下りていた頃から、下から砂が舞い上がってきていたのだが、第二階層は砂だらけであった。




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