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第53話 結構キツイ罰の時もあるからな……達成しないと

(氣膜で防げる程度の攻撃しかできない、ピープスケルトン相手に、硬身功を使うかどうか迷った時点で失敗だな)


 寧人は自分の戦いを分析する。


(氣の無駄遣いを避けなきゃならないのに、雑魚相手にまで氣を消耗する內功を使ってちゃ駄目なんだから)


 アガルタでの実戦修業は、ただ命の危険がある実戦を経験すればいい訳ではない。

 氣を上手い具合に温存しつつ、長時間に渡って、戦い続けられるようになる為の修行でもある。


 崑崙のドラゴンの軍勢は、数が多い。

 それに比べて、ドラゴンと戦える戦力は、数が少ないのが現実。


 多数のドラゴン相手に、連戦し続けなければならないのが、ドラゴンを相手にする武仙の戦い方といえる。

 氣の力を、飛躍的に高めるのは当然として、その上で氣の使い所を覚え、無駄遣いをしないようにしなければ、ドラゴン達相手の連戦を、勝ち抜き続けることはできない。


 アガルタでの修行は、足りな過ぎる実戦経験を積むのが、メインの目的である。

 だが、長時間に渡る多数の戦いを経験し、氣の使い所を覚え、温存する戦い方を身につけるのも、目的の一つなのだ。


 それ故、寧人は夢琪から、三つの目標をアガルタで達成するように、命じられている。

 第六階層まで下りること、ガーディアンを百体以上倒すこと、最短でも六時間アガルタに滞在し続けること……というのが、三つの目標である。


「でも、目標を達成できなかったら、罰が待ってるからな!」


 アガルタに下りる前、ヘルガに寧人は、こんなことを言われていたが、この発言にあった「目標」が、三つの目標のことだったのだ。

 ヘルガの発言通り、目標を全て達成しないと、寧人は夢琪達から、罰を受けることになっている。


(結構キツイ罰の時もあるからな……達成しないと)


 武仙幇の修行では、設定された目標を達成できないと、罰を受ける場合があり、これまで寧人は何度も罰を受けている。

 本当にキツイ罰なので、寧人としては罰を受けるのは、極力避けたいのだ。


 最初の戦いを反省し、寧人は警戒を怠らず、前進を続ける。

 そして程なく、寧人は再び聞き覚えがある、水音に似た音を耳にする。


(またピープスケルトンか!)


 音が聞こえる方を向くと、路面が水面のように波打ち、ピープスケルトンが出現する光景が、寧人の目に映る。


(今回は八体、さっきより多いが……硬身功は不要!)


 寧人は迷わずに、氣膜だけで戦うことを決意。

 ピープスケルトンを迎え撃つべく、寧人は身構える。


 出現した八体のピープスケルトンは、寧人を包囲しようとするような動きを見せる。


(また取り囲むつもりか?)


 寧人は包囲されないように、背後に回り込もうとするピープスケルトンとの間合いを、一瞬で詰める。

 そして、寧人は右手の掌打で、ピープスケルトンの頭部……髑髏の部分を狙う。


 素早い寧人の動きに、ピープスケルトンは対処できない。

 一撃で急所の髑髏を粉々に砕かれてしまい、ピープスケルトンは、黒い煙と化しながら、砕け散った髑髏の破片と共に、幻であったかのように消滅する。


(あと七体!)


 寧人は機先を制し、自分を取り囲もうとするピープスケルトン達を、次々と撃破していく。

 ピープスケルトン達の剣は、空を切り続けるのだが、寧人の手足は着実に、髑髏や背骨を破壊し続ける。


 数で勝るピープスケルトンなのだが、スピードもパワーも寧人の方が圧倒的に上なのだ。

 迷わずに冷静に対処できれば、八体だろうが寧人の敵ではないのである。


 八体目のピープスケルトンの背骨を、寧人は右の後ろ回し蹴りで粉砕。

 黒い煙に変えて消滅させ、八体のピープスケルトンの殲滅を終える。


 全てのピープスケルトンを秒殺したので、八体を倒し終えるまで、寧人は一分もかけていない。

 しかも、氣膜による僅かな防御能力の打撃力の強化と、氣による身体強化と体術のみで、完勝したのである。


(今回は上手くいったな。この調子なら、ガーディアンを百体以上倒す目標は、達成するの……難しくなさそうだ)


 アガルタイズを拾い集めながら、寧人は心の中で呟く。

 そして、すぐに前進を再開した寧人は、今度は別のガーディアンに遭遇する。


 ピープスケルトンと同様に、水音と共に現れたのだが、今度はスケルトンではなかった。

 緑色のゲル状の粘液が地面や壁面、そして天井から、次々とシャワーや噴水のように噴出し始めたのだ。


 洞窟内に姿を現した粘液は、すぐに寄せ集まって一体化し、小型のトラック程の大きさがある、アメーバーの如き存在となった。

 かなりの大きさであり、寧人は驚きの声を上げる。


「ピープスライムか!」


 大きなアメーバーのようなモンスターやガーディアンが、スライムである。

 スライムの中でも、「ピープ」する性質があるのが、ピープスライムなのだ。


 ガーディアンの中ではピープスケルトンと同様に、雑魚といえる部類。

 ただ、打撃技が余り効かない性質があるので、氣や奥拉オーラを放出する攻撃、魔術や聖術による遠距離攻撃で倒すのが、基本とされている。


 氣膜や硬身功により、氣を纏う手足による打撃技でも、表面部分を破壊することはできる。

 ただ、身体が大きいピープスライムの場合、そんな倒し方をしていたら、時間がかかり過ぎてしまうのだ。


 寧人は基本通り、氣による攻撃で倒すべく、右掌に氣を集め始める。


(あ、でも……スライムの移動速度は、大して速くないから、ここで氣を使うより、逃げた方がいいのかな?)


 ふと、そんな疑問が頭に浮かび、判断に迷った寧人の動きが鈍る。

 そのせいで、倒せた筈のスライムによる攻撃への対処が、寧人は遅れてしまう。




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