ちなみに、氣膜は硬身功に比べると、防御能力が低いだけでなく、痛みを軽減する能力がない。
故に、本当に切られたかのような激痛に、寧人は苛まれたのだ。
それに、着衣を保護する能力も、氣膜にはないので、功夫服の左袖の辺りが切断されてしまっている。
硬身功であれば、痛みを軽減する能力があるので、感じる苦痛は数分の一で済むし、功夫服も保護されていたのだが。
左腕に覚えた激痛のせいで、寧人は自分の判断の遅さを自覚する。
後悔は後回しにして、すぐさま寧人は気を引き締める。
寧人は即座に軽く跳躍すると。右脚を伸ばして時計回りに回転しながら、蹴りを放つ。
硬身功や氣膜には、防御能力を引き上げるだけでなく、実は打撃力を強化する能力がある。
打撃力の強化能力に関しても、氣膜は硬身功に遠く及ばない。
だが、寧人は仙人となり、かなり身体能力が上がっている。
しかも、寧人は氣を流すことにより、身体能力を更に引き上げているし、震天動地の技も身に着けている。
そんな寧人の打撃技には、硬身功を使わずとも、相当な威力がある。
故に、寧人の旋風脚を食らった剣は、甲高い金属音を響かせつつ、全て叩き折られてしまう。
(ピープスケルトンは、髑髏か背骨のどちらかを砕けば、倒せるんだったな!)
基本的なガーディアンの弱点は、寧人の頭の中に入っている。
旋風脚の衝撃で、剣を破壊されただけでなく、体勢を崩しているピープスケルトン達に、寧人は素早い動きで襲いかかる。
寧人は次々と、掌による攻撃である
強烈な打撃技が、次々とピープスケルトンの髑髏と背骨を、粉々に打ち砕いていく。
あっという間に急所を砕かれた五体のピープスケルトンは、動きを止めると、黒い煙と化しながら、砕け散った骨の破片と共に、幻であったかのように消滅してしまう。
大抵のガーディアンやモンスターは、倒されると全身が黒い煙となって、消え失せてしまうのだ。
「……倒せたんだよな?」
寧人は自問しつつ、アガルタイズを探す。
ガーディアンは倒されると、姿を消すだけでなく、アガルタイズを残す筈なのだ。
アガルタイズを残していないのなら、それは倒していないことになる。
逃げたか、どこかに身を隠している可能性がある。
警戒を解かずに、寧人はピープスケルトン達が消えた辺りで、アガルタイズを探す。
すると、米粒程の大きさの黒い石のような物を、寧人の目は見付けだす。
「これか……こんなに小さいのかよ!」
寧人は驚きの声を上げつつ、黒い小石のようなアガルタイズを、拾い上げる。
武仙幇において、ガーディアンを倒すと手に入る、本物のアガルタイズを、寧人は見せられていた。
それ故、小さな粒の独特の質感から、それがガーディアンを倒した結果、手に入るアガルタイズだと分かったのだ。
ただ、武仙幇で見せられたアガルタイズは、もっと大きい物だったので、寧人は驚いたのだった。
米粒程のアガルタイズは、合計五つ落ちていた。
寧人はようやく、五体のピープスケルトンを倒したのを確信し、硬身功を解除する。
「強いガーディアン程、手に入るアガルタイズは大きいって言ってたな。ピープスケルトンは雑魚だから、アガルタイズが小さいんだろうけど、まさか米粒みたいに小さいとは……」
武仙幇で見せられたアガルタイズは、相当に強力なガーディアンを倒して、手に入れた物であったことに、寧人は今更になって気付く。
気楽な感じで見せられたのだが、ピンポン玉や野球ボール程の大きさがある、アガルタイズだったのだ。
ただ、小さいとはいえ、初めてガーディアンを倒し、アガルタイズを手に入れられたことに、寧人は素直に喜びを覚えた。
無論、初めてのアガルタでの実戦を、無事に勝利で終えた達成感も。
「黒いから、魔石のアガルタイズか」
アガルタイズには、魔石である黒い物と、他の特殊な性質を持つ、黒ではない色の物が存在する。
殆どのアガルタイズは魔石であり、フェルサ機関のエネルギー源や、様々な魔術のエネルギー源として、この世界で広く使用されている。
他の魔石ではないアガルタイズも、それぞれの特殊な性質を役立てる形で使われている。
ちなみに、魔石ではないアガルタイズは貴重であり、魔石よりも取引価格は遥かに高い。
「魔術系の術が使えれば、役に立つんだろうけど、俺には用無しなんだよな……」
左掌に載せたアガルタイズを見ながら、寧人は続ける。
「ま、でも……これはとっておこう」
寧人は功夫服の内側にあるポケットに、アガルタイズを仕舞う。
初めて自力で手に入れたアガルタイズを、これから手に入れるだろう、他のアガルタイズとは、分けて持ち歩くつもりで。
そして、寧人は再び、洞窟の中を進み始める。
(……考えてみたら、初めて倒せたなんて……浮かれていられるような、戦いじゃなかったな)
寧人は歩きながら、経験したばかりの、初めてのアガルタでの実戦を、振り返ってみる。
(ピープスケルトンは素早かったが、俺よりは遅過ぎる。迷わずに……すぐに回避に入っていれば、攻撃を食らうことなしに、余裕で倒せた筈だ)
迷って判断が遅れたせいで、寧人は回避が遅れ、ピープスケルトンの一撃を躱し損ない、左前腕を切り付けられてしまった。
氣膜のお陰で負傷はしなかったのだが、これは明らかな失敗と言えた。