目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第52話 ……考えてみたら、初めて倒せたなんて……浮かれていられるような、戦いじゃなかったな

 ちなみに、氣膜は硬身功に比べると、防御能力が低いだけでなく、痛みを軽減する能力がない。

 故に、本当に切られたかのような激痛に、寧人は苛まれたのだ。


 それに、着衣を保護する能力も、氣膜にはないので、功夫服の左袖の辺りが切断されてしまっている。

 硬身功であれば、痛みを軽減する能力があるので、感じる苦痛は数分の一で済むし、功夫服も保護されていたのだが。


 左腕に覚えた激痛のせいで、寧人は自分の判断の遅さを自覚する。

 後悔は後回しにして、すぐさま寧人は気を引き締める。


 寧人は即座に軽く跳躍すると。右脚を伸ばして時計回りに回転しながら、蹴りを放つ。

 旋風脚せんぷうきゃくという回転蹴りで、周囲にいたピープスケルトンの剣を、寧人は片っ端から蹴り飛ばす。


 硬身功や氣膜には、防御能力を引き上げるだけでなく、実は打撃力を強化する能力がある。

 打撃力の強化能力に関しても、氣膜は硬身功に遠く及ばない。


 だが、寧人は仙人となり、かなり身体能力が上がっている。

 しかも、寧人は氣を流すことにより、身体能力を更に引き上げているし、震天動地の技も身に着けている。


 そんな寧人の打撃技には、硬身功を使わずとも、相当な威力がある。

 故に、寧人の旋風脚を食らった剣は、甲高い金属音を響かせつつ、全て叩き折られてしまう。


(ピープスケルトンは、髑髏か背骨のどちらかを砕けば、倒せるんだったな!)


 基本的なガーディアンの弱点は、寧人の頭の中に入っている。

 旋風脚の衝撃で、剣を破壊されただけでなく、体勢を崩しているピープスケルトン達に、寧人は素早い動きで襲いかかる。


 寧人は次々と、掌による攻撃である掌法しょうほうや、拳による攻撃の拳法けんぽう、蹴り技である腿法たいほうを繰り出す。

 強烈な打撃技が、次々とピープスケルトンの髑髏と背骨を、粉々に打ち砕いていく。


 あっという間に急所を砕かれた五体のピープスケルトンは、動きを止めると、黒い煙と化しながら、砕け散った骨の破片と共に、幻であったかのように消滅してしまう。

 大抵のガーディアンやモンスターは、倒されると全身が黒い煙となって、消え失せてしまうのだ。


「……倒せたんだよな?」


 寧人は自問しつつ、アガルタイズを探す。

 ガーディアンは倒されると、姿を消すだけでなく、アガルタイズを残す筈なのだ。


 アガルタイズを残していないのなら、それは倒していないことになる。

 逃げたか、どこかに身を隠している可能性がある。


 警戒を解かずに、寧人はピープスケルトン達が消えた辺りで、アガルタイズを探す。

 すると、米粒程の大きさの黒い石のような物を、寧人の目は見付けだす。


「これか……こんなに小さいのかよ!」


 寧人は驚きの声を上げつつ、黒い小石のようなアガルタイズを、拾い上げる。

 武仙幇において、ガーディアンを倒すと手に入る、本物のアガルタイズを、寧人は見せられていた。


 それ故、小さな粒の独特の質感から、それがガーディアンを倒した結果、手に入るアガルタイズだと分かったのだ。

 ただ、武仙幇で見せられたアガルタイズは、もっと大きい物だったので、寧人は驚いたのだった。


 米粒程のアガルタイズは、合計五つ落ちていた。

 寧人はようやく、五体のピープスケルトンを倒したのを確信し、硬身功を解除する。


「強いガーディアン程、手に入るアガルタイズは大きいって言ってたな。ピープスケルトンは雑魚だから、アガルタイズが小さいんだろうけど、まさか米粒みたいに小さいとは……」


 武仙幇で見せられたアガルタイズは、相当に強力なガーディアンを倒して、手に入れた物であったことに、寧人は今更になって気付く。

 気楽な感じで見せられたのだが、ピンポン玉や野球ボール程の大きさがある、アガルタイズだったのだ。


 ただ、小さいとはいえ、初めてガーディアンを倒し、アガルタイズを手に入れられたことに、寧人は素直に喜びを覚えた。

 無論、初めてのアガルタでの実戦を、無事に勝利で終えた達成感も。


「黒いから、魔石のアガルタイズか」


 アガルタイズには、魔石である黒い物と、他の特殊な性質を持つ、黒ではない色の物が存在する。

 殆どのアガルタイズは魔石であり、フェルサ機関のエネルギー源や、様々な魔術のエネルギー源として、この世界で広く使用されている。


 他の魔石ではないアガルタイズも、それぞれの特殊な性質を役立てる形で使われている。

 ちなみに、魔石ではないアガルタイズは貴重であり、魔石よりも取引価格は遥かに高い。


「魔術系の術が使えれば、役に立つんだろうけど、俺には用無しなんだよな……」


 左掌に載せたアガルタイズを見ながら、寧人は続ける。


「ま、でも……これはとっておこう」


 寧人は功夫服の内側にあるポケットに、アガルタイズを仕舞う。

 初めて自力で手に入れたアガルタイズを、これから手に入れるだろう、他のアガルタイズとは、分けて持ち歩くつもりで。


 そして、寧人は再び、洞窟の中を進み始める。


(……考えてみたら、初めて倒せたなんて……浮かれていられるような、戦いじゃなかったな)


 寧人は歩きながら、経験したばかりの、初めてのアガルタでの実戦を、振り返ってみる。


(ピープスケルトンは素早かったが、俺よりは遅過ぎる。迷わずに……すぐに回避に入っていれば、攻撃を食らうことなしに、余裕で倒せた筈だ)


 迷って判断が遅れたせいで、寧人は回避が遅れ、ピープスケルトンの一撃を躱し損ない、左前腕を切り付けられてしまった。

 氣膜のお陰で負傷はしなかったのだが、これは明らかな失敗と言えた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?