寧人の場合は、ガーディアンと戦い修行することが目的なので、そもそも稼ぐことが目的ではなかったりする。
(確か、第二階層への
寧人は一応、リュックからパブレティンを取り出し、ルートを確認した上で、進むべき通路を確認。
通路の出入り口を目指して、寧人は歩いていく。
通路の大きさは、アガルタに下りるトンネルに比べれば小さいが、狭くなっている部分でも、余裕で二車線の車が通れる程度の大きさがある。
通路の周囲の岩のあちこちが、照明のように白く光っているので、薄暗い程度の明るさは保たれている。
アガルタイズには、魔力に触れると反応し、光を放つ性質がある。
アガルタ内部の空気には、微量の魔力が含まれているので、通路やホール……地下空洞の表面に露出しているアガルタイズが発光し、照明として機能する。
光が強い場所は、多くのアガルタイズが存在する可能性が高いので、採掘者は明るい場所を探し回る場合が多い。
この辺りは、既に採掘済みであり、壁のあちこちに穴が開いていて、採掘者達の姿はない。
ちなみに、移動し難くならないように、路面の採掘は禁止されている。
アガルタには自動修復機能が存在するので、採掘されたアガルタは、数日で修復されて元通りになり、また採掘できるようになる。
寧人と前後して、他の冒険者達も、同じ通路に足を踏み入れていた。
だが、途中にあった分かれ道で、、別のルートを選んだのか、他の冒険者達の姿は、既に寧人の周囲にはない。
ただ、時折……前方から剣戟の音や爆発音、威勢のいい声などが響いてくる。
何らかの戦闘が、洞窟の前方で行われているのだ。
(ここは、ガーディアンが出る、命懸けの実戦が行われてる場所なんだ)
遠くからの音を聞いて、寧人は改めて自覚する。
自分がガーディアンが現れる、危険な場所にいることを。
直後、水が弾けるような音を、寧人は聞き取る。
音が聞えてきたのは、背後からだったので、寧人は焦って振り返る。
すると、地面の中から、大きな剣と盾を手にした骸骨が、姿を現し始めていた。
まるで地面が水面であるかのごとく波打ち、プールの中から人が出てくるかのように、骸骨が出現したのだ。
水音だと寧人が思ったのは、地面が水面のように揺れて立てた音だった。
「……ピープスケルトン!」
初めて目にする本物のガーディアンの名が、思わず寧人の口を吐いて出る。
ピープスケルトンは、アガルタに出現する基本的なガーディアンの一種として、武仙幇で教わっていたので、寧人は知っていたのだ。
ピープとは「湧き出る」や「覗く」といった意味合いの言葉で、スケルトンとは、動き回る骸骨のガーディアンやモンスターのことである。
地面や壁面、天井から湧き出るように出現したり、地面や壁から頭を覗かせている時、覗きをしているように見えることから、ピープスケルトンと命名されたらしい。
スケルトンの他にも、同様の現れ方をするガーディアンには、ピープという言葉が名称に付いている場合が多い。
大抵はレベルの低いガーディアンであり、浅い階層によく現れると、寧人は夢琪達に教わっていた。
ガーディアンには十段階のレベルが設定されていて、レベルの数字が多い……レベルが高い程、基本的には強い。
そして、浅い階層にはレベルが低いガーディアンしか出現しないが、階層が深くなるにつれて、レベルが高いガーディアンが出現する頻度が上がる。
第一階層に出現するのは、最弱といえるレベル1のガーディアンが、殆どなのである。
殆どということは、全てではない訳で、階層数に合わないレベルのガーディアンも、僅かではあるが出現するのだ。
同じレベルのガーディアンであっても、その戦闘力には、かなりの差がある。
ピープスケルトンはレベル1なのだが、その中でも最弱の部類であり、ガーディアンの中では雑魚として扱われている。
こういった、ガーディアンに関する知識は、洞天福地で座学の時間に、寧人は教えられている。
(いきなり五体か!)
雑魚だと教えられていても、寧人にとっては初めて相手をする本物のガーディアン。
しかも、いきなり五体も現れ、明らかに殺傷力がありそうな剣を、自分に向けているのだから、寧人は焦ってしまう。
(どうしよう? ここは硬身功か? いや、でも硬身功なんてなしでも倒せる雑魚だって、梁師が言ってた気が……)
寧人が迷っている間に、ピープスケルトン達が襲いかかってくる。
ピープスケルトン達は素早い動きで、寧人を取り囲むように展開すると、手にした剣で斬りかかる。
迷っていたせいで、判断が遅くなり回避も遅れ、寧人は全ての攻撃を躱し切れない。
四体の攻撃を回避したのだが、一体の攻撃を、左前腕に食らってしまう。
(痛っ!)
激痛が走るが、寧人は傷は負わず、出血もしていない。
常に発動状態の氣膜のお陰で、傷を負わずに済んだのだ。
(確かに、硬身功を使う必要はないみたいだな)
雑魚であるピープスケルトンの攻撃程度に、硬身功は必要ない。
氣膜による防御だけで、十分に防ぎ切れるのである。